プロローグ
中学生の頃考えていた話を書いてみました。
プロローグ
少年は泣きじゃくっていた。
何も分からなくて。
辺は夜の闇に包まれ、やみそうもない地雨が降り続く。電柱に設置された街灯の明かりに縋るようその場に力なくへたり込んでいる。
夜もも更け、人通りも少ない。通りかかったとしても皆見ぬふりをして少年の目の前を通りすぎていった。
「寒い…」
季節は八月中旬。真夏のただ中といえど雨に濡れた体からは体温が奪われてゆき、少年は寒くて身を震わせた。少年は考えるが分からない。自分がどうして此所にいるのか、どこから来たのか。そもそも自分は誰なのか。
「…あっ」
不意に、体を打ち付ける雨粒の感触が消えた。見上げるとそこには朱色の綺麗な傘があった。その傍には二十歳位の若い女性が立っていた。仕事帰りであろう、ビジネススーツに身を纏っている。
女性は自分が濡れることなどまるで気にしない様子で、柔和な笑みで少年に話しかけた。
「君、どうしたの?」
「……」
少年は黙り込んだ。答えが見つからなかったからだ。
「お父さんや、お母さんはどうしたの?」
彼女はしゃがみ込み、少年と目線の高さを合わせ再び問いかける。
その瞬間少年の心からあふれ出す幾多の感情。嗚咽に喉を締め付けられながら、尚も少年は懸命に声を絞りだろうとする。
「…からない。分から…ない…」
彼女は困った顔で考えこむ。「そうだ」と何か思いついたのか女性は声を上げ、空いている左手を少年の前に差し出した。
「とりあえず、家にいらしゃい」
少年はおずおずと彼女の手をとった。その手は冷え切った少年にとってとても暖かかった。
一五分ほど歩き彼女の家に着いた。少し古ぼけているが立派な一軒家だ。だが家に明かりは無くシンと静まっている。彼女は郵便受けの中を確認しする。ダイレクトメールや広告を手にとると、玄関の鍵を開けた
「さっ、上がって」
手探りで玄関の蛍光灯のスイッチを探つけ。少年に促す。
「おじゃま…します…」
靴を脱ぎ、怖ず怖ずと上がった。
居間に通されるとバスタオルで優しく体を拭かれ、少しこそばゆかったが心地がよかった。少年は安心すると同時に、背中から悪寒がのぼってきた。『クシッ』と可愛らしいクシャミをする。
「風邪ひいちゃ大変だから、お風呂に入ろうか」
彼女は嬉しそうに少年の手を引き、浴室に向かった。
浴槽にはすでに湯が張られていた。脱衣所に入り少年の服を脱がしていると、少年のズボンから『ゴト』と音をたて、何かが落ちた。彼女はそれを拾い上げる。
懐中時計だった。そこいらで売っている安物というので無く。骨董品といったほうがシックリくる。無骨だが作り込まれている古めかしいものだった。
「これは?」
彼女に聞かれると、少年は首を横に振る。
彼女は少し考えると、時計を棚の上においた。
「とりあえず。早く入りましょう」
二人はかけ湯をし浴槽に浸かった。
少年は遠慮がちに端のほうで丸まっていた。彼女は後ろから少年の首に手を回し、抱きしめる用に引き寄せた。
「この方が楽でしょ」
彼女は諭すように言う。
「…うん」
暖かさが少年の心を溶かすよう。少年の顔に少しずつ表情が戻ってくる。
「君、名前は?」
互いに名無しのままでは味気ないと思ったのだろう、。彼女は少年に名を尋ねてきた。
風呂の湯でボーっとする頭の片隅に残る記憶。天井を見上げ少年は答えた。
「…キョウ」
と、呼ばれていた。たしか、そうだと思う…
「そう、キョウ君か」
彼女は微笑んだ。