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いらっしゃいませ、風神雷神様

 暴風波浪警報が出ていると言うのに、本日も当たり前のようにシフトを組まれ、警報が出る前に出勤していた明と志乃は窓の外を眺めていた。


 「明さんや」

 「何ですか志乃さんや」

 「今日のバイト、バックレても問題ないと思いませんか?」

 「同意見ですが、バックレたくとも家に帰れませんよ、この天気では」

 「雨、止ませてきてよ」

 「どうやって?」

 「ほら、あの、古来より伝わる伝統的なアレですよ……あの、アレ……ほら!ねぇ!」

 「と言いますと、雨乞い……」

 「あ、人身御供……じゃなくて生け贄」

 「全然違った!言葉を言い直しても意味大体一緒だからね!テヘッじゃないからね!俺、志乃さんに何かしましたね!」

 「あー、早く晴れないかなぁ」

 「き、聞いていない……だと?」


 叩き付けるような雨粒に木を横倒しにしそうな強風。

 止むどころか、雨風は午前一時に向かってますます勢いは強くなっていく。

 店のガラスが雨の弾丸を受けて、パンパンと音を打ち鳴らしている。


 「──コレはあの神様が来るという啓示ですかね志乃さん」

 「でしょうね。自分たちの絵が描かれたスカジャン来て、粋がってくるんでしょうよいい大人が」

 「なんと言うか、志乃さん嫌いだよね……」

 「絡みづらい。と言うか、全員絡みづらい。絡みたいと思ったこと一度もないけど。何なの?私、遭遇するようになってから一度も神社とか行かなくなったんだけど。腹が立って」

 「……」

 「長い事生きてると色々と拗らせちゃうの?」

 「さ、さぁ?でも、まだこれから来る神様たちはマシな方なんじゃ?」

 「え?どこが?目も悪ければ、頭まで悪くなったの?」

 「ホントに俺、志乃さんに何かしたかなぁ!?」

 「うるさい」

 「はい……」


 ハッと鼻で笑う志乃からスッと目を逸らした明は例の二人組を脳裏に浮かべた。

 不良さながらな見た目の彼らは、やはり見た目通りの性格で志乃が初対面の時に「徒党組んでる時代遅れのヤンキーが来たのかと思った」と彼らに告げるくらいちょっと万人受けしない性格と恰好をしていた。


 でも割と性格は素直な方だ。


 だから、これ以上志乃に言葉の刃で傷つけられたくなければ、オラオラしながらリーゼントは止めろと明は彼らにコッソリ伝えておいた。俺、優しい。優しさの塊。


 

 午前一時。

 予想通り、その客は雷の轟と突風と共に現れた。

 片方はクールなインテリ眼鏡、片方はセクシーなホストが二人並んでコンビニの自動ドアをくぐる。

 眼鏡は爽やかに「やぁ」と手を挙げ、ホストはひらりと手を振り「久しぶりだね」と微笑んだ。

 2人の客は外から来たと言うのに雨にも濡れておらず、風に吹かれても髪の毛すら乱れていない。


 「……何がどうしてそうなった」


 以前の盗んだバイクで走り出す系の不良の面影は一切消え、どこの誰かも誰も分からない風体に変わりきった風神と雷神に、時間が一切動いていないのを確認して志乃は思わずそう言葉を零した。

 時計の針はきっかり一時、しかも動いていない、外は暴風波浪警報続行中。


 時代錯誤風不良からの現代風イケメンへとクラスチェンジを遂げた2人は志乃の言葉を聞いて少し得意げな顔で「こんばんは」と言いながら微笑んでいた。

 明はポカンと来客を見て、志乃の言葉を理解するとすぐに声を張り上げた。


 「えー!?え?イメチェン……イメチェン!?変わりすぎじゃない!?」

 「ちょ、横でうるさっ」


 一向に驚く様子のない志乃をえ、何で?と驚いた様子で見るも志乃は明を見る様子もなく、耳を塞いで来客をしかめっ面で見ていた。

 2人組はそれぞれの反応に満足そうに頷くと意味もなく髪を掻き上げ流し目をして来た。


 「驚いているようだね」

 「まぁ、俺たちの本気はこんなじゃないんだけどな」

 「……ツッコむのも嫌だ」

 「志乃さん志乃さん、ちょっと目が死んでる。分からんでもないが」


 レジの前にわざわざ立って見せる風神雷神に「うぜぇ」と零す志乃に明も同意しかけたが、心で思うだけで留めて置き、改めて2人の神様を見る。

 風神はどうやら爽やかイケメンに、雷神はセクシーなイケメンに変身を遂げているようだが、今まで貫き通したスタイルを捨てたのだからそれなりの理由があるのだろう。

 以前の喧嘩上等と刺繍されたスカジャンを脱ぎ、清潔感のあるスーツ姿。見事な方向転換だ。


 「えっと、一体、どうしたんですか?」

 「現代でモテそうな格好がコレだったんです」


 格好つけてクイッと眼鏡のブリッジを押し上げた風神の答えは簡潔だった。

 シーンとした重い沈黙が降りてきた。


 「…………ん?」

 「馬鹿馬鹿しいから聞き直すの止めた方がいいんじゃない?馬鹿馬鹿しいから」

 「志乃は相変わらず俺たちに厳しいな。愛か?」

 「キモイ。ウインクすんなキモイ」

 「では、コレはどうですか?」

 「近づくな触んな。鳥肌がスゴイ」

 「ふふふ、つれないですね」

 「やめろ、喋るな、心の底から寒い」


 レジを挟んで志乃の顎を掬い上げる風神の手をスパァンッと思いっきり右に薙ぎ払った志乃は生きた盾の後ろへと素早く身を隠して腕を擦る。

 ブツブツと鳥肌が、とかキモイとか呟いている志乃に明は同情的な眼差しを送り、そのまま盾の役目を続けた。

 しかし、それも完全防音の盾ではないため、彼らの言葉は志乃へと届く。


 「恥ずかしがり屋な志乃も可愛いぜ?」

 「照れ屋な志乃もなかなか新鮮ですね」

 「ヒィィィィィィッ」

 「……あのお二人とも、これ以上は志乃さんのライフがゼロになるので止めてあげてくれませんかね」

 「なんだ明も可愛がって欲しいのか?」

 「そうならそうと言って下されば」

 「ゥヒィィィィィィッ!標的が変わった!や、やめろ、俺に近づくな!ちょ、志乃さん押さないで!?」

 「……ありがとう、生け贄」

 「味方がいない!」

 

 笑顔でグイグイくる風神雷神から体を逸らそうとするも志乃がこれ以上下がらせまいと明の背中を押してくる。

 まさに四面楚歌、孤立無援状態だ。


 「待て待て待て!待った!ホントに待った!お願い!ちょ、ちょっと、待ってください!お願いします!特に風神様たち!」

 「画面は完璧にBL」

 「きゃぁぁぁっ、止めて志乃さん!」

 

 いやぁぁ!と乙女の如く悲観的な叫び声を上げる明に目の前に迫って来ていた風神雷神がピタリと止まった。


 「……それ、以前言われた事があります」

 「あぁ意味が分からなかったけどな」

 

 どうやら最近耳にした言葉に反応しているらしい。

 

 「え?BL?」

 「えぇ」

 「それ、どこで聞いたんですか?」

 「ん~、女の子がいっぱいいた所かな。アニメのグッズとかそういうのが置いてある店が多くてね。どうやら風神と一緒にいると女の子たちからの視線が集まるみたいでよくそこを歩いてるんだ」

 「なにカッコつけてダサい事いってんのこの男」

 「シッ、志乃さん!えーっと、それで?」

 「その時に彼女たちはよく私たちをキラキラとした目でBLだとか色々と話しながら此方を見ていましたね」

 

 明と志乃はすぐにその場所がどこであるかを理解し、お互いに目を合わせて頷きあうと、風神雷神たちに憐れんだ眼差しを向ける、が、彼らの顔を見た瞬間、志乃は笑いが我慢できずに明の背中に顔をくっつけて噴き出した。


 コイツら、モテたいからってキャラまで変えたのに報われない!


 明は明で背中でブフーッ!と笑い出した志乃にヒデェと呟き、改めて可哀想な二人組を見た。

 モテたいとイメージチェンジをした結果、おかしな方向へと進んでいる神様たち。

 

 ────キョトンとした顔をしていやがるぜ。


 「ウケる。このまま放置しておいた方が良いと思うに一票」

 「それ、俺がやられたら俺だったら泣く!いや、事実を報告されても嫌だ!女の子を漁りに行ってその女の子たちに予期せぬ目で見られているとか!」

 「ある意味モテると言う目的は果たせてるんだし、いいんじゃないの?」

 「いや、うん……いやいやいやいや!」

 「二人とも何をコソコソとしてるんだい」

 

 雷神が不思議そうに問いかけると明はびくりと体を揺らした。

 何も知らない2人の顔と言ったら─────!!




 「いや、何も……あ、風神雷神様、俺、今日なにか奢りますよ!」

 「急にどうしたんですか明?」

 「なんでもないッス!俺、今日は奢りたい気分なんですよ!取りあえずチューハイでいい?チューハイにしよう!ね!」

 「なぁ志乃、明は何で酒を勧めてくるんだ?」

 「コンビニ店員魂に火が付いたのよ」

 「コンビニ店員が客に酒を勧めるなんて聞いたことないですよ。大体、それ以前に私たちの事を客と思ってますか?」

 「え?」

 「え?」

 「え?」

 「よしコレだ!風神雷神様!チューハイ袋に入れときますね!」




 

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