第2話 やってられないってのよ
さぁて、自分のお城までめっさ遠いけどどうしましょう?まだダンスパーティも終わる気配ないし。
あ、白馬がいるわ。かわいいわね。ちょっと触ってもいいかしら?あらあら私に懐いてしまったわ。これはもう乗れと言わんばかりね。
よいしょぉ!いい背中ね!でもこのゴワゴワのスカートのせいで全然下が見えないじゃない。よし、誰も見ていないし思い切り破ってしまいましょう!
おりゃぁ!うん!これで乗りやすくなったわ!って誰だ!その木の横に隠れてる奴!
あ、セブ。いつからそこにいたの?違うの?じゃあ影武者?誰?セブの双子の弟?って双子だったの?(しかもセブよりも落ち着きがあるわねぇ。)お名前はエイト?ってあなた方の上にまだ六人いるんじゃないの?いない?ああそう。
もしかしてこの白馬あなたの?それはごめんあそばせ。実は私、不甲斐ない執事のせいで歩いてお城まで帰らなければなくなってしまったの。そうなのよ。私を乗せずに馬車を出してしまって。歩いて帰れる距離でもなくて。
え?僕が送るって?この白馬に私を乗せてってあなた王子でしょう?直にこの馬に乗って来たの?馬車が嫌い?私もそうなの!やっぱり馬の背中に乗らないとね!あなたとは気が合いそうだわ!お言葉に甘えて私をお城に連れてって!
って速い!速すぎる!女性を乗せてんだからもうちょっとスマートに走れない?って聞こえてないわよね!おご!口の中に虫が!私王女なのに!
でも白馬の王子は本当にいたのね。私も今年で二十ウン歳だから夢なんて見てられる年じゃないと思ってたけど、感動したわ!こんな近くにいたなんて!セブとは大違いよ!たくまし・・・い背中・・・息できねぇよ!
私をお嫁にもらってくれないかしらって待てよ!私がエイトと結婚して、セブもクァイルと結婚したら・・・どっちみちあの女が私の義姉に・・・。エイト!お願い!クァイルとは絶対結婚しないでってセブに伝えてってやっぱり聞こえてねぇのか!
でもいいわ。なんだか心の中で通じ合ってるみたいよ。言葉を交わさなくてもいい間柄って最高ね・・・って道違う!今のとこ右!右だから!聞こえてねぇ!こうなったら頭をちょっと小突かないとダメね!
ゴチ。
あっ気付いてくれたわ。今の道右に行ってちょうだい。そうそう。ごめんなさいね。
よし。これで一安心ね。って、あれ、あの馬車どこかで見たことあるわ・・・って私の馬車じゃないのよ!エイト!ちょっと止まって!ってまた聞こえてねぇのかよ!いい加減疲れるわ!こうなったら飛び降りるしかないわね!
いったぁぁい!思いっ切り顔面強打した!ってかエイトの奴気付かないまま行っちゃったよ!あいつはあれでいいのかしら?
セバスチャン?・・・馬車の中にはいないわね。どこに行ったのかしら。見つけたらタダじゃおかないんだから。
あっ!いた!けど寝そべって何してるのかしら?セバスチャン?起きないわね。もしかして、これがタヌキ寝入りというものなの?思いっ切り顔面踏みつけてやりたいわ。
でもここは優しく起こしてあげましょう。セバスチャン、起きて、セバ・・・きゃぁっぁ!頭から血が出ているじゃない!どどどどどういうこと?誰がこんなことを!とにかく馬車に乗ってセバスチャン!タヌキ寝入りはもういいからって違ったわ!仕方ないわね、私がおぶって・・・重い!もしかして着ヤセするタイプなの?馬車まで一苦労よ!
おいっしょ!ふぅ、これでいいわ。私が馬車を引いてお城まで行くしかないようね。セバスチャン、感謝しなさいよ。
とりゃあ!よし!馬も頭いいからちゃんと走ってくれてるわ!お城まであと少しだからがんばってちょうだい!
着いたわ!衛兵!衛兵!早く来なさい!えぇ?王女がどうして馬車を引いてるなんて後で答えるから!馬車の中にセバスチャンがいるの!ええそう!頭から出血しているの!助けてあげて!いや、私のスカートなんてどうでもいいから!故意にやったのよ!いいから早くセバスチャンを!
ってセバスチャン!あんたなんでそんなに眠たそうなの?しかも普通に立ってるし。え?便意に誘われて馬車から降りたとき、石につまずいてコケた?それで頭を打って気を失った?
・・・お前クビだ!もういいからそのまま故郷へ帰れ!衛兵!このヒゲおやじを私の目が届かない所に幽閉して!こいつ王女の私を置いてお城を出てきたのよ!すいませんで済まないわ!
あっお父様!ただいま戻りました。スカートの丈が短い?それは話せば長くなるので、一度着替えて来てからでもよろしいかしら?ありがとうございます。それでは。あっセバスチャン、あんた入ってくんなよ。
もう、私絶対クァイルのダンスパーティなんて行かないわ。行ってもロクな事がありゃしないわよ。いい人もいないし。今まで時間のムダだったわね。
あ、お姉様。ダンスパーティどうだったって、最悪よ。全然良いことなかったもの。お姉様は行かなくて正解だったわね。
え?話したいことがある?なにかしら?あっその前にお姉様、セバスチャンの事でお話があるの。あの人ったら私を置いて行ったのよ?考えられる?私が王女と知ってよ?もう執事失格よね。
さて、お話ししたいことってなにかしら?えぇ!お、お姉様結婚するの?それは素晴らしいわ!どちらの王子と?え?ごめんなさいよく聞こえなかったわ。王子じゃない?じゃあ王様?でもない?じゃあ誰なのよ?
えぇぇえ!庭師と?お姉様気は確かなの?ってセバスチャン!てめぇ誰の許可得て城に入ってきたんだ!
やめてってお姉様、さっきの話聞いたでしょ?王女を置いてけぼりにする執事よ?解雇よ解雇!
・・・今なんて言ったの?セバスチャンの息子と結婚するってそんな・・・お父様がお許しになるはずがないわ!
うちのお城の庭師と結婚だなんて、世間の笑い者誕生よ!とにかく私は認めないわ!だってもしも結婚なんてしたら、セバスチャンは私の叔父になるのよ!
ああ!だからか!だからセバスチャンのやつ、お姉様と一緒にいるときはキリッとしてたのね!
セバス・・・いねぇ!
お姉様、確かにセバスチャンの息子のジェフ・グァント・リーリーは二十九歳で、仕事も真面目だし、とても優しいし、頼りがいがある人よ。でも、でも彼のことも考えてあげなきゃ!彼はきっと冷たい目線を浴びせられるわ。王女をたぶらかしたって噂になること間違いなしよ!考え直して!
てめぇセバスチャン!陰から味噌投げてくんな!あんた意味わかんないわよ!
私はあんたの息子の為を、いたた!鼻に入ったじゃないのよ!いったいわね!目にくるわ!
お姉様!止めさせてよ!ってお前はどうして私にパン粉まぶしてんのよ!味噌とパン粉で作る料理なんて聞いたことないわ!
セバスチャン!心の優しいお姉様にこんな事させてあんた縛り首決定よ!お父様に報告してくるからおとなしく味噌なめて待ってるのね!
あぁもうほんとに最悪の事態よ!衛兵!衛兵!いい?セバスチャンを見張っていてよ。どこかに行きそうな雰囲気ならそこの柱に縛りつけていいから。私が許すわ。