隼のゆめ
長いこと放ったらかしですいませんでしたorz
オフで原稿が一段楽したので^^
毎度毎度設定なり進め方なりがご都合主義すぎますが仕様なのでご了承ください。
――寂しげな目をした男だと思った。
目を開けると、すぐ傍に男と目があった。
すぐさま身体を翻し、距離を取る。しゃらしゃらと金属めいた何かの音がした。
男は何も言わない。
ここから出せ、と叫んだ。
意識を失っている間に閉じ込められた部屋は、いやに目に痛い白ばかりの部屋で、不快に思うには十分だった。
しかも一緒にそこにいたのは、あの魔導師と呼ばれた男だけだったから、余計に苛つく。
当然の如く手の中に包丁は無くて、いっそ噛み付いてやろうかと睨みつけると、男は困ったように少し首を傾げた。その動作が見た目に似合わず随分と幼く、奇妙に思う。
男に近寄ろうとすると、首元が何かに引っ張られて攣る。
触れると、ざらりと手触りの悪い首輪がつけられていた。同じものが、左足にもついている。
煩わしい、気分の良いものではない。
――俺はユルヤナ。ユルヤナ・リルクヴィスト。
――好きに呼んでもいい。
徐に開いた男の口から零れたのは彼の名前で、思わず呆けてしまった。
こんな殺気立った人間に、自己紹介するなんて普通とは思えない。
押し黙った男は、じっと何かを待っているようだった。
私の何かを。
――千隼。
私の口が、ほとんど勝手に言葉を紡いだ。
――チハヤ?
――千隼。赤城、千隼。
――名前が千隼、姓が赤城。
ゆっくりと噛み含めるように囁くと、男も神妙な顔をして頷いた。
それが何故だか奇妙なほどに可笑しくて、笑ってしまった。
そうだ、「これ」は、殺す必要のないものだ。
――牙を向く必要など、ない。
本能の裏側で、「何か」が私に告げた。
目深に被った真紅のローブ、そのフードとはみ出したうねる髪の隙間から垣間見えた瞳は、南の海の色。
なのに何故こんなにも、北の海を連想させるのだろうか。
寂しげな目をした男だと思った。
それは同情だったのかもしれないし、同族嫌悪にも似ていたのかもしれない。
その美しすぎる海の瞳は、確かに何かを失った目だった。
私のような濁った黒ではない、しかし私とよく似た。
――寂しげな目をした男だと思った。
だから少しくらいは、男を信じてみようと思ってしまった。
投獄直後の出来事です。
こんなに簡単に男を信用しちゃいかんですよ、千隼さん。
でも多分千隼さんがこんなに無条件に信頼する男はユルヤナ以外出てきません。