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ニュース番組に青樹々二郎氏が出演していた。
会社が炎上状態でありながら堂々とテレビに姿を見せる彼には、余程の自信と打開策があるのだろうか。コメンテーターや専門家からは容赦無い質問が浴びせられていた。
「私は事業へ関与する権利などありませんよ、運営については全てトリプルマネージャーに任せているのです。企業の方針はご存知の筈です、我々にとっては国の憲法と同義、違反することは許されないのです」
「しかし、あなたを裁く者が存在しなくなるのではないでしょうか」
「私を裁くのはalma社に関わる全ての人、グローバル特区に暮らす皆様です。私は無数の目によって監視され、無数の手によって裁かれる存在なのですよ」
原因や具体的対策は調査中という言葉で片付けられていた。最後には遺族への言葉を残し、一礼をした後スタジオを去っていった。
「説得力がないな、茶番だぜ」
「アーノルドの後釜はこいつ直属の部下らしいな」
「わかりやすい権力の犬だな」
「マルコは孤立状態、 実質三権制度は崩壊している」
「所詮人間だな。イベは?」
「部屋にこもりっきりだ」
グローバル特区内の静かな会員BARのカウンターには山田とモーリスが座っていた。山田が「この前のお礼に」と誘い出したのだ。
アーノルド氏とは大学時代からの親友であるモーリスは、彼からの手紙を読みながら語る。
「権利無き権利者の尊重か…平等主義は彼にとって疑いようのない正義だ。全員参加型のディスカッションを好んだ彼は大学時代、サークルの討論会の進行役をAIにさせる為、研究に勤しんだ。そのプロジェクトの討論会もまた全員参加が必須だったがね。ALMはその研究から生まれたものだ。ALMは全天球カメラから人間の表情や仕草を読み取り、アイデアがありながら発言するのが得意ではない者をサポートする事が出来る、そういった能力を使いディスカッションを統合し効率化し全員が納得できるようメイキングする。最高の発明だった、出版社が何社も来て、あらゆるベンチャー企業にスカウトされ、投資家が手を握ってくれた。また彼と一緒に信念を忘れずに邁進してみたいものだ」
モーリスは思い出に浸りながら、酒と煙草を堪能している。山田は渡された手紙を読んでいる。
「権力を置き去りに、罪を背負い歩き、今度は人の為に生きようと思う…彼はデジタルに精通しながらアナロジーなモノを好んだって言いましたよね。なら首都やグローバル特区なんかに居るだろうか…下手すると日本にいないかもしれない」
イベリスが扉を開けた。
「ちょっときて」
部屋の端末には絶えず演算処理を続ける飾り気のないアプリケーションが開かれていた。
「ALMを作ってみたわ、完全再現では無いけど、このプログラムは各分野を補い合うようにできてるわね。まるで1人ではなく、複数人で地道に組んでいったように…だから悪い言い方をすると散らかっているのよ。でも彼は手を加える事はしなかった。みんなでこれを作り上げる事がなによりの喜びだと言いたいようにね。
語りかけてくるのよ、彼はこういう人間なんだってことを」
生まれたばかりのまだ単純作業しか出来ないようなAIを愛おしそうに見ていたイベリスは、アプリケーションをオフにする、そして1枚の記事を映し出した。
「それでこれを見て欲しいわけ」