家に帰ると変な生き物がいた。
最近物騒な事件が多いと言われる中、僕の住むこの町は犯罪の「は」の字も聞かないほど平和な町だ。
そんなこの町で生まれた僕は、平凡な日常には飽き飽きしていた。
小さいころから憧れだった、お隣さんで一つ上のお姉さん的存在のかなえさんは、僕の彼女だ。
いつもおっとりとしていて、隣にいると癒される。
でも、デートもしたことなければキスの一つもまだしたことはない。
まぁ、それはいいんだ。
そんなことよりも、だ。
この町では、一番賢いと言われている公立の高校から、かなえさんと家の前まで一緒に帰って来たところまでは、いつもどうり。平凡だけど、幸せなひと時だった。
でも、今はどうか……。
僕の部屋に、何かが居る…!
僕の勘が、何故かそう言っていた!
ドクンドクンと、自分の心音が鳴っているのがわかる。
もしかして、空き巣とかかも知れない…。
おそるおそる、僕はドアを開けて部屋を覗いた。
「いらっしゃい! まぁ、ゆっくりしていけよ」
何かの声が、した。
ガチャン。
僕は、迷わずドアを閉めた。
そして、深呼吸をしてもう一度開けた。
「どうしたんだ? はやく、入ってこいよ」
やっぱり声が、した。
何かが居る!
よく見るとそれは変な生き物で、地球上ではおそらく宇宙人と呼ばれる生命体だと、僕は一目で確信した。そして、そいつは僕の部屋でくつろいでいる!
「え、えと…あなたは誰なんですか…? …てか、ここ僕の家なんで、早く出て行って下さいよっ!」
震える声を出来るだけ抑えながら、僕は自分の背の半分もない黄緑の梅干しのような気持ち悪い生物に言った。
「ハッハッハ! 光栄に思え! 今日からここは、俺のマイハウスにしてやるよ!」
なんだこの、うざい生物!
その生物は立ち上がると、ポンポンと僕の足を叩いて言った。
「まぁ……、ドンマイ?」
うざい! ウザすぎるよコイツ…!
と、そのとき玄関のチャイムが鳴った。
「あ、誰か来た」
僕は、玄関のドアを開けてびっくりした。
そこにいたのは、かなえさんだったのだ。
「こんばんは、ゆう君。 夕飯、よかったら一緒に食べない? たくさん作ったの」
にっこりと、かなえさんがほほ笑む。
ああ、やっぱり癒されるなぁ…。
「うん! もちろ………」
僕は今、たいへんなことを思い出した! 今、僕の部屋には変な生き物がいるんだった!
「ゆう君? えっと、迷惑だったかしら…」
かなえさんが、悲しそうな顔をする。
どうしよう……。
「おーい! 何をしてるんだー」
「っぶへっ!? ちょ、どうして今出てくるんですかっ!」
最悪のタイミングで、玄関先のかなえさんと僕の前に奴はムーンウォークばりの滑らかなステップでやって来た。
嫌だ…。こんな奴と知り合いだと思われたくない…!
「ヘイ★ 誰と話してるんだい?」
壁に寄りかかり、生えていない髪を掻きあげる仕草をしながらウインクしてくる。
若干ハードボイルドなところがまた、僕をいらいらさせる。
「か、かなえさんっ! 僕はこんな奴知りませんからっ!」
あわあわとなりながらも僕は必死に彼女に弁明する。
「…!」
彼女はあああ…と言葉を失っている様子だ。
ああ、平凡かつ幸せな僕の日々、グッバイ……――。
彼女は気持ち悪い生き物を指さし、僕に言った。
「ゆ、ゆう君っ! 何これ、凄く…凄く可愛らしいですっ!」
!?
今、彼女は――かなえさんは、僕に何と言ったか。
「これ、ゆう君のペットですか?! 凄く、可愛らしいです!」
“ス ゴ ク カ ワ イ ラ シ イ デ ス”
どうやら、僕の聞き間違いではなかったらしい。
そんなこと言ったら、絶対アイツ調子に乗るんじゃ……。
かなえさん、綺麗だし。
しかし、僕の予想は見事に外れた。
「ああん? お穣ちゃん…、俺のマイスウィートボーイと、どういう関係だい?」
マイスウィート――。初耳だな。
「あ、私…かなえって言います。ゆう君とはお付き合いさせて頂いてます!」
奴の失礼な態度にも、動じることなく彼女は微笑んだ。
「……別れろ。――今すぐ早急に別れろっ!!!!!」
くわっと怖い顔をする。
何言ってんだ、コイツ。
「コイツは…ゆうは俺のもんだぁーっ!!!!!」
――おい。
僕はいつのまに、今日初めて会った名前も知らないキモい奴の所有物になったんだ。
おいおい、そんなの誰も信じる訳――
「え…。そう、なの? ゆう君…」
――彼女が、彼女が本気にしてるー!
「ちょっと待てィ! 黙ってれば好き勝手言いやがってコイツ…!」
ぐっ、と彼の胸ぐら(多分)あたりを掴んでブンブン振り回す。
「ああん…! 大胆なスキンシップ…っ。人の目気にしてくれないと困るぜ…」
彼は全くしょうがない奴だ、と頬を赤らめながらため息をつく。
「ゆう君…。私とは、手も握ったことないのに…グすっ」
えええええー。
「ちょっと待って待って…!」
僕は、今にも走りださんとする彼女の手をぎゅっと捕まえた。
そして、無表情で感情の読めないキモい生物の視線をビシビシ感じながら彼女――そう、本物の僕の正真正銘のマイスウィートガールのかなえさんに僕は思いを伝える。
「かなえさん…! 落ち着いて聞いて下さい!!! 僕はあなたのことが一番大好きです! あわよくば、キスだって…その先だって、あなたと(結婚)したいんだーーーー!!!!!」
――言った!!! 言えたーー!!!
これで、きっとかなえさんも僕のことを信じてくれるはずだ…!
「えっ……その先…?」
いきなり彼女は赤面した。
「おいおい、マイスウィーートボーイよ…。それは、いささか大胆すぎるだろう…」
何故か、ハードボイルド生物も、赤面していた。
「え、と。さっきのは冗談のつもりだったんですけど…ねぇ」
あはは、とかなえさんは乾いた笑いをもらす。
ちら、ちら、と玄関を見ながら「そろそろ帰らなきゃ…はは」と彼女はそそくさと出て行ってしまった。
どうすることも出来なかった僕は、仕方なくベットの上で三角座りをして落ち込んでみる。
「はぁ~…」
静かになった部屋に僕のため息が広がった。
「そりゃあ駄目だわ、いきなり‘あなたとエロい事がしたい’なんて」
ぽん、と肩に手を置く感触に、僕が横を見ると全てを悟った顔でキモい(略)が僕を見ていた。
――こんなはずじゃなかった。そう、こんなはずじゃ、…なかった。
僕は彼(?)に力なく微笑み、手を振り払いながら言った――
「全部、元はお前のせいだよっ!!!!! このやろー!!!!!」
――結局かなえさんの夕食も食べれなかった…。
ほんと泣けてくらぁ。
明日…、かなえさんに謝ろう、うん。
今日はもう寝ようか。
――あれ。
ちょっと待てよ。
「あー!!! なんでお前ずっと僕の家にいるんだよっ! あやうく一日を締めくくっちゃうところだったよ!!!!!」
ちっ…気づいたか、というような顔で、すでにもう僕のベットに潜り込もうとしていたキモ(略)がいったん静止する。
「アレだよアレ。恋のキューピッド的な?」
弓を引く仕草をしながらウインクし、そいつはニヤニヤした。
それは、とても胸やけがするくらい気持ち悪かった。
――もういいや。
僕は、全てのことについて考えることを放棄した。
それから、僕の家にそいつが住み着いてしまったのは言うまでもない。
お久しぶりです!もしくは初めましてこんにちは!
この作品の締めがテキトーだって?
そんなこと……あるはず…あ、ホントだ。
今回の作品は、昔書いてた作品なんですが、途中までしか書いてなかったんで、
とりあえず完結させちゃおう、という最低な製作過程がありました。すいません。
しかし、一応頑張りました!と、いうわけで次回の作品もよろしくお願いします!