第2話 冒険者登録?もう済ませてありますよ?
時間が飛んで、今はリリアナに馬車で大きな街の送ってもらって別れたところだ。別れ際にリリアナが、「もし、王都に寄ることがあれば。是非、お城まで足を運んでください」と言ってくれた。
王都か……一回目の転生の時はそこに住んでいたが、今回はどうしようか。
そんなことを考えていると、もっと大事なことに気が付いた。
「この世界。俺が一回目の転生の時と、時間軸がまったく同じだな」
そう。俺が始めてこの世界に転生した時と同じ場所・時間にリリアナの馬車襲撃イベントとも言える事件が発生した。そして今回と同様、俺はリリアナと会っていた。
とうことは、この世界はあの時とまったく同じ世界である可能性が高い。
「能力だけでもチートなのに、未来に何が起こるかが分かるとか……もう、チート過ぎて何も言えねぇ」
この世界のことは割と覚えていた。俺にとって良い思い出のある世界だったからだ。
取り合えず俺は宿を探す……ではなく、宿まで行く事にした。
宿前まで着くと、懐かしいと口にしながらしばらくつい宿の外観を見つめてしまった。
「おっと、またやってしまった。ジジイか俺は」
俺はハッと気が付くと周りの人の視線を無視しながら宿に入る。この宿の名前は"大樹の木陰"という。3階建てで、1階が食堂と受付になっており、飯はここで食べる。俺はさっさと受付に行き、部屋をとることにした。
「すいませーん。泊まりたいんですけど、部屋空いてますかね?」
「いらっしゃい。空いてるよ。何泊するんだい?」
受付には一人の女性が立っていて、その人に話しかけた。彼女はマーヤさん。ここの女将で、旦那さんと13歳の娘とこの宿を切り盛りしている。
あ、言い忘れていたが、俺は死んで転生したら必ず15歳からのスタートだ。よって、俺は今15歳ということになる。
「取り合えず1泊でお願いします」
「あいよ。飯はどうする? 飯付き1泊で300テイル。飯なしで200テイルだよ」
「飯付きでお願いします」
そう言って受付に銅貨3枚を置いた。それを受け取ったマーヤさんは鍵を出した。
「201号室、2階に上って左手にある一番手前の部屋だよ。ごゆっくり」
「ありがとうございます」
さっそく部屋に入り、荷物を整理する。流石に無限収納を見られるのは不味いので、愛用してる見た目は小さいでも中はメチャデカイバックを使うことにした。
中身は予備の剣、携帯食料、水筒、キャンプ用品一式、魔法袋。予備の剣は今愛用してる剣には劣るが、普通ではありえないくらい丈夫で斬れる剣だ。携帯食料は美味しいと長持ちの両立を実現した食べ物だ。詳しくは知らない。
水筒は水、お茶、ジュース、なんでもこいや! しかも、色々な液体を入れても混ざらない。切り替え可能。どれか一つに絞れない? だったら、全部入れよう。ちなみに魔道具である。
キャンプ用品一式はその名の通りです、はい。魔法袋は金が入っている。屑鉄貨、銅貨、大銅貨、銀貨、金貨が数枚入っている。
一回目の転生で集めた金だが、残金が心許ないな。
「さて、こんな感じでいいかな。さてさて、行きますか」
宿もとったことだし、今度はギルドに行く事にした。一応冒険者カードは持っているのだが……今まで転生した全ての世界の冒険者カードをな。だが、圧倒的期限切れに襲われているんだがどうすればいいんだ?
発行し直しでも構わないがどうなるだろうか。
俺はギルドカードを握りしめながら宿を出て冒険者ギルドと向かった。
ギルドの位置もしっかり覚えていたので、なんの問題もなくギルドに到着。
「すいません。いいですか?」
俺はギルドの受付の一番左、誰も並んでいない受付まで行き受付嬢に話しかける。
「え……は、はい」
話しかけられるとは思わなかったのだろう。遅れて返事をし、焦った顔で俺を見る。
「実は冒険者カードの期限が切れてしまったので、再発行してもらいたいのですが」
「は、はい。再発行ですね。1万テイルかかりますが良いですか?」
そんなに掛かるのかよ!と、思ったが妥当なところなのだろう。簡単に再発行が出来てしまっては、冒険者カードを大事にしない人が現れるかも知れない。
そう考えると1万テイル、つまり金貨1枚の料金設定は十分妥当だと言える。
「大丈夫です。えっと、これが期限切れのカードです」
「少し預かりますね」
そう言ってカード持ち奥の方へと小走りで行ってしまった。しばらくすると、青い顔をした受付嬢が帰ってきた。
「お、終わりました……どうぞ」
「ありがとうございます。……どうかしましたか?」
「へ!? い、いや……あの、あなた様は……その、Sランク冒険者様だったのですね」
「まぁ、そうですね」
「すすす、すませんでしたー!」
「えぇ!?」
いきなりの平謝り。ギルド内にいる人全員が俺の事を見てくる。やめて!俺何もしてないから。勘違いやめて!
「ど、どうしたんですか?」
「だ、だって、Sランクの方にとんだ無礼を……」
目に涙を浮かべ今にも泣きそうな顔で俺を見る。
「無礼? 何かありましたっけ。むしろ丁寧だと思いましたけど……」
「そ、そうですか?」
「えぇ、だから泣かないでください」
俺に言われて気が付いたのか、顔を赤くして俯いてしまった。
「し、失礼しました!」
「いいですよ。それじゃあ、俺は行きますね」
「あ、あの……」
ギルドを出ようと踵を返すと、直ぐに呼び止められた。何かと思い振り返ってみると、思い詰めたような顔をしている受付嬢がいた。
「冒険者カードには名前が写ってなかったので、出来れば、名前を教えてくださいませんか」
あぁ、そういえばそんな設定したな。
冒険者カードは見せたくないものを他人に見えないようにする機能がついている。たとえば、ランクを見られたくないとか、俺のように名前を見られたくないとか。しかし、ランクや名前を隠してもギルドではそれを解除する方法がある。
なので、ギルド職員に対してランクなどを隠そうとしても無駄なのだ。名前には例外があり秘匿が可能なのだが、今はいいか。
「……いいですよ。俺はハルト。これからよろしくお願いしますね、ミヤさん」
「はい! よろしくお願いします! ってあれ?」
元気よく笑顔で返事をした受付嬢ことミヤさんだったが、直ぐに眉をひそめた。
「私、名前言いましたっけ」
俺はミヤの疑問を無視してギルドを後にした。
次は……家探しかな。
今さら思ったけど、仮面着けて話してるのになんで皆さん平然としてるの?