第7話 職業
ワーズ司教に言われた通りに、出されたオーブに右手をかざす。
するとオーブは淡い光を放つ。
「おお!おめでとうございます。どうやら職業の適性をお持ちの様ですね」とワーズ司教が説明してくれる。
チラリと後ろにいる両親を見ると、嬉しそうに微笑んでいる。
「では、今度は両手で包み込む様にオーブ御触れ下さい。触れる時は自身の内に秘めるものを解き明かす様に」
言われた通りに両手でオーブに触れる。
するとより一層オーブの輝きが増す。
「おお!どうやら貴方は三職業の様ですね」
オーブには適性職業が表示される。
===適性===
●魔法剣士
●召喚士
●付与術士
=========
そしてオーブの光が身体の中へと入って来る。
すると身体の奥底から力が溢れて来る様だ。
それに三つの職業の使い方が、自然と頭の中に描かれる。
「お疲れ様でした。これにて儀式は全て終了です。この度はおめでとうございます」
漸く終わり案内された応接室で、紅茶とお菓子を出されて少しばかりゆったりとする。
「おめでとうアドノス」
「本当に目出度いわ!帰ったら早速お祝いの準備をし無くちゃいけないわね。こうなったら早く仕事を終わらせて来るわ!」とイザベラは興奮気味に捲し立てて、仕事に向かうと言って教会本部から早足で去って行った。
取り残された形のオトマールはハッとして「イザベラ!私も馬車を使うんだが!」と言って慌てて追いかけて行った。
そんな二人の様子を見てアドノスは「はぁ。相変わらず母様はそそっかしいな」と苦笑する。
室内にはメイドと護衛だけが残された。
「仕方がない。歩いて帰るかな」とアドノスが言うと、メイドが「すぐに馬車をご用意致しますが?」と聞いて来る。
「いや、せっかくの王都に来たのだ。見聞を広めるために歩くのも一興だ。何貴様の足腰が弱くて付いてこれないのなら、大人しく馬車で屋敷に帰るが良い」と相変わらず両親が居なければ、尊大で傲慢な口調になるアドノスである。
だが、アドノスは口調は悪いが決して悪い人では無く、寧ろ此方の体調を気遣って言ってくれている事を、長年ラドフィード侯爵家に使えている使用人達は理解している。
それに領民の為に便利な道具を作ったりとしていることも知られているので、領民からの評価も高くその秘密をちゃんと黙っている。
他領からのアドノスの評価は、傲慢な性格で愚鈍な子供の評価だが、アドノスは敢えてその様な評価を変えようとはしない。
その方が今は何かと好都合であるからだ。
「いえ、大丈夫で御座います。お気遣いありがとうございます」
「ふん」と照れ隠しの様にそっぽを向いてアドノスは歩き出す。
その光景を微笑ましそうに、お付きのメイドや護衛は、口元に笑みを浮かべて付いていく。
教会本部を出たアドノスは東側にある職人が多くいる地区に向かう。
本当はすぐにでも、新しく手に入れた三つの力を試して見たいところだが、そうすると子供っぽくていやなので、また後でする事にした。
それに今回職人地区に行くのはある目的の為である。
(確か職人地区に今後重要になるキャラが居るはずだったな。確かまだ王都に居たはずだ)
教会本部から東側の職人地区には右に歩けば良いが、王都は広いので時間が掛かる。
例えば、南側から北側に行くには二番街を真っ直ぐに通り抜けその後は一番街、王城を抜けた方が早いが、それは許可証があるものしか出来ない。
更に王城には殆どの者が通れないので、一番街を通れる者はそこから西か東回りのルートを選ぶ。
だが、殆どの者は二番街や一番街を通り抜けることは出来ないので、東回りか西回りで行かねばならない。
この様に以外と面倒くさくはあるが、王都の構造上仕方がないと言えるだろう。
王都は王城を中心に円状に広がっている為に、仕方がない事である。
そうやって時間を掛けて、アドノスと御付きのメイド二人に護衛8名は30分近く歩いて、漸く職人地区の端に到着した。
アドノスの目的地である鍛冶屋は、南側寄りなので此処からそれほど遠くない位置にある。
暫くすると廃れた感じのある一軒の鍛冶屋に到着した。
此処の店主の息子は、将来的に優秀な鍛冶師になりレジスタンスの主要キャラクターの武器防具類を手掛ける存在である。
後半は主人公パーティーの武器や防具を作ったりして、沢山のキャラクターを支える八面六臂の大活躍を演じる縁の下の力持ちである。
(確か元々腕の良い鍛冶師の親父の息子で、その親父が病気を患いその治療費の為に借金をしたが、運悪く達の悪い連中に借金を作る事になったんだよな。その借金をした奴らの裏には悪徳な下級貴族が付いていて、王都の店を畳む事になり暫くは家族揃って放浪の旅に出て、その途中で親父の病気が悪化して亡くなり、大の貴族嫌いになったんだよな。それでレジスタンスに共感して加わったんだよなり加わった迄の詳しい経緯などは描かれてないから知らないけどね。だから何としても味方に加えたいところだけど、借金をして追い出された時期は詳しくは描かれてないから不安だな。まだ居るだろうか?)
廃れた感じの鍛冶屋を見ながら不安に思う。
護衛の一人が「潰れかけって感じの店ですな。アドノス様武器を御所望ならばオススメの武器屋がありますが、御案内致しましょうか?」
今回王都での護衛の中には、王都の屋敷に駐在している者も混じっている。
広大な王都で迷わない為にだ。
「いや、不要だ。行くぞ」
人の気配はしなさそうなので、違う場所に向かおうと踵を返して歩き出した時、ガッシャーン!と大きな音がした。
振り返ると中から成人したての15.6歳頃のまだ少年の幼さが滲み出る、青年が店から吹っ飛んで来た。
護衛達が腰の剣の柄に触れて、アドノスを囲む様に警戒態勢を取る。
店の中からチンピラ風の3人の男達が現れる。
「金が払えねぇだ!そんなの知るか!どうにかして揃えろや!」
「そ、そんなの無茶だ!それに借りた金の利子がおかしいぞ!借りた時にはそんなの書いてなかったぞ!」
「なに言ってんだ!ちゃんと此処に書いてあるだろう?」
そう言って男が出す書類の端に小さく、豆粒よりも更に小さく書かれていた。
「嘘だ!そんなの最初から書かれてなかったぞ!後で付け足したんだろうが!」
「うるせぇ!さっさと払うか立退くかしろや!」
「どうしますかアドノス様?」と護衛の一人が問い掛けて来る。
「見ていろ」
そう言ってアドノスは一人で青年とチンピラ達の元へと歩いて行く。
「んだ?餓鬼邪魔だどっかいけ」
「ピーピーと囀るな。目障りだ。3秒やる消え失せろ」
そう言うと、最初はまさか子供に反抗された上に、口汚く罵られるとは思って居なかったのか、ぽけっとしていた男達は意味を理解するにつれて、頭に血が上ったのか顔が真っ赤になる。
「何だ?もしや言葉もわからないほどに低脳なのか?これは参ったな。言語の通じない蛮族にはどうすれば良いのやら」と更に馬鹿にした態度を取る。
遂にひとりのチンピラはキレてアドノスに殴り掛かる。
「死ねぇ!クソガキが!」
男の丸太の様に太い右腕が、アドノスの顔に目掛けて振るわれる。
それをアドノス片手一本で受け止める。
まさか自身の腰ほどの高さしか無い、子供の細腕で受け止められるとは思わなかったのだろう。
殴り掛かった男や後ろのチンピラ達は呆けた表情をしている。
冷静にアドノスの服装を観察すれば、アドノスが何処ぞの貴族の子息だとわかったのだろうが、頭に血が上り冷静な判断が下さなかった男達に未来は無い。
アドノスが何か言うよりも早く、護衛達は動きチンピラ達を取り押さえて居た。
護衛はアドノスの訓練の様子で実力をある程度知っているので、今まで手を出さなかったのである。
いきなり取り押さえられた男達は困惑する。
困惑するチンピラ三人の前に、護衛隊の隊長であるゲイグが前に出る。
「お前達はラドフィード侯爵閣下の御子息である。アドノス様に手を出したのだ。ただで済むと思うなよ」とドスのきいた声で宣言する。
暫くすると部下の一人に呼びに行かせた、警備兵が大挙して押し寄せて来た。
それもそのはずである。
ラドフィード侯爵家は押しも押されぬ大貴族であり、クロッカス王国で一、二を争うほどの大貴族中の大貴族であるのだから。
オトマールのさじ加減一つで、この区画の警備担当だけでなく、職人地区の警備隊の指揮官の進退一つ自在に操る事が出来るのだから。
壮年の隊長と思わしき人物が、アドノスの前に来て深々と頭を下げる。
「この度は我々の目が行き届かず、御身を危険な目に合わせてしまい。誠に申し訳ありませんでした」と言い後ろの部下達も頭を下げる。
「ふん。まあ、すぐに駆けつけて来たのは及第点をやろう。それとこいつらの持っていた借用書におかしな点が多々ある。こんなのが蔓延って居れば、おちおち街を歩く事もままならん。即刻排除せよ」と命令口調で告げる。
「はっ!すぐに対処致します!」
そう言ってチンピラ三人を連行して行った。
そこで初めてアドノスは倒れていた青年に目を向ける。
「あ、ありがとうございました!」
「ふん。貴様の為ではない。ただ単に俺の視界に映った不快な存在を排除したまでだ」
「それでも僕にとっては有り難い事です!是非お礼を!と言いたいところですが、残念ながら店は見ての通りの有様ですので、碌にお出しする物もありません」と最後の方は尻すぼみになって行く。
「これも何かの縁だ。話だけでも聞いてやる」
「あ、ありがとうございます」
青年の店に招き入れられる。
店の中にはベットで横になっている、青年の父親とそれを看病する母親の姿がある。
「マット。騒がしかったけどまた例の奴らが来たのね?」と青年マットの母親が心配そうにマットに声を掛ける。
「大丈夫だよ。これからはあいつらの心配はしなくても良いよ母さん」
「それはどういう事なの?」と怪訝そうな顔をするマットの母親。
「こちらのアドノス様が助けて下さったんだ」
「アドノス・ラドフィードだ。小うるさいハエを追い払ったに過ぎん。そう言えば旦那が重病らしいな。今うちの領地では職人の手がいくらあっても足りん。治療してやる代わりに領地に住め。治療費は気にせんで良い」と入って早々に挨拶もろくにせずに、アドノスは要件を告げる。
いきなりの展開に追いつけないマットと母親を尻目にアドノスは「わかったらさっさと荷物を纏めろ。後程部下を寄越す」と一方的に告げて去ろうとする。
そこへマットの父親が声を掛ける。
「ま、待ってくだせぇ。貴族様。何故あっしの様なしがないただの鍛冶屋の親父にそこまで良くして下さるので?」
"お前の息子が将来的に優秀な鍛冶師になるからだ"とは勿論言えずに「ふん。ただの気まぐれだ。貴様らは黙って首を縦に振れば良い」とだけ言い残して、本当に去ってしまった。
その後の残された三人にメイドの一人がこの後の予定を告げる。
「アドノス様は一度こうと決めれば突き進むお方です。悪いようにはしないでしょう。ちゃんと治療も施してくれて、新しい店も出させてくれるでしょう。また後程ラドフィード侯爵家の者を派遣しますので、それまでに荷物を纏めていて下さい」
「な、何故!なんの縁もゆかりもない私達家族を助けて下さるのですか!?」
「アドノス様は、口は悪いですけど本当はとても優しい方です。領民の為に便利な道具などを考えて下さり、それを実際に作って下さいました。それに本当に今は領地の職人全般の数が足りない状態です。本当に一人でも多くの職人の方をお招きしたいのです。それで偶々ここを通った時に先ほどの光景を目にしまして、アドノス様がお助けになられたのです。勿論断ったとしてもアドノス様はお気を悪くなさらないと思います。では、私もそろそろ追いかけませんと行けないので、ここらで失礼させて頂きます」
優雅に一礼してからメイドはアドノスの後を追い掛ける。
残された彼等は暫く唖然としていたが、その後感謝の言葉を涙ながらにアドノスが去った方向を向いてした。
暫くしてからこの話は広まり、ラドフィード侯爵領に移住を希望する人が増え、職人の勧誘も容易になる副次効果をもたらした。
さて、色々な所に行った後は屋敷に戻った。
屋敷に戻ると早速、動きやすい服装に着替えてから庭に行く。
手に入れた魔法剣士・召喚士・付与術士の性能を試す。
訓練の相手はゲイグである。
茶髪青目の好青年な見た目であり、まだ26歳と若いながらラドフィード侯爵お抱えの騎士団の中でも、小隊長と有望な人材でありアドノスの護衛隊を率いる隊長である。
ゲイグは一職業の【騎士】である。
騎士は攻守併せ持つ職業で、特に防御力に定評のある職業で要人警護に当たる事が多く、護衛の中に一人は所持する職業であると言える。
「では行くぞ」
「ええ、何処からでも」
ふた回り近く年が離れているが、ゲイグは無断せずに訓練用の刃引きした鉄剣を構える。
ゲイグは普段からミュースとの稽古を見ているので、アドノスの実力が高いことを知っている。
更に職業を得た事で、更にアドノスの実力は上がっている事は容易に想像がつく。
対峙するアドノスも、ゲイグが若手一番の実力者である事周知の事実であるために、全力で行くつもりだ。
職業を得る前にも何度か手合わせをした事はあるが、勝てた事は未だに無い。
アドノスの職業の魔法剣士は上級職業であり、他の二つの召喚士と付与術士は希少職業である。
希少職業はなり手が少なく、全貌が判明していない希少な職業である。
先ず動いたのはアドノスである。
左手を前に突き出して手のひらを上に向ける。
「《召喚・武装した大鬼/サモン・アーマードオーガ》」
アドノスが呪文を唱えると地面に五芒星が浮かび上がる。
すると3メートル近い巨体を誇る、全身武装で身を固めた大鬼が二体出現した。
更にそこにアドノスは「《身体強化/フィジカルブースト》」と身体強化の付与魔法を掛ける。
「行け!」
アドノスが命じると、ドスンドスンと大きな巨体を揺らしながらゲイグに襲い掛かる。
大人と子供ほどの身長差である。
ゲイグは野生のモンスターであるオーガとは何度か戦った事はあるが、アドノスが召喚した武装したオーガとは戦った事は無いので、その強さを測りかねていた。
更に現在の装備は刃引きした鉄剣一本である。
本来なら剣と盾を装備しているが、訓練であるので盾を装備していない。
なのでゲイグはスキルを使用する。
「《硬化》」
体が岩のように硬くなる、防御力を上げるスキルである。
だが、弱点としてその場所から移動が出来なくなる欠点がある。
二体の武装オーガは大斧をゲイグ目掛けて振り下ろす。
ガキィイン!!と激しい鉄と鉄が打つかる音が辺りに響き渡る。
ゲイグは見事に二本の大斧を長剣で受け切った。
その隙にアドノスはゲイグの後ろに回り込み「《雷切》」鉄剣に雷を纏わせた魔法剣士のスキルを発動して斬りかかる。
ゲイグの反応速度よりも早くに剣が迫り、首筋付近でピタッと止まる。
「降参です」とゲイグは告げる。
スキルの発動を止めると、眩いばかりに光輝いていた鉄剣は元に戻り、武装オーガ二体も送還する。
「まあまあだな。もう少し馴染ませないと駄目だな」
「結構使い熟せて居ると思いますが?」
「ふん。貴様は盾を装備していなかったからな。本来の装備だと勝算はまだまだ低いな。それに今回は初見だからな。次からは何かしらの対処法を考えついている癖に何が、使い熟せているだ」
「いえ、本当に初日でそこまで御自身の職業を使い熟せているのは珍しいですよ」
「いや、まだまだこんなものでは駄目だな」
(ゲームだと、雷切の威力はもっとあった。それに身体強化のステータスの上がり幅も少ない。何よりも召喚出来たのが武装オーガが今のところ最高だ。盾ぐらいにはなるが強敵相手だと、紙同然だ。もっと強力な使い魔を召喚しなければ行けないな。まあ、最悪は数にものを言わせた物量戦術もあるが、そんなのは無駄に魔力を消費するだけだ。もっとレベルを上げないとな。だが、この世界にはレベルと言った概念が無いからな。ゲーム時代だと表記されていたが、此処では表記されていないから大体の目安しかわからないんだよな。まあ、そこはおいおい考えて行くしかないか)
「ゲイグ。もう少し付き合え」
「わかりました」
その後日が暮れるまでゲイグと何回も模擬戦を繰り返した。