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体文祭五日前

よっ!俺、楓っていうんだ。

一応この騒動記の主役やってる。

今回はまたこの学校で厄介なイベントがあってさ、また俺が東奔西走するわけ。

まったく、大変だぜ。

・・・何が大変なのかって?

それは・・・ま、これを見てくれ。


「ゆーう~うぅ! しーのぶ~うぅ!」


 とある男子生徒が校舎内を暴走…いや、爆走していた。昼休憩なので廊下にはそれなりに人がいるのだが、器用にぴょいこら避けて速さを維持したまま走っていく。通りかかった生徒達は皆驚きはするものの、誰だかわかるとああまたか…。という感じで生温かく見送っている。と、疾走している彼へ不意打ちに足払いがかけられた。

 うふふぉお!?と奇妙な叫び声をあげながら走っていた勢いそのままにすっ転ぶが、TVで活躍するヒーローのごとく前転して勢いを殺し、シュタッと華麗にポーズまで決めた。目撃した生徒から思わず拍手が送られた。


「10点! …じゃなくて、誰だ!?」


 ばっと振り返ると、妙に威圧感のある長身の生徒が見下ろしていた。


「…って、やっぱり志信か。何すんだよっ」


 犯人である志信は無言のまま。その後ろから、女にも見えるが一応男子…の眼鏡の良く似合う生徒が現れた。


「何って…こうでもしなければ楓君は止まらないでしょう?僕達はずっとここにいましたよ」

「え、裕達ここにいたの?何で教えてくれなかったんだよ。多分ここ、十回くらい通ったぞ?」

「ええ、十二回見ました。…一体何周しているのですか、君は。……体力は余裕で人外ですね(←ぼそり)」

「ん、何?」

「いいえ、何でも。それで、呼んでも気付いていただけなかったので、志信に止めるように頼んだところ、先程のようなことに……」


 二人してちらりと志信を見やるが、やはり無言。


「…OK、把握。まあいいや。二人とも、こっち!」


 楓はあっさりと流すと、二人の手を掴んで連れて行く。…志信の睨みに途中で手は離したが。






「…で?大体検討はついていますが、何の用ですか?」


 防音のしっかりとした第2音楽室で、最強コンビと呼ばれる二人を前に、頭を下げる楓。


「頼む、あの競技に一緒に参加してくれ!」


 楓は必死だった。最近生徒の話題に上るようになったその競技の名は『カツラスナイピング』。周知の事実だが本人は隠し通せているつもりのカツラを、何らかの方法で剥ぎ取る競技だ。ターゲットとなる校長と教頭には勿論、他の教師や風紀委員に知られずに、なるべく多くの人前にいて目立っている時にカツラを暴くのだ。賞品は副会長の莫大な権力とお金で何とかできる範囲の何かと、その美貌で老若男女問わず何人も見惚れさせた副会長様か、体文祭当日にあるミスコンの優勝者のどちらかからのキス。


 ―――キス。それが楓にとって重要なことなのだ。


 幼馴染に、明るく可憐な女の子、高松詩織がいる。昨日彼女と何気なく会話していた時、ミスコンに出ると聞いたのだ。優勝間違いなし!と思った矢先にこの噂である。応援すると後押ししてしまったために、参加を止めろとは言えない。だが彼女の唇が誰かに奪われることだけは何としてでも阻止したい楓は、中学のときからの友である二人に頼ることにしたのだ。


「なるほど、他の誰かが優勝して詩織さんのキスを奪うなら、いっそ自分が優勝してしまえば…と言う訳ですか」

「えっと、別にキスが欲しい訳じゃなくて…いや、欲しいのか…?

って違う。ほ、ほら、副会長の命令で無理やりやらされるのは、後押ししてしまった責任というか何と言うか…絶対にダメだろ。それに……何か、嫌だ。」


 要領を得ない楓の言葉に、裕は溜め息をついた。


(正義感と責任感が半分、残りは恐らく――)


「どうして、詩織さんだと嫌なのですか?」

「…?だから、幼馴染だし、後押ししちゃったし…?」


(これは…無自覚というのでしょうね、やはり)


「…まあこの話はいいでしょう。つまり、詩織さんの唇が誰にも奪われなければいいのですね?」

「え?うん、まあ…。賞品にも興味はあるけど、おれ、あの人苦手だし」

「生徒会副会長、たちばな 朝臣あそみ様ですか…」


 眉目秀麗、博学多才、人心収攬、大胆不敵、機略縦横、才気煥発、権謀術数、博覧強記、秀外恵中、飛耳長目、古今無双、神機妙算…この人物を四字熟語を使って言い表そうと思ったら、これでもまだまだ足りない。人が羨む全ての才覚を持ち、それらを駆使して様々な面で大活躍している超人だ。持ち前の美貌とカリスマで人心をことごとく掌握、まさにこの世の天下を手中に収めるが如くの支配力を手にしている。


「まさに絵に描いたような完璧超人ですが、付け加えるなら独断専行、傲岸不遜、唯我独尊…と、性格に難ありですからね」

「そうそう、世界の全ては俺のもの!的な。今回だってまた気まぐれで面白そうって理由で企画したんだろ?…ま、ちょっとは楽しみだけど」


 副会長は常に面白さを求めている。思いついた面白いことには必ず誰かを巻き込み、そして自分は高みで見物している。


「前回の『夏休みサバイバル』はキツかったでしょうね。無人島に大勢の男子生徒が放り込まれて、壮絶な食料争奪戦になったとか。全員が夏期講習全日と夏休み課題半分を免除、というのに釣られてキャンプという名のサバイバルに……楓君もでしたね」


 楓は思い出したのか、陰をうっすらと纏って遠い目をしている。


「…うん。あれは、地獄だった……」


 理性を失い食料を力ずくで奪い取る者、狡猾に掠め取る者…そして全て奪われ、絶望する者。弱肉強食の世界が、そこにあった。


「男のみ参加可のところで怪しいと思うべきだったのですよ。ちなみに、行かなかった生徒は夏期講習最終日に大ビンゴ大会というものがあって、上位十名は順位に応じて課題免除でした。一位なんか全部免除でしたよ」

「…この世は無情だ…おーあーるぜっと」


 楓は崩れるように床に手をついて打ちひしがれた。


「何か微妙に違うと思いますよ、それ。…話を戻しますが、僕達は参加するつもりだったので、協力しましょう。志信、良い?」

「…裕の望む通りに」

「サンキュ、二人とも」


 この二人はある意味、相思相愛だ。お互い信頼して補い合って、思い合っている。楓がこの二人と出会った時にはすでに固い主従のような絆で結ばれていた。裕は志信にだけは敬語を使わないし、志信は裕には素直で、裕の前でなら笑みさえ見せる。


(おれにも心、開いてくれねえかな。だいぶ信頼されてきたとは思うけど…まだダメかあ)


 楓は密かに仲良くなろうと奮闘していた。理由は単純。この二人を気に入ったのだ。形勢逆転を繰り出す裕の頭脳、圧倒的な武勇を持つ志信。一緒にいるだけで期待で胸が騒いで、絶対に飽きさせない。


(せっかくこんな面白い学校に入ったんだ、精一杯楽しまなきゃな!二人と一緒なら、きっと倍面白くなる!)


 もはや本来の目的も頭の隅に追いやって、期待感に満ち満ちた目をして裕と志信を見る。さながら、ボールが投げられるのを今か今かと待つ犬のようである。裕はそんな楓に苦笑をしつつ、時計をちらりと見やる。


「楓君、残念ですけど…」


  キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン


「…予鈴が鳴りましたので、今日のところはこれで」


 途端にしゅんっと気を落とす楓。本当に犬であれば、耳としっぽが垂れていることだろう。


「まだ時間はありますよ。放課後は僕達も忙しいので、明日の朝に詳しい話をしましょう。早めに来てくださいね。…ほら、楓君は次体育でしょう?行かなくてもいいのですか?」

「あっ!忘れてた。遅れたら皆に悪いし…じゃ、また明日な!」


 一瞬で気を取り直すと、びしっと敬礼してドアを開け、出て行った。それを見送った後、珍しく志信が自分から口を開いた。


「…楓は、『合格』か?」

「さあ、どうでしょう。いずれにせよ、今回できっちりと見させてもらいますよ…君の価値を、ね」


 眼鏡を押し上げ、楓の出て行ったドアを眺める。そして無言のまま、二人は音楽室を後にした。



な?大変そうだろ?

最強コンビと組めることになったけど、二人は二人で何か考えがあるみたいだし・・・。

二人の言う価値って何?

とにかく、これから大騒動が始まるんだ。

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