僕の未来は
僕は十分後に命を落とすらしい。そう教えてくれたのは、他でも無い僕自身だった。
「三十分後に君は死ぬ。これはどうしても抗えない運命で、僕は君を救いに来たんだよ」
朝の光が差し込む僕の自室で、未来から来たと言い張る僕は二十分前、笑顔でそう言った。
もちろん最初は疑う事もした。それも当然だ。いくら自分に瓜二つで、少し成長した面影を感じたと言っても、こんな話を信じられる程、僕は子供じゃない。
でも、僕はとりあえずこの話を信じてみる事にした。
初めて、人から死の宣告をされたのだ。
もし本当だったら僕は死ぬ。嘘だと信じたいが、こういう時ほどマイナスな事を優先して考えてしまう。最悪の場合を常に想定してしまう。僕はそんな臆病者だ。
そう、僕を救いに来たと未来の僕は言った。これは僕にとって害のある話では無い。
どうやら未来の僕によると、僕はこの後、いつも通り通学のために外に出て、事故に遭うらしい。つまり後十分間この自室に待機していれば、僕の安全は確保されると言うのだ。信じてここに留まっていたとしても、別に損をする話では無い。
何もする事の無い十分間、タイマーをセットして未来の僕から話を聞くことにした。
「未来の生活ってさ。僕、どうしてるかな。彼女出来て結婚とか、してる?」
「あー、彼女ね。出来るけど、すぐ別れるよ。しかも相当お金使って、もはや僕が財布って感じで。結婚といえば、結婚詐欺にもあったね。借金まみれさ、君の未来は」
「うわ……聞かなきゃ良かったかな。気を付ければ、済む話かな?」
「さぁ、どうだろうね。気を付けたとしても、恋に落ちるのには抗えないよ。じゃなかったら僕は、まず君が彼女に出会うところを止めに来る」
「それもそうか」
何だか未来の僕とは話が弾む。本当の意味で気兼ねしないからだろうか。
それよりも、何だか今の会話で違和感を覚えたのは僕の気のせいなのだろうか。何か引っかかるのだ。おかしい所があるような気がして気持ちが悪い。
そうこう話しているうちに、時間はあと一分となっていた。
残りの一分で疑問について考える。
不幸の原因となった恋人と出会う所を止めに来ても意味が無いから、僕が死ぬのを止めに来た。そういう事だろう、今の状況は。それなら。それなら、だ。
――なぜ、今僕の目の前にいるこの僕は、息をしてここに存在している?
タイマーの示す数字がゼロになった。
隣に座っている未来の僕に目を向けた、その瞬間。
横腹に、鋭い痛みが走った。何回も、何回も衝撃が走り、感覚が鈍くなっていく。
――自殺するのにも、痛みを感じるのは嫌だからね。
その声を最後に、未来の僕が元々居なかったかの様に消え、僕の意識も同時に消えた。