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いらっしゃいませ、蛇神様

 今日も今日とてレジに並ぶ2人は、静かに入店して静かに酒のコーナーへ行き、静かに店内のスナック菓子をパーティー開きをして、静かに酒を開封して座り込み飲み始めた女の子を凝視していた。

 どんよりと落ち込んだ様子で一人、瓶に入った酒をラッパ飲みする美少女は2人に背を向けた状態で今度は酒のつまみを開封した。


 「アレは無銭飲食って言うのでしょうか明さん」

 「限りなく近いと思われますね志乃さん」

 「っていうか、小学生くらいの女の子が酒を呷るように飲んでいるこの状況になれつつある自分が怖い」

 「犯罪を犯している気分になるのは俺のせいではない」

 「お前のせいだったら取りあえず警察に連絡するわ。捕まれ」

 「何でそんなに俺に厳しいんですかね志乃さん」

 「何の事か分かりかねます明さん」


 時刻はいつも通りの深夜の1時丁度。

 そして今日の来客は店内のモノを当たり前のようにその場で開けまくるという嫌がらせを働いている。

 2人はその様子を死んだような目で傍観していた。

 少女は所謂美少女というカテゴリーに入る綺麗な顔立ちをしていた。

 絹糸のような滑らかな長い黒髪に真っ赤な瞳、まつ毛は長く唇はふっくらしている十二単を着た可愛らしさを集めたような少女だ。

 そんな美少女は一本を一気飲みで空にすると、さっきまでの静かさがなりを潜め、酒瓶を叩き付ける様に床に置いた。


 「何よ。私が好きでこんな見た目だと思ってんの?仕方がないじゃない!何千年とこれ以上成長しないんだから!私だってグラマーでボンキュッボンになりたかったわよ!ツルペタで悪かったわね!何よ何よ!」

 「……またフラれたのか」

 「志乃さんや、それは言ったらいけないワードだから」

 「ちょっと聞こえてるわよ人間ども」

 「うわー、人間どもとか何様なのあのチビ」

 「志乃さん志乃さん、ちょっと口を開くのやめようか。なんか呪いそうな目つきでコッチ見てるから、祟られるから」

 

 ギロリと音がしそうなくらい鋭い目で睨み付けてくる女の子から目を逸らす様に志乃の方を見ると、志乃は志乃で女の子を白けた目で見下ろしていた。

 もはや、志乃と少女のガンの飛ばし合いになっている空気に明はそっと身を引いた。


 女のバトルに男が入るのはよくないと姉が言っていた気がする。姉、いないけど。


 「大体、蛇さん」

 「蛇さんなんて言うんじゃないわよ」

 「じゃあ女児」

 「何でそうなるのよ!崇め奉って美しき蛇神様と呼びなさいよ!」

 「いや、ないわ」

 「どこからどうみてもそうでしょ!」

 「いや、ない、ないわー。箪笥の角に足の小指をぶつける位ないわー」

 「こ、この、普通顔の人間が!」

 「え、それ貶してるの?やだぁ、何千年生きてるくせに語録が超少ないウケるぅ。だからフラれるんじゃないの?マジでウケるぅ」

 「……こえぇぇぇ」


 志乃が真顔で煽っていく度に蛇神の顔は真っ赤で目には涙がたまり始めた。

 プルプルと震える蛇神とそれを無表情で見下ろす女子高校生。これが他の人に見えていたら確実に非難を受けるのは志乃の方である。

 例え蛇神の方が遥かに年上でも。


 「何よ……何よ!わ、わたし、わたし、私悪くないもん!何よー!」


 わーん!と床に蹲り、子供のように喚き散らしている。 


 「すぐ泣く。泣けばいいと思ってんならずっと泣いてれば?美しき蛇神様」

 「……志乃さんの煽っていくスタイルに俺は恐怖を覚える」

 「だって鬱陶しいじゃんか。あの蛇神、フラれる度にうちの店でヤケ食いしてグチグチと自分のコンプレックス晒しながら慰めて欲しがってんのミエミエ」

 「いや、まぁ、そうだけど。そこはさ、同じ女子として同調してあげるとか」

 「は?」

 「いや、すいませんでした」

 「……じゃあ、とても悔しいですが私ではあの高貴なる御方を慰めるすべがないので、アナタにあの美しき蛇神様を慰める権利を譲りましょう。やったね!」

 「うわぁ、思ってもない事いいながら本日一の最高の笑顔でコッチに丸投げした」

 

 GOサインを出す志乃はさっさと行けと親指で蛇神を指す。

 チラリと蛇神の方を見ると目がバチンと合ったが、彼女は慌ててまた喚き始めた。

 道理でちょっと静かだった訳だ。


 「アレって、親の反応を見てまだいけるなって分かったうえで駄々こねる子供と同じ反応……」

 「そんな子供に同調してあげるだなんて明くんかっこいいー」

 「こんな棒読みのかっこいい初めて言われた」

 「何、自慢?」

 「いや、違います。違いますから足をさりげなく踏むの止めてくれませんかね」


 つま先でつま先を踏まれ、明はそっと足を志乃の下から引き抜いた。


 蛇神は未だに喚いてる。器用にコッチの様子を定期的に窺いながら喚いていた。

 志乃は完全に傍観体制に入っているのか、明に行けと再度催促し、明は自分の立場の弱さに肩を落としながらレジカウンターから仕方がなさそうに出て行った。


 「えっと、美しき蛇神様?」

 「な、なによ!」

 「えっと、えーっと……ドンマイ?」

 「お、おまえらは私をば、馬鹿にして!」

 「馬鹿にはしてない。面倒くさいなって思ってるだけ」

 「志乃さん!シッ!」

 「私の何がいけないんだ!」

 「性格」

 「志乃は黙ってなさい!男の明に聞いているの!」

 「えー、んー?性格?」

 「志乃と同じ事いうー!」


 またわーん!と泣き始めた蛇神に志乃はあからさまに、明はオブラートに包みながらめんどくせぇと顔を歪めた。

 

 ひとしきり泣き喚いてスッキリしたのか、目を腫らした蛇神はすっくと立ち上がり、アイスが入っているボックスから一番高いアイスを取り出すと徐に食べ始めた。


 「志乃さん、またヤケ食い始めたんですけど」

 「太ってまたフラれれば良いんじゃないの?って言うかアレの財布いつ来るの?どう見てもお金持ってないでしょあの人」

 「まぁ、その内に来るでしょ」

 「さっさと引き取ってほしい」

 「同感です」


 むしゃむしゃと冷たさを感じていないのか一定の速さで食べ続ける蛇神が2個目のアイスに取り掛かろうと腕を伸ばすと、店の自動ドアが開いた。


 「……姫様!」

 「……じ、じいや。な、なぜ此処が」

 「何故では有りませぬ!あれ程、いけめんはんとはお止め下さいと申しておりましたのに!」

 「な、イケメンハントではない!私の運命の夫を探していたのだ!」

 「ならば、私がお勧めした蝦蟇蛙様の所の息子様で何が問題があるのですか!ロリコンですぞ!」

 「蛙なんぞ嫌だ!ロリコンも嫌だ!」

 「姫様!」


 体長50㎝程の喋る蛇に叱られる小学生女子の図はとても奇怪だ。会話の内容もどうかと思うが。


 「色々と突っ込みきれない所がある事に気付いていますか明さん」

 「もちろんですよ志乃さん」

 「まず、どうやってあの大きさの蛇を認知した自動ドア」

 「爺やさん、いつも人型になってくるのにね」

 「イケメンハントってなんだ」

 「蛇神様はイケメン好きなんだね」

 「爺やのお勧めは蝦蟇蛙なの?」

 「蛇の捕食対象だよね」

 「ロリコンの?」

 「ロリコンの」


 蛇神たちの口論の声のみが店内で騒がしく、明と志乃は聞き捨てならない爺やの言葉を聞く度にボソリと突っ込みを入れながら2人の動向を見守った。


 「とりあえず、財布が来たからもう良いや」

 「面倒くさいから?」

 「面倒くさいから」

 「あのやり取りが終わんない限り、時間も進まないし」

 「……志乃さん、お茶でも飲む?」

 「うん、迷惑料であいつ等に払わせよう。レジに打っといて」

 「了解した」





 

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