第1話 ペリーゼ家へ行くのよ
ちょっと、痛いじゃないのよ!ほら、アキレス腱が赤くなってるじゃない!だからこの靴履くの嫌だったのよ!ちょっとセバスチャン!(やっぱり執事はこの名前よね。)代えの靴を用意して!ほら、お気に入りのあの赤い靴!ヒールが高くないやつ!あんたの隣りにあるでしょ!ちょ、踏んでる踏んでる!
あっ紹介が遅れたわね。私の名前は・・・長いけどちゃんと覚えてね。マリリアント・クォリンガルル・ランランだから。マリーか、王女様でいいからって、ちょっと!ちゃんと聞いてよね!
まぁいいわ。それでこの真っ白くて長いおひげがトレードマークの・・・あんた、下向いてないで・・・靴?もういいわよ!これがセバスチャンよ。顔はよくある執事の顔を思い出してね。
今私は幼なじみのクァイル・ズンドル・ペリーゼのお城に行く途中なの。
そこでダンスパーティがあるらしくて、私は招待されたってわけ。もうこのパーティも今回で7回目になるわ。でもちょっと聞いて!その度にクァイルは新しい恋人を私に自慢するの。しかもその男性たちは毎回どこかの国の王子ばかり。そうなの!クァイルの奴、自分はモテるのよと言いたいだけなのよ!本当にばっかじゃないの!?でもそのパーティに欠かさず行く私もばっかじゃないの?!
もうすぐ着くころね。
私、馬車って嫌いなの。なにこの揺れって感じよね?やっぱり乗るなら直で乗らないと。馬の背中は最高なんだから。頬を伝う風がとっても気持ち良くて、気がついたら地面に突っ伏しているのよねって落ちてんじゃんよ!
なんだかんだ言って私、運動音痴なの。できることっていえば、腕立て伏せ200回くらいよ。腕の力だけはすごいの。次の日はひどい筋肉痛に悩まされるけれど。
運動神経と言えば、私には二つ年上のお姉様がいるんだけど、とっても運動ができるのよ。この前も乗馬コンテストで優勝したし。運動の遺伝子が全部お姉様に持って行かれちゃったの。まぁその代わり私はお姉様にはない美貌を持っているんだけどねって、セバスチャン!笑ってないで前見て馬車引けよ!お父様に言ってあんた解雇してもらうわよ!
あら、こんな事してる間にお城に着いちゃったわ。あ、クァイルが出てきた。ね?おかしいでしょ?あんな顔で何人もボーイフレンドがいるなんて世の中間違ってるわっていうか、きっとみんなお金目当てだと思うんだけど。その点私は中身勝負だから。
いつも私は彼女に会う度に、眉毛が左右対称じゃないわよって教えてあげてるのに彼女ったら、なんて言ったと思う?これが最近の流行と書いて『はやり』なのって言うのよ。訳わかんないわよね。私は親切で言ってあげてるのに。
なにセバスチャン?余計なお世話?お前に意見求めてねぇよ。
あーらら、また違う彼氏を隣りに連れているわ。しかもかなりの美形よ。でも・・・あれ?どこかで見た顔ね。どこだったかしら?セバスチャン!え?ああ!そうそう!隣りの国の王子よ!あの金髪にブルーの瞳!クァイルの奴め!私も少しいいなぁって思ってたのに!
彼っていうかセブン・ゴール・マントは私より一歳年下で、一度私のお城に来たことがあるんだけど、その時ずっと私の事を見ていたからてっきり私の事が好きなんだって思っていたのに。
セバスチャン、肩振るわせてどうしたの?好きになるはずがない?いいから馬車止めろや!
あ〜あ、クァイルが私めがけて走って来たわ。ほんとブッサイクね。あのやりすぎのパーマなんとかしてほしいわ。お前はライオンかっつーの。私?私はしっとり綺麗なロングヘアー(金髪)よ。でも今日はダンスパーティだからお姫様の王道で縦ロールにしてきたけど。
クァイル久しぶりね!今日はお招きありがとう!(とりあえず営業スマイルをしなきゃね。彼女のパパは私のパパと親友なんですもの。)あらあらクァイルったら顔を真っ赤にして喜んじゃって・・・バカねぇ。
・・・ちょっと、なんでずっと外で話してるのよ?早くお城に入れてよ。かれこれ30分も話してるじゃない。しかもセブとののろけばっか。笑顔も引きつるっつーの。
ああ、私のテレパシーが通じてやっと入れてくれるのね。
わぁ、いつ見てもゴテゴテなのねぇ。思わずドン引きしちゃうわ。でもダンスホールは私のお城より広いのよ。ちょっとむかつく。
ってもう始まってるじゃない!外で話してるからよ!あんたののろけ話に付き合ってやるほど私は優しくないってのよ。なめんじゃないわよ。
さて、クァイルと別れたし、未来の旦那様でも物色しますか。って、セバスチャン!あんた馬車の中でひっそりしてろって言ったわよね?なんでそこでキャビア手掴みで食べてるわけ?ちょっと!みっともないからやめてちょうだい!それじゃ私が普段食べ物与えてないみたいじゃない!まったく、セバスチャンったらお姉様と一緒のときは紳士のようにキリッとしてるクセに。
あ!セバスチャン見て!あそこ!あの一人でワインを飲んでいる青年!背もスラリと伸びて、あらら瞳も澄んだブラウンよ!短い茶髪がグー(死語)ね!ちょっと、あの方のお名前はなんていうの?なに?自分で聞いて来いって?お前今日何しに来たんだよ!
見たことない顔ね。新顔かしら?でも一人でいる今がチャンスよね。ちょっと行ってくるわ。
っと、あらあら笑顔が素敵な方ね。お名前はレオベルト・ジュベルツ・ペリーゼ?どこかで聞いた名前ね?セバス・・・あの野郎、手掴みすんなっつってんのに。
駄目だ。今あいつ呼んだら私まで変な目で見られるわ。自分の力で思い出すしかないわね。なんだったかしら、ペリーゼ・・・ってクァイルの弟じゃんよ!もしレオと私が結婚したらクァイルはお義姉さん・・・死んでも嫌ね。
でも少し見ない間にこんなに成長しちゃって。あなたクァイルと全然似なくてよかったわね。悪いところ全部お姉ちゃんが持っていってくれたんだから感謝しなさいよ?わかってますって?正直すぎると早死にするわよ。わかったらあっちへお行きになってお子様ランチでも食べてなさい。
駄目ね。レオとじゃお話にならないわ。他の殿方を探すことにしましょう。でも探すとは言ってもねぇ。
はぁ、私ホントにセブの事いいなって思ってたのに。クァイルのあんなやりすぎパーマ女のどこに惹かれたのかしら?七不思議もいいところよ。あっセブがこっちをっていうか私をジッと見てるわ。セバスチャン、こっち来んな!キャビアこぼすな!
あら、セブさっきはどうも。びっくりしたわ。あなたクァイルと付き合っていたのね。私と会うために来た?でもクァイルとあんなに仲良くしていたじゃない。こうしないとお城に入れてくれなかった?あの女、やるわね。
でも嬉しいわ。私もずっとあなたに会いたかったの。あら、ちょうどスローな音楽になったわ。って踊りませんかくらい言えないの?どんだけシャイボーイ?まぁいいわ、私の方が年上なんだから。一緒に踊らない?オッケー?じゃあ踊りましょう?あまり上手じゃない?私もよ。下手同士楽しく踊りましょう。
ふふふ。クァイルが口をあんぐりして見てるわ。勝った!私勝ったわ!お城も何もかもペリーゼ家に勝ったことなかったけど、やっとあいつに土をかけてやれる!こんな嬉しいこと今までなかったわ!もうこうなったらダンスを思いっ切り楽しまないとね!
あら?クァイルが私に向かって歩いて来たわ。鼻の穴膨らましすぎて今にも破れそう。
痛!ちょっと!なんで私が突き飛ばされなきゃなんないのよ!尻もちついちゃったじゃない!セバス・・・いいかげん食うのやめろや!あぁセブ、起こしてくれてありがとう。そのままクァイルに一言言ってやってよ!僕の大切な人に何をするのですか!って、大切な人?私生まれて初めてそんな事言われたわ!
クァイルったら泣いてもムダよ。だってあんた泣いてもブッサイクなんですからねっていうか笑える域に入ってるわよその顔。
かわいそうに、ダンスホールから出て行っちゃったわ。あっクァイルのパパが来た。ちょっとやっかいな事になりそうね。殴られるのかしら?え?ありがとうって、何もしておりませんけど・・・。娘はわたくしへの当てつけのためにセブを呼んだ?どういう事ですの?
もともとクァイルはセブが好きで、でもセブは私が好きで、でも美人な私に勝てるものもなくてってセバスチャン、作るなってあんたこれ作り話じゃないから。
それで毎回ダンスパーティに呼んでは新しい恋人を私に自慢していたのね。ムダな苦労だったわね。だったら初めからセブを連れてくればよかったじゃない?なにセブ?僕はダンスが上手じゃないからずっと丁重にお断りしていた?じゃあどうして今回のパーティに出たのよ。ああそうか、私に会うためだったわね。意外に私ってモテるのね。ってそうならもっと早く来てほしかったわ。私一回目から来てるっていうのに。
セバスチャン、思いっ切り鼻で笑ってんじゃないわよ。でもクァイルのママは思いっ切り私にガンを飛ばしているわ。いくらブッサイクでも一人娘ですからね。わかったわよ。私が探してくるから。セバスチャン、行くわよってあの野郎どこ行った?
あ〜もうせっかくのダンスパーティなのになにこの様は?徘徊するために来たんじゃないってのよ。やってられないわ。セブもついて来ないし。夜道を女性一人で行かせるってどういう事よ?さすが世間知らずのおぼっちゃまだこと。ああそうか、お城の中だから平気だと思ってるのかしら。なんだか百年の恋が冷めてしまったわ。このまま帰ってしまおうかしら?
こわっ、どこかですすり泣く声が聞こえるわ。言っておくけど、私ゴーストとか信じないタチなのよってこの声クァイルね。ホンットに声もブッサイク。同情に値するわ。
あぁいたいた。クァイル、さっきはごめんなさいね。あなたが本当にセブの事を好きなら私は身を引くわ。いいのよ、気にしないで。私は一生独り身で生きていくから。冗談よ。さっ戻りましょう?
正直セブはもういいわ。セブも私に会いたいなら直接私の城に来いってのよ。シャイも度を超したらただの人見知りよ。ってセバスチャン!陰で笑ってんじゃないわよ!ってかいつからそこにいたんだ!でも丁度よかったわ。私もう帰るから馬車引いて来て。
クァイル、またダンスパーティに呼んでちょうだいね。まだ帰らないでって、私今日はもう踊る気分じゃないの。ごめんなさいね。(はっきり言ってあんたの城臭いし。)これは口に出して言おうものなら戦争が始まるわね。
それじゃあクァイル、セブによろしくね。また会いましょう。ってセバスチャン!王女を置いていく執事がいるかよ!待てや!思い切りムチ入れてんじゃないわよ!
最悪だわ。あの野郎、私が城に戻ったら即解雇よ。覚えてらっしゃい。