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「…ん」
イヤフォンから漏れた音楽で目が覚める。
電車の揺れが心地よく、ついうたた寝してしまったようだ。
1つ伸びをして、森山加奈子は、ため息をついた。
「…何で今さら。」
__夢を見た。
懐かしい、母の夢。
「約束、か。」
くだらないなぁ…と、加奈子は思わず鼻で笑ってしまう。
自分が「愛されている」ということを信じていた時期もあった。
何1つ疑わないで、ただ素直に、まっすぐに・・・
でもそれが間違いだと気付いたのは小学4年生のとき、
__原因は、母の駆け落ち。
幼い加奈子は、『自分がどんなに信じたって、無駄なことだってある』という現実を突きつけられ、泣き崩れた。
それから加奈子は「頑張れば、なんとかなる」という考えを捨てた。
どんなに願っても、一生叶わないことだってある…と
__もし、これが『大人になった』ということなら、それはひどくつまらない事だと思う。
『次は…駅です。』
電車内のアナウンスが加奈子の降りる駅の名を流す。
加奈子はイヤフォンをしまい、荷物をまとめて降りる支度をした。
これから祖父母の家に行く。父がイギリスに海外赴任することになったため、しばらくの間居候することになった。
しかも、父の方の祖父母はとっくの昔に他界しているため…長年帰っていなかった母の方の祖父母の家に居候することに。
ぶっちゃけあまり行きたくなかった加奈子だったが…
Q、自炊できる?
A,NO
ということで、やむを得ず決まってしまった。
この時ほど自分の不器用さを恨んだことはない。…が、そんなこと思っても後の祭りなのは百も承知。
『…駅に到着いたしました』
電車のアナウンスが鳴り響き、揺れを感じながら電車が停止する。人ごみに巻き込まれないよう、加奈子はサッと電車を降りた。
「…はぁ、なんでこんなことに」
祖父たちが、長年帰って来なかった孫を優しく迎えてくれるとは到底思えない。
それに、あの人たちとは少しだけトラブルがあった。
「…考えるのはやめよう。」
スマホのディスプレイを開き、加奈子は自分の向かう先へと足を急いだ。