極振りチートな遊び人で、異世界を生きて行けと? Ⅱ
何の因果か、目が覚めると俺はゲームの中に閉じ込められていた。
悪い夢なら覚めてくれ――そう願ったが、既にゲームの電源は入れられ、厳つい野郎共がごった返すギルドに押し込められていた。
そして、いよいよ次が俺の出番。
現実では冴えないアラサーだったが、ここでなら俺も勇者になれる――そう思っていた。
――お好きなジョブを選んでください。
「おっ、いよいよゲーム開始だな? 頼むぜ、プレイヤーちゃん」
“ジョブ? 面倒くせぇ、ジョブなんて適当でいいんだよ。決めた! 遊び人!”
うぬっ……数あるジョブのうち、遊び人とは……ま、まぁいい。後々、賢者になればいいだけの話だ。
――ステータスを割り振ってください。
“うぜぇ――っ! いいから早くゲームやらせろよ。これでどうだ?”
うぬぬっ! “我慢強さ”に極振りするとは――もう少しマシな振り方があるだろうが!
第一、この俺にどんだけ我慢しろって言うんだ。あぁ、神様――居るなら答えてくれよ……哀れなこの俺に――
◇◇◇◇◇◇
「何じゃ、騒々しい……」
「で、出た。本当に出やがった」
「人を呼んでおいて、何じゃお前さんは? とっとと身支度をして、魔王を倒さんかい!」
「魔王を倒す? この俺が? 無理無理――絶対無理。だって俺、遊び人だぜ! 勇者ならともかく、遊び人でどう戦えと?」
「ふぉふぉふぉ。その為にステータスを割り振ることが出来るんじゃよ。お前さんも、チートな能力を手に入れたんじゃろ?」
「はぁ? 全部“我慢強さ”に振られたけど?」
「さ~て、ワシは忙しいんじゃ。精々無駄な足掻き……いや、頑張るんじゃぞ!」
「待て待て――置いていくなよ」
やっぱり神様なんていやしないんだ――俺はそう思った。
“いっけね。名前入れるの忘れた”
そう、名前ね。名前って重要だから、せめて格好いい名前をつけてくれれば、我慢できる――って、既に我慢強さ発揮してんじゃん。
“そうだな……ンポコにしよう”
うぐっ……あぁ、もう絶対魔王なんて倒せねぇよ。神の怒りに触れるギリギリの名前だし、“ン”から始まる名前なんてあり得ねぇ!
「神様! プレイヤーちゃんに注意しろよ!」
「何じゃ、またお前さんか」
「おい、この名前なんとかしろよ! 怒りに触れるだろ?」
「どれどれ……むむっ! ……セーフ! 魔王討伐にGO!」
「これの何処がセーフなんだよ!」
「ワシがセーフと言ったらセーフ何じゃよ――んん? これは?」
神様は、突然懐をまさぐった。
「な、何だよ! どうかしたのか?」
「ファンレターが届いておるぞ!」
どういう届き方なんだ。まぁ、ファンレターというなら気にはなるが――。
神様が徐に取り出したファンレターと思しき物は、チラシの裏に書きなぐられた粗悪な物だった。
俺はそれを取り上げ、読み上げた。
“こんにちは。ンポコ様”
な、なんだいきなり。コイツ――何で俺の名前を知ってやがる。
「ンポコよ、早く読むのじゃ」
「わかったよ……なになに――」
“私は貴方の敵である魔王だ。だが、今はすっかり心を入れ替え畑仕事に精を出している。なので、貴方の役目は終わりました。申し訳ありませんが、解雇させていただきます”
「何なんだ、一体? ゲームの中に閉じ込められたと思ったら遊び人で我慢強さに極振りされ……挙げ句、リストラかよ」
「ふむ……まぁ、これは二週目じゃからな。お前さんは用済みって訳じゃ…ふぉふぉふぉ。で、どうするんじゃ?」
「二週目なのかよ!」
それはともかく、遊び人どうすると言われても返答に困る。そもそも、俺が何でここにいるかもわからない。
「取り敢えず、仲間でも探してレベル稼ぎして生活するよ」
リストラされた今、生きる術は、魔物を倒して金を稼ぐしか方法はない。
「残念じゃが、この世界は超――っ平和じゃ。魔物なんておらん」
「おい! プレイヤーちゃん、聞こえるか? 悪いがリセットしてくれ。どうやら、このゲーム粗悪品らしい。買い取り価格が下がる前に売れよ」
“ガタガタうるせぇな。とっとと指示通り動けよ。俺が一番の神だ! 因みにこのゲーム、ワゴンセールで五十円だったから売る気はないぜ”
「チクチョウ……なんてこった。プレイヤーにも、環境にも恵まれないとは――はっ! もしかして、これはクソゲーなのか?」
「ンポコよ、察しがいいのう。仕方がない――これを飲むがいい」
それはほんのりピンク色した、小さな錠剤だった。
「おぉ、これを飲むと魔法とか使えるようになるのか? んぐっ、水なし一錠!」
「はっ! しまった! こっちじゃった」
「すると、俺が飲んだのは?」
「下剤じゃ……」
「んだと?」
マグマが煮えたぎるように、俺の下腹部はエライことになっていった。
「うぐぐっ。トイレは何処だ――」
「公衆トイレなら、突き当たりを右じゃ」
「そうか、ありがとな……って、こうなったのもお前の所為だろうが?」
「セイセイセイ――っ! 若者よ。いや、そこそこ年を食ってる者よ。目指すべき道は開けた。急げ! 公衆トイレに!」
「言いたいこといいやがって――。だぁ――っ! もう、限界……」
俺は内股で、ケツに力を込め全神経をそこに集めた。案外、我慢できるものである。
そうか、皮肉にも極振りされた“我慢強さ”が効いているのかも知れない。
そして、ようやく辿り着いた公衆トイレのドアをノックした。
「入ってます!」
ここは駄目か。ならば、隣は?
「入ってます!」
まだ、望みはある。
「入ってます!」
「ふざけるな――っ!」
大声を出したのが悪かった……。気を解放した為、ケツに掛かった圧力が低下したのだ。
こうして、俺は〇〇〇を漏らしただけで、遊び人としての役割も果たせず終焉を迎えた。
「どうじゃ、ンポコ。三周目やるか?」
「やるかよ、クソジジイ! うっ、ちょっとタイム……やっぱり、リ、リベンジだ。その前にパンツをくれ」
「仕方ないのう、ほれ!」
これは伝説のステテコパンツ!
「そんなもん、ステテコ。うぷぷっ」
「アンタ、本当に神様か?」
そう問い掛ける俺に、若い娘が駆け出してきた。
「おじいちゃん、また悪戯したのね」
「お、おじいちゃん? コイツ、神様じゃないのか?」
「神様じゃないわよ、ただのモブキャラ」
「さ~て、ワシは忙しいんじゃ」
「まて、クソジジイ――っ!」
結局俺は、三周目に挑戦することに決めた。
こうして、ンポコの歴史は繰り返されるのだ。
Ⅱと表記してますが、Ⅰはありません。
ないと思いますが、好評なら連載するかもです。