第5話 王都クロッカス
朝食の席でオトマールはアドノスに「アドノス。そろそろ教会に行ってオーブを作ろうか。それにもしかしたら職業の適性があるかもしれないからね」
教会の本部は各国の首都に設置されており、其処で職業を与えられる。
各地にある教会は職業適性がある、子供を発見すると本部に通達して連れて行く。
魔物に対抗する為に一人でも多くの職業持ちが、必要な昨今は無料で与えているらしい。
昔は高額であったが、それで反発した国々により一度教会は滅びかけた事がある。
それらを反省してからは教会は職業適性者には分け隔てなく接する事になる。
「わかりました」
「心配しなくてもアーちゃんなら大丈夫よ」とイザベラが声を掛ける。
両親二人は職業持ちなのである。
「なら王都の教会に行くのですか?」
「そうしようと思う。序でに用事もあるからね。暫くは王都の屋敷に逗留するよ」
「わかりました」
■
数日後には王都までの準備が終わり、王都へ向けて出発する。
ラドフィード侯爵領から王都クロッカスまでは、約一週間の道のりである。
まあ、今は道も整備されているので2日は短縮出来る予定ではあるが、それ程急ぐ旅でも無いのでゆっくりと進む予定である。
途中の町でブラブラ観光しながらゆっくりと進む。
特に何事もなく無事に王都へと到着した。
まあ、護衛の騎士も致し何かあったとしても剣王のミュースも同行しているのだ。
仮に盗賊などが襲い掛かってきても、返り討ちにされるのがオチである。
まあ、王都近郊は治安が行き届いているので安心して旅が出来るので沢山の人を見かけた。
王都に入るのは貴族専門の門から通過して中へと入る。
それにしても流石は大国の一つに数えられるクロッカス王国の首都である王都だ。
五重の重厚な城壁に囲まれた要塞都市の様な堅牢さと、華やかさが見事に調和しま都市である。
近くには三本の川が流れており、水も豊富なであり土壌も肥えて居るので、野花が近くの丘一面に咲き誇り別名【花の都】と呼ばれており、クロッカス王国人なら死ぬ前に一度は訪れたい場所として有名である。
実際に観光名所となり他国からも人が訪れる程である。
元々王都クロッカスの城壁は三重であったが、都市の拡張に伴い増えて行ったのである。
それに建国当初は小さな国であり、此処は元々前線基地であった名残で、堅牢な都市に発展したのである。
遷都した都市はクロッカスから数週間先の場所にあり古都として知られている。
王都の構造は中心には王城があり、其処に王家の面々が住んでいる。
一番内側の城壁の中には、大貴族の屋敷と行政府や軍本部などが設置されている。
二番目の城壁の中には貴族の屋敷の他、大商店などの富豪などの屋敷もある。
三番目の城壁の中には、東側には職人地区があり、南側は教会関連の施設がある教会区、西側は軍関係の各種施設、北側は商店が立ち並ぶ商売地区である。
四番目の城壁の中には、東側が旅人などが泊まる宿などが集まる宿泊区、南側には沢山の食べ物などがある食堂区、西側にはこの街の市民が住まう住民区、最後の北側には各種ギルド支部や本部があるギルド地区である。
最後の五番目の城壁の中には、東側には畑などや沢山の果実を栽培する栽培地区、南側には沢山の倉庫が並ぶ倉庫地区、西側には貧民が集まるスラム地区、最後の北側には夜の世界が広がる花柳区がある。
この内三番目の城壁内までは、許可証が無くても出入り出来るが、二番目の城壁内には許可証が必要である。
そしてラドフィード一行が向かうのは一番目の城壁内にある屋敷である。
(ゲームで見るよりも実際に現実で見る方が凄いな。ゲームだと一部行けない場所も幾つかあったからな。それにしてもやっぱり凄い人の数だな。前の世界の方が人口は多いが、こっちの方が活気があるので余計に賑やかに感じるな)
そして何よりも違うのが、人々の見た目である。
(あっ!エルフがいるな!おっ!あっちにはドワーフが!)
そうこの世界には元の世界で言う人間である人族以外にも、数多くの種族がいるのである。
ラドフィード侯爵領にもエルフやドワーフなども居るが、流石は王都であるその数が数倍も違う。
王都の街並みを目と耳で楽しみながら、馬車は王都ラドフィード邸へと向かって進む。
確か王都にも幾人か重要人物らが居たな。
暇を見つけたら勧誘にでも行くかな。
馬車は進み二番目の城壁前の門前で、軽く検査と許可証を出す。
例えどれほどの地位に居ようと絶対であり、火急の使者でも一応軽く検査はされる。例外は王家ぐらいである。
二番目の城壁でもこれである。
一番目の城壁は更に検査が厳しいようである。
二番目の城壁内は二番街と呼ばれており、他の区画も三番目の城壁内なら三番街である。
時折巡回の兵士以外にも、ギルド所属の者と思われる者達が巡回している。
彼等は各貴族に個人的に雇われた者達であり、決められた場所をパトロールして異常が無いか確認して居るのである。
二番街を抜けて一番街の門前に到着する。
この先には重要施設が多い為に、警備も厳重であり二番目の様に衛兵では無く騎士が警備を担当して居る。
騎士は軒並み職業持ちである。
ラドフィード侯爵家は名門中の名門の大貴族だが、此処でもしっかりと検査を受けてから通される。
一々検査があり辟易とするが、それも仕方がない事だと納得して先へと進む。
漸く到着した王都ラドフィード侯爵邸は、両隣の屋敷と比較しても更に大きく、まるで要塞の様に警備も厳重であり、空堀や塀が所狭しと設置されて居る。
これは代々歴代の宰相や大将軍を輩出していた関係で、敵もおり暗殺から身を守る為である。
元々は此処まで厳重では無かったが、数代前のラドフィード侯爵が屋敷内で暗殺者に襲われた事が起因して居る。
その時のラドフィード侯爵は剣技に長けた人物であり、何とか難を凌ぎ警備の騎士が騒ぎに駆け付けて事なきを得た。
だが、それ以来代々のラドフィード侯爵は屋敷の堅牢化に努めた。
(そう言えば、原作では両親を襲った盗賊に扮した刺客をけしかけたのは、謎のままだったな。一応手引きした人物は描かれていたが、今のところラドフィード侯爵家の使用人の中には居ないな。それにアドノスの事を傀儡の様に操ったあの佞臣である男もまだ現れていないな。それにしても現在最も怪しい人物が現宰相とはな。父は宰相の地位にそこまでこだわって居ないが、現宰相はいつ地位を奪われるかと疑心暗鬼に囚われて居るらしい。まあ、それ以外にも色々と候補を挙げればきりがない。原作では何度か宰相とぶつかる事があったな。確か不正行為をして居たのを摘発した筈だ。その後は大臣の一人が後釜に収まって終わりのはずだったな。まあ、今からあれこれと思案しても仕方がないか。用心に越した事は無いが、無作為に動いても仕方がない)
屋敷に到着して自室で寛ぐ。
両親は二人とも着いて早々に客や部下が訪ねて来て、忙しそうにしている。
それを尻目にアドノスはゆっくりと夕食までの時間を部屋で過ごす予定だ。
ラドフィード侯爵領の屋敷よりも広くて豪華である。
王都には他の貴族の屋敷などもあるために、体裁とか面子など色々と諸事情があり、代々の貴族が自分の家格に適した中で他よりも豪奢にする傾向にある。
これは他の貴族に舐められない為に必要な措置である。
下級貴族の中には無理して、借金を作ってまで増築したり改装したりする者もいる程である。
部屋にあるリクライニングチェアーに腰掛けてこれからの事を思案する。
(はぁ、それにしても課金が出来ればもっと楽になるのか?…………課金!?そうだ!何故その事を試さなかったんだ!)
「ステータス!」
先ずはゲームでは基本中の基本である、ステータス画面を表示出来るか試してみる。
「無理か……代わりにオーブがこの世界にはあるからな」
その後は課金出来ないか?他の事は出来ないか試したが無理であった。
「せめてイベントリなどは出来れば良かったんだがな。こうポケットに物が沢山入れば」そう言って近くの本をポケットに入れる。
するとすんなりと入った。
ポケットの大きさと本の大きさを考えると、入る訳がない筈だが。
ポケットの見た目は変わらず、上から触るが本の感触はない。
ポケットに手を入れると本の感触があり、取り出してみる。
先程と変わらない本である。
他にもポケットに体積の関係上入る筈が無いものを入れて行くが、すんなりと入って行く。
他のズボンやジャケットのポケットを試してみても大丈夫であった。
更に他のズボンのポケットに入れた物でも、ポケットからならどのズボンでも大丈夫であった。
「ふむ。これは使えるな。これがイベントリの代用になるな。念じた物がちゃんと手元に来るからな」
(ただ一点難点があるとすれば、何を入れたか忘れると一々全ての物を出して確認しなければならない事である。なので何処かにメモしておくか、忘れずに暗記しておく必要がある)
一通り確認して満足した後に、部屋の扉がノックされる。
「アドノス様。御夕食の準備が完了致しました」
どうやら夕食が出来たので呼びに来た様である。
「わかった。今行く」
そう言ってリクライニングチェアーから立ち上がり、ドアを開けて部屋の外にいる執事に案内されて食堂に向かう。
食堂にはまだ両親は来て居なかった。
「父上と母様はまだ仕事中か?」
「はい。旦那様はお客人とお話しされております。奥様は商談の最中ですのでお二人とももう暫く掛かるそうなので、先に食べておく様にとの事です」
「わかった」
すぐにメイドが料理を配膳する。
出された料理はカボヌー(南瓜に似た野菜)のスープに白身魚のムニエル、新鮮野菜のサラダに白パンとまるでレストランのコース料理である。
流石は大貴族の子息だけあり、マナーはしっかりと教育されているので、そつなくこなす。
出された料理を半ばまで食べた頃に、両親が揃ってやって来た。
「待たせたね」と言うオトマールは少しばかり疲れた様に見える。
対照的にイザベラは肌艶が良くなっている様に見える。
どうやらだいぶ稼げた様である。
その後二人にもすぐに料理が出されて食べ始める。
他愛無い話をしていると、オトマールが明日の予定に付いて話し始める。
「明日は午前中のうちに教会に行って、アドノスのオーブを作成してもらおう。午後からは予定があるから、王都を観光したりと好きに過ごせば良いよ」
「わかりました」
「はぁ折角王都まで来たのに、アーちゃんと買物に行けないのは残念ね」
心底残念そうにイザベラは言う。
「イザベラ暫くすれば、暇が出来るさ。何なら少しばかりなら滞在期間を伸ばせば良いよ」
それをオトマールが励ます。
「そうね。なら早く仕事を片付けて時間を作るわ」
そう宣言すると、こうしちゃいられない!とばかりに食堂を後にして仕事を片付けに向かう。
「アドノスの事になると、イザベラは相変わらず暴走するね」とオトマールは苦笑する。
「さて、僕もまだ仕事が残っているから行くよ。アドノスも明日は教会に行くから、余り遅くまで勉強してないで寝なさい」
どうやらアドノスが夜中遅くまで、起きて勉強や開発に取り組んでいる事を把握していたようだ。
「わかりました。今日は早く寝ます」
此処は素直に従って置く。
特に今は急ぎの案件は無い。
「うん。それにもうすぐ誕生日だからね。何が欲しいから決めておいてくれ」
そう言い残してオトマールは食堂を後にする。
アドノスも部屋に戻り明日に備えて就寝する。