条件反射
いつも送信ボタンを押した瞬間に気づくのだ。
またメールを返信してしまったことに。
あれほど、美佳に無視しろ、と言われたのにもかかわらず。
私はまたバカの一つ覚えみたいに、平澤拓斗からきたメールを律儀に返してしまっていた。
メールの中身はいつもどうでもいいことばかり。
返さなくてもいいような内容が大半で、質問されることなんて一度もない。
なのに律儀に返している自分がいる。
何気なく来るから、何気なく返してしまうのだ。
もちろん私からメールをすることは一切ない。
用事もないし、もうメールをしてまで親交を深める必要などないから。
「だから、ダメって言ったでしょ?!」
もうなんでわかんないかなぁ、とぷりぷりしながら美佳が手元のワイングラスを置いて、私の肩を掴む。
手元にあるポテトフライをつまみながら、私はまた仕方ないよって苦笑いを浮かべた。
「あゆはね、そうやって優しいからダメなんだよ。つけこまれてるんだよ。わかる?」
「わかってるよ」
「わかってないよ。だって、そうやってメール返しちゃってるでしょ?」
「なんか身体が勝手に」
「理性でなんとか止めなさい」
「はい、わかりました」
もう、本当にわかってんの?と言いながら美佳はワインをグイッと飲み干した。
理性なんて、恋愛の力に適うわけない。
拓斗に出会ってから、私は理性をどこかに捨てて来てしまったみたいだ。
拓斗の声が聞きたて、拓斗に会いたくて、拓斗と一秒でも一緒にいたくて、身体は常に拓斗を意識している。
拓斗がいれば何もいらないとか、演歌みたいなことを本気で考えている自分がいる。
怖いくらいに、身体が拓斗を欲している。
拓斗が別れ話を切り出した。
行きつけの居酒屋で。
ビールを飲みながらなんとなくその時が来るのをどこかで感じていた私は、その話にならないようにすることもなく、律儀にその時間を待ち続ける。
いつも拓斗が絶対で、拓斗のすることに間違いがないって信じてた私は、別れ話さえも拓斗のタイミングに合わせることに決めていたのだ。
どうでもいい話はいつも以上に盛り上がり、今日はこのまま終わるかもしれない、と思った時、拓斗が口火を切りはじめた。
そうして私達は彼氏彼女から、会社の同僚に戻った。
あれから半年。
なぜか最近拓斗がまたメールをしてくる。
まるで別れたことなどなかったかのように届くメールが私を悩ますのだ。
そして私もなにもなかったかのように普通に返してしまう。
ダメだ、ダメだ、と思いながら。