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第3話 初めての師は感覚派

 

 期待に胸を膨らませながら、アドノスはミュースが庭にやって来るのを待つ。


 昨日負けた後はあの後すぐに訓練を申し込んだが、ミュースに断られた。


 まさか、猫達と戯れたいからと言われるとは思わなかったが、負けた手前渋々従い翌日ーーつまり今日の訓練の約束は取り付ける事に成功した。


(いよいよ。ミュースから技を教えてもらえるな。まあ、最初は基礎的な事かも知れないが原作では主人公はミュースに剣を習わなかったからな。いや、ミュースは確か誰も弟子した事がなかったか?どの国からの誘いも断って放浪の旅をして居た筈だな)


 早く来ないか。と少しばかり気が急きながら待つ事10分。漸くミュースが姿を現した。



 昨日と違いラフな格好で現れたミュースはジッと此方の身体を見つめる。



「……見てて」


 そう言うとミュースは剣を構えて振る。



 すると3メートル先にある、木の枝に付いている葉が真っ二つに切れた。


「……わかった?」


「………」


(え?何これ?剣の風圧で葉を切り飛ばしたのか?)


「どうやってるのだ?」


 そう聞くとミュースは不思議そうに小首を傾げてから「……こうヒュ!ってやる」と言いもう一度剣を振る。


 頭が痛くなって来た。


 つまりミュースは感覚派なのだろう。


 だからミュースは弟子を取らなかったのでは無く、出来なかったのだろう。


 原作では語られなかった裏話を知れて嬉しい反面、残念でならない気持ちもある。


「取り敢えずやってみる。おかしな所があれば教えろ」


 アドノスの口調は相変わらずだが、其処には少しだけ敬意がある。


 側から見れば何処に敬意が?と思うところだろうが、感覚派のミュースには伝わったのか文句は言って来ない。


 もしくは呆れているかのどちらかだ。


 見様見真似で先程のミュースの真似をする。


 強い突風は起こせたが、葉を揺らすだけで綺麗に切ることは出来なかった。


「……違う。もっと手首のスナップを利かせてこうシュッって感じ」


 少しはまともやアドバイスが来たので、手首を意識してもう一度剣を振る。


 すると見事に葉を切り飛ばした。


 流石は高性能なアドノスの肉体である。


 すぐに勝手に軌道修正してくれる。


「……そう」とミュースは御満悦な表情を見せる。




「……次はこれ……トンっと踏み込んでバッて感じ……かな?」


 そう言って実践してくれたが、またもや難解である。


(教える側が疑問に思うなよ!)



 取り敢えず実践あるのみ。なのでアドノスは先程のミュースの動作を頭に思い描き、それと同じように身体を動かす。


 見様見真似だが、中々堂に入った動きで先程のミュースの動作をトレースする。



 アドノスの動きを見てミュースが「……違う。ドンじゃ無くてトン」と間違いを指摘して来るが、よく分からない。



(ドンじゃなくてトン?もう少し肩の力を抜いて見るか)


 試行錯誤しながらもう一度やって見る。



 それを幾度と繰り返す事87回目



「……うん。……上出来……」


 と漸くミュースから合格を貰えた。



 一応剣技以外にも何か出来ないか聞いて見ると「……なら魔力操作をする?」と言われた。



 詳しく聞いて見ると、別に魔法関連の職業(ジョブ)を持っていなくても魔力操作は覚えていて損は無いそうだ。


 大体個人差はあるが、元々魔力は皆が生まれ持っているものである。


 なので魔道具などが使える訳である。


 そして魔力操作は魔法関連の職業持ちも鍛えたりすれば魔力効率が上がり、少ない魔力でより高度な魔法が使えるようである。


 魔力操作が出来れば、簡単な魔術ならば使えるようになるとの事である。


 魔術と魔法の違いは、魔術は魔法使い達の魔法を基にして誰もが使えるようにスキルにまで昇華した技術である。


 勿論誰もが使える訳ではなくそれ相応の訓練と努力に才能が必要である。


 スキルとは職業持ちの技を皆が努力などをして使用できる物にしたものである。


 だから一概に職業持ちでは無い者と言えども侮ると後悔する事になる。



 因みに自分に職業があるかどうかは教会でオーブと呼ばれる古代文明時代の遺物により判明する。


 このオーブは現在では5歳を越えると大体の者は身につけている。


 身分証がわりにもなるのである。


 オーブには位がありそれにより性能が異なる。


 自分の名前と職業と身分が分かる世間一般に普及して居る、オーブは下級オーブと呼ばれ、警備隊の詰所などに設置されている最も細かく分かるオーブは、主に犯罪歴などが無いかの確認が出来るオーブは中級オーブである。


 そして職業持ちの適性がある場合は、その職業に付けたり変えたり剥奪出来るオリジナルに近い性能を持った上級オーブが存在する。


 上級オーブは各国にある教会の本部に厳重に保管されており、オリジナルのオーブは教会の総本部に安置されている。



 この下級オーブの取得方法はいく通りかあり、その代表例は教会に寄付して与えられる方法。


 各ギルドに所属する方法である。


 ギルドに所属した場合は、オーブに追加でギルド名とランクが付与される。




 そして何故5歳からなのかは簡単である。


 5歳までに亡くなる子供が多いからである。


 アドノスはまだオーブを得て居らず、近々誕生日なのでそれに合わせて教会で洗礼された後に授かる予定である。


 閑話休題




 ■



 その後ミュースからまたアバウトな助言のもと何とか魔力操作を会得した。


 元々素質があり出来ていたが、ミュースのお陰でより洗練されて素早く美しく力強く出来るようになった。


 それから毎日同じ様な訓練内容でアドノスは貪欲なまでに、訓練に勤しみ少しでも多くの技をミュースから盗まんと何とか試行錯誤しながらも訓練について行った。


 まだ5歳でありながらもそこらの兵士よりも格段に強くなって行く。





 ■■■


 ミュースは元々捨て子であり、クロッカス王国の首都である王都の孤児院で育った。


 捨てられた影響か元来の性格かは不明だが、ミュースは大人しく口数の少ない少女であった。


 ある日の事ミュースがまだ8歳の頃幾人かの孤児達と孤児院のシスターに頼まれて、いつもの様に買い物に出かけていた帰り道、運悪くゴロツキに絡まれる事になる。


 帰りが遅くなり近道しようと裏路地に入ってしまったのである。


 幼いながらもミュースは目鼻立ちが整った綺麗な少女であることから、売り飛ばそうとしてゴロツキ達が攫おうと襲って来たのである。



 ミュースは近くにあった棒切れを握りしめて、襲い掛かってきたゴロツキの一人を倒してしまう。


 それに激怒した仲間のゴロツキ達が、懐からナイフを取り出してミュースに襲い掛かる。


 其処を偶々通りかかったアドノスの祖父である先代ラドフィード侯爵が颯爽と登場して、撃退してしまう。



 相手が貴族であり、しかも剣帝と名高いラドフィード将軍と分かるやゴロツキ達は踵を返して逃げるが、それを先代ラドフィードが許すはずもなく全てひっ捕らえて、背後にいる組織とその組織と繋がりのある一部の貴族迄もを成敗する。


 先代ラドフィード侯爵はミュースの剣の才能に気付いて、自分の弟子とする事にした。



 因みに何故先代ラドフィードが細い裏路地に居るかと言うと、この頃から放浪癖があり屋敷から抜け出して来たのである。



 それから約8年間先代ラドフィード侯爵の元でミュースは修行して、その過程でオトマールと面識があったのである。


 そして先代ラドフィード侯爵から免許皆伝の腕前と認められて晴れて弟子から卒業したのである。



 一人前と認められてから、先代ラドフィード侯爵と同じように各地を転々とした2年間の間に、弟子にしてくれと頼まれた事は幾度とありその中でも才能のありそうな子を弟子にと思い、何日か見たことがあるが皆一日と経たずにやめて行ったが、目の前まだ少年のアドノスが初めて自分の修行に付いてきてくれた人物である。



 スポンジが水を吸収するかの如く、ミュースが教えたことを学習してあまつさえ、自分なりにアレンジまでする器用さまで発揮する才能の持ち主である。



 教える側のミュースも久しく感じて居なかった楽しみを覚え、より熱心に教えて行く。


 元々無口で口下手であるミュースの言葉を、最後までちゃんと聞き相手にしてくれる数少ない相手でもあった。



 口は多少悪いが、本心からで無いことはわかっているので気にしなかった。


 ミュースは口下手な自分と同じであると、共感さえして好感度が知らずのうちに上がってさえいた。



 今日もいつもの様に庭に行くと、偉そうに腕を組みこちらを待ち受けるアドノスの事を、愛おしく思いながら口元に薄く笑みを浮かべる。



「……今日もよろしく」


「ああ、頼む」


 こんな光景が毎日の日常となっていった。

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