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体文祭四日前

やはり描写があまり良くありませんね。すいません。

楓と志信の部活事情、そしてあの競技のルールです。

裕は結構謎の人物です。参謀ですからw


 楓はいつもより三十分早く登校した。校庭では部活動パフォーマンスやイベントの打ち合わせなどで賑わっている。それを横目にさっさと校舎に入っていく楓は、帰宅部という名の助っ人要因である。

 この高校に入って最初の騒動、新入生歓迎会でのこと。優れた運動神経で有名だった楓は勧誘の嵐に遭った。それだけならまだ良いのだが、方法が拉致に始まり、食べ物で釣ったり脅しを掛けたり、催眠術を使ったり…。身の危険を感じた楓は、やはり今回のように裕と志信を頼り、協力して乗り切ったのだ。結果、購買の食券で雇われる傭兵部員で収まった。先週は食券二十枚でバスケの県大会を優勝に導いた。


 閑話休題。

 楓が上機嫌で自分の下駄箱を開けると、蓋の裏側に水色の付箋が張ってあった。これは裕や志信と待ち合わせする時に色と張る場所によってどこで待っているか知らせるためのもので、三人の中学の時からの、いわば一種の暗号である。


「水色で蓋の上側に貼り付けてあったから…ふんふん、屋上か」


 鼻歌を再開して靴を履き替え、屋上へ軽い足取りで向かっていく。






「おっはよー!!」


 屋上のドアを跳ね開け、溌剌と朝のご挨拶。


「…おはようございます。今日も朝から元気ですね、楓」

「おう! …あれ、志信は?……あー、今回はどこの部活?」


 裕一人だけだったので疑問に思ったが、すぐに答えに行き当たり、質問を変えた。


「弓道部…まあ、正しくは乗馬部ですよ。部活動パフォーマンスで流鏑馬やぶさめ…馬に乗って駆けながら的を射る役を押しつ…もとい、任されましてね。その時に乗る馬を乗馬部のうまやまで見に行っています」

「へえ~。あ、パレードはどうすんの? 剣道? 空手? 柔道?」

「面倒だと嫌がっていましたが、くじ引きで剣道に行かせました」

「くじ引き…」


 志信はあらゆる部活を兼部している。楓のような傭兵とは違い、月曜は剣道、水曜は柔道、金曜は空手で、空いた日は気分によって違う。たまに弓道にも行っているようだ。

 どうしてこうなったかと言うと、新入生歓迎会の日、部活勧誘で先輩方に囲まれ、最初の方こそ楓と逃げたり、威圧で追い払ったりしていたが、面倒くさくなったようだ。志信は全て断ろうとしたそうだが、裕はそれでは先輩は諦めないだろうし、適当に選べばいいと助言したそうだ。

 結果――確かに志信は選んだ。何曜日にどの部活をするかを。

 え、そっち!?と、聞いた瞬間盛大に突っ込んだ楓。曜日ごとに女を換える男かよ、とついぽろっと言ってしまい、容赦のないチョップをもらってしまった。反射的に身を引いて威力を軽減できる楓でなければ、恐らく昏倒して病院行きになっていただろう。


「でもあんだけ兼部して、部活も下手したら週一くらいしか行かないのに、先輩から睨まれないのはすごいよな。俺なんか喧嘩売られまくりだぜ?」

「志信は先輩よりも優れているので、逆に指導していますからね。今ではそれぞれの部活で師匠と崇められていますよ」


(僕から見れば、傭兵部員が許され、あちこちで活躍するあなたの方がすごいと思いますけどね)


 楓はどのスポーツでもすごい。所々欠点はあるものの周りで補える範囲だし、欠点よりも活躍の方が大きい。そのため大会時期になるとこぞって楓を雇う。だがそれは同時に部員を蹴落としていることになる。落とされた生徒は楓を恨み妬み呪い、ことあるごとに楓を襲撃するのだ。楓のあっけからんとした性格のおかげで和解することもあるのだが、和解できなかった者の多くは恨みが濃くて粘着質だ。


「あの競技に出る大半は運動部の生徒だと予想できます。ほとんどの生徒が楓君を狙っていると見て間違いないので、十分気をつけてください」

「うっ。わ、わかってるよ…」


 最近楓の周りは物騒になっていた。鋭い視線があちこちから注がれている。すれ違いざまに「覚悟しろ」と呟くアブナイやつもいた。


「大丈夫ですよ、楓なら。今回は僕達もいますし。それに―――敵が多いほど、燃えるでしょう?」


 これからの襲撃を考えてやや虚ろな目をしていた楓はきょとんとした後、やや置いて不敵と愉悦の混ざった笑みへとその表情を変えた。


「そうだな。裕達となら俺は絶対に負けねぇし、きっとすっげえ面白くなる!」


 裕は内心目を見張り、そして満足げに笑った。


「…そうですね。さて、やる気が出たところで本題に入りましょう。あ、それと僕と志信は忙しいので、今日は昼休憩と放課後は空いていませんからね。楓君がどこまでルールを知っているかはわかりませんが、今のうちに順番に説明しましょう」


 カツラスナイピング…略してカツスナの主催者は生徒会副会長、ターゲットは校長と教頭。風紀委員が阻止に動いている。


「ここまではカツスナに参加しない一般生徒も知る噂の内容です」

「ふんふん」


 時期は体文祭二日目の、ターゲットが壇上に立つなどして目立っている時。皆の注目を集めていない時は無効とされる。カツラを暴く方法は主に遠距離からの狙撃。何故なら、ターゲット二人には勿論、他教師や風紀委員に見つかってはいけないからだ。もし見つかった場合、スナイピングに成功しても無効となり、さらに学校から厳罰に処される。


「生徒会には見つかっても良いの?」

「すでに副会長が掌握していますからね。…とまぁ、ここまでがカツスナに参加する生徒が知る内容ですかね」

「へぇ~。で、まだあるんでしょ? 裕のような情報屋に頼らないとわからない裏ルールが」


 「よくわかっているじゃありませんか」と言い、裕がちょいっと眼鏡を押し上げた。

 楓が言った情報屋インフォーマーとは、この学校の所謂頭脳派と呼ばれる生徒で構成された、非公式の部活のようなものだ。諜報員、処理・分析班、参謀で構成されている。

 裕はデータバンカーとも呼ばれる処理・分析班の幹部であり、数少ない参謀の一人でもある。一年生という入学して間もない身で、すでにレベルBまで…つまりほとんどの情報を得られる地位に就いている。

 そんな裕の秘密は今のところ―――当分の間は知らない楓は、屈託なく笑って言った。


「くひひ、まあね。裕ならそんなところで終わらない、騙されない。裕に調べられないことなんて無い!」

「おや、随分と買われたものですね。僕にも調べられないことはありますよ。多少、ね」

「多少かよ!」

「それはさておき、これからの事は恐らくカツスナに参加しようとしている生徒のせいぜい半数ほどしか知らないであろうことです。…ここで楓君に問題です。先ほど説明したルールの中で、困ったことがあります。それは何だと思いますか?」

「え!? …えっと。うーん。う~ん。…あ~う~あ~…」


 突然の問題に楓は首を傾げ、頭を抱え、しかめっ面で唸りながら必死で答えをひねり出そうとしている。それを面白そうに眺める裕。


(普通にじっと黙って考えられないのでしょうか、彼は。まあ、面白いのでそのままでも良いのですけど)


 楓の行動が面白くてつい意地悪してしまうのは秘密だ。


「ん~……あ、わかった! 誰が勝ちかわからない?」


 誰にも見つかってはいけないのなら証人はいないことになる。別の人が名乗りをあげ、横から手柄を奪うかもしれない。


「正解。きちんと証明になるものが必要なんです。これは生徒会から…正しくは副会長とその側近達から参加証をいただき、それを、カツラを剥いだ道具や取ったカツラに取り付けておけば良いそうです」

「へ~、一人一人違うとか?」


 ぶらぶらと中庭を適当にうろついていた楓が振り返る。


「はい。参加受付は明日までです。これは僕がつてを使って登録しておきますので、生徒証を貸してください。昼は僕の方も忙しいので放課後に登録に行きますね。なので…返却は明日の朝と言うことで」

「ほいほいっと」


 楓から生徒証を受け取ると、改まってピシッと指を立てた。


「楓君、これはとても重要、注意事項です。絶対にこれだけは守ってください」

「な、何でございましょう…?」


 ずずいっと詰め寄ってくる裕にたじたじとなり、思わず上体を逸らせて敬語を使ってしまう。裕は身を離して眼鏡の位置をちょいっと直しつつ、そんな楓を一瞥。


(裕のやつ、ぜってーおれをからかって遊んでやがる。間違いねえ!)


 まだまだですね、と言うような若干得意げな顔がそれを裏付けている。


「一般生徒、ターゲットには絶対に怪我を負わせないこと。これを破ると副会長じきじきのお仕置きが…」


 前回の『夏休みサバイバル』で、無抵抗の生徒に暴力を振るった男子がそのお仕置きを受け、二週間学校に来なかったのは有名だ。


「それともう一つ」


 お仕置きの内容をあれこれ想像しては一人慄いている楓ににこりと笑いかける。


「戦うからには、敗北の二文字は許しません。やるならとことん敵を蹴散らして、引き摺り下ろして、絶対に僕らが勝ちましょう。…どんな手を使っても、ね」

「…おうっ!」


 最後辺りが何か裕らしいなと思いつつ、同時に期待と高揚感が高まり、体が熱く燃え滾った。そんな高ぶりを込め、大きく返事をした。


 この〝どんな手を使っても〟と言う言葉が、今後何度も楓の頭の中で裕の音声で繰り返されることになる。



決意を新たにさらに燃える楓。

だが、体文祭にはほかのイベントもある。

楓のクラスの出し物は…?

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