第一章:2 魔術と陰謀と
「……はぁ」
アインス城の一室、アイリスは自室でため息をついていた。
あの後、アインス城に辿り着くや否やケンジョウは牢に入れられてしまった。
城に入ると傷を負ったアイリスを見て兵士達は騒然。医務室で手当を受け、自室に辿り着いたのは陽も沈みかけの夕方ごろだった。
「お気に入りの戦闘装束だったのに……修理に出すにもカンナはこの城にはいないものね……」
帷子を脱ぎ、着替えながらこの城にいない鍛治師を想い独りごちる。
ぶつくさと文句を言いながら着替えを済ませテーブルに置いてあるベルを鳴らすと、ほどなくして扉がノックされる。
「姫様、いかがなさいましたか?」
「ゴイデス先生の魔術教本と何か飲み物を持ってきてくれないかしら」
「かしこまりました」
これは魔道具の【呼び出しのベル】
普通に鳴らせばただのベルだが、魔力を流しながら鳴らせばメイドを呼ぶことができる。
アイリスがメイドに魔術教本を持ってくるように指示したのは、ただ魔術の勉強をする為ではない。
「ルートヴィヒが私を殺そうとしていた……かもしれない……」
ケンジョウを捕らえたルートヴィヒが嘘をついているかもしれない。裏切っているかもしれない。
そんな考えに至ったのは、アインス城へ向かう魔導車の中での出来事が発端だった。
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アインスへ向かう魔導車の中にて……
「姫様、大変でございましたな」
「……ええ」
「あんなことがあったのです。さぞお疲れのことでしょう。運転は私に任せ、お休みください」
運転席にいるルートヴィヒが後部座席にいるアイリスに声を掛ける。
言葉に甘えて、一眠りしようかと思っていたその時にアイリスの頭の中に声が響く。
『姫様。聞こえるか?』
「……え?」
「どうしましたかな?姫様」
「ルートヴィヒ、貴方、私を呼びまして?」
「いえ、そんなことは」
『姫様、聞こえておるな?静かに──』
「ルートヴィヒ?」
「いえ、だから私は姫様に声をかけてはおりませぬぞ」
「いや、その何かずっと変な声が聞こえる気が」
『誰が変な声じゃ誰が!かの名女優ネルア=ヤサクラもかくやと言わんがばかりのぷりちーな声を捕まえておきながら!!!』
「きゃあ!?」
「姫様!?」
急に頭の中で大きな声が響き、アイリスはパニックに陥る。
声の主は怒りを込めた声色でアイリスに話しかける。
『そのルートヴィヒとやらに聞こえぬように話しかけておる。この声に返事するように思念を飛ばせばわしに伝わるぞ』
「(えっと……こんな感じかしら)」
『それでよい』
「姫様?あの、いきなりスンッ……と真顔になられるとそれはそれで怖いのですが」
「あら、ごめんあそばせ」
正体不明の声に応えながらルートヴィヒに笑顔を返す。アイリスは半ば混乱しながら頭に響く声に対して問いかける。
「(あなたは、いったいなんなんですの?)」
『わしはミタマ。ケンジョウの携えていた刀じゃよ』
「(ケンジョウ様の!?……かた、な?)」
『……東国剣じゃ』
「(あぁ!あの美しい剣ですわね!……え、剣が話しかけてきてるんですの?)」
『そうじゃよ。……美しいと思ったのであれば雑に荷台に詰め込むのはやめてほしかったものじゃが』
「(それはルートヴィヒが)」
『だまらっしゃい!!!!』
「きゃあ!?ごめんなさい!」
「姫様!?いかがなさいましたか!?」
「え、あ、いや!なんでもありませんわ!お気になさらず!」
頭の中に響く声というだけでも意味がわからないのに無機物が声をかけてきているという。さらに混迷を極めるなか、ミタマは続ける。
『よくもまぁ、助けてもらいながらケンジョウを捕らえたりしたものじゃ。そこのルートヴィヒとやらの怪しい部分に触れもせずに』
「(それは……ケンジョウ様に申し訳ない気持ちでいっぱいですわ。でも、だからといって……ルートヴィヒが、怪しい?)」
『怪しいじゃろ。何もかも』
「(何もかも?いきなりケンジョウ様に疑いを向けたのは確かにおかしいとは思いますが、彼の言ったことも別に間違っていないのでは……?)」
『確かに、ケンは彼奴らを皆殺しにした。危険だという道を一人で歩いていた。それは事実じゃ』
「(そもそも何故貴方達はあんな道を通って……あの場に居合わせたのです?)」
『ケンがアインスの街で財布を無くしてな。流れ者ゆえギルドで仕事も受けられず困り果てていたところにオニマルという男がトゥージアに向かうと良いぞと教えてくれたのじゃ。で、この道が最短であると教えてもらったわけじゃな』
「(トゥージアに?)」
『そうじゃ。ギルドを通さずに受けられる仕事があると言っておった。食料もろくに持っておらなんだし、急ぎでトゥージアに向かいたかったんじゃ。で、道中騒ぎを聞きつけて現場に駆けつけたらお主らが戦っておったってわけじゃな』
「(つまり、あの場に居合わせたのは偶然だと言うことですわね?)」
『そうじゃ』
「(ちなみに、そのオニマルという方のことをもう少し詳しく聞いても?)」
『わしもよくわからんのじゃ。とんでもない手練れであることしかわからんかった。ケンはあの男に思うところがあるみたいじゃったが』
「(思うところ、というのは?)」
『それを聞く前に騒ぎを聞きつけてしまったからの。聞けずじまいじゃよ』
トゥージアは、アイリスの居城のある街である。
そこに行けと言ったオニマルという謎の男が少し怪しいのではないだろうか。アイリスは直感的にそう感じた。
しかしミタマはルートヴィヒが怪しいと続ける。
『ケンが怪しいのは、もう良い。暗いしの。しかしそれとは別にやはりルートヴィヒは怪しいじゃろうて』
「(……例えば?)」
『まず第一に、そなたも言ってたことじゃが、あの鎧騎士達がいるにも関わらず手助けに出なかったこと。仮に姫様が一騎当千の兵だったとしても国に尽くすものとしてこの乗り物から出ないのはおかしいじゃろ』
「(それはそうですわね)」
『そして、そなたらが言うには乗り物の中にまで賊が押し入ってたようじゃな?その割には、あまりにルートヴィヒやあの鎧騎士どもは小綺麗ではなかったかの。本人の傷にしろ返り血にしろ、何かしら汚れているのが普通に思えるがの』
「(そう言われると、確かに……?)」
『あと即刻処刑というのもおかしな話じゃ。王国の要人暗殺未遂などと大事件にも関わらず即刻処刑じゃと?どこからの刺客だのなんだのと拷問なりなんなりして聞き出すのが普通ではないのか?』
「(……そう、ですわね)」
ミタマの言うことには一理ある。
確かに一国の姫の命を狙うなどという大問題をたかだか賊の一団が起こすにはあまりに利がない。裏があると見るべきにも関わらず即座に処刑しようとしたルートヴィヒは怪しい。
まるで────
『まるで、ルートヴィヒは何かをケンに押し付けて殺したかったように見える。それこそ、暗殺事件の首謀者はルートヴィヒで、失敗したからケンを処刑して誤魔化そうとしている、とかな』
「(えっ……)」
『可能性の話じゃよ。まぁ、わしの中ではそこまで低い可能性ではないがの。ケンは暗殺などとくだらんことに加担などしておらぬのだから』
「(長年、この国に尽くしてきたルートヴィヒが……王女である私を、暗殺……?)」
ミタマの導き出す仮定がアイリスの心を揺らす。そんなわけがない、と否定したいが否定できない事実がある。しかし、認めたくないアイリスはミタマに疑問を投げつける。
「(仮に……仮にですわよ?ルートヴィヒが私を狙っているとして。だったら今って危険じゃありませんこと?)」
『危険かもしれん。が、仮にルートヴィヒに今攻撃されたとして、お主は何もできずに死ぬしかできんのか?』
「(いえ、そんなことは……)」
『そういうことじゃよ。怪我をしているとはいえ、今のおぬしに攻撃するにはルートヴィヒ本人に危険が及ぶ。ああいった小物は自己保身に走りがちじゃ。今攻撃してくる可能性は低いと見ていいと思うぞ。鎧騎士どももこの車両にはおらんしな』
ケンジョウと鎧騎士達は後ろの車両に乗っている。
仮にルートヴィヒがアイリスに害を為すとしても、ルートヴィヒ本人しか攻撃はできない。
つまり、アイリスに返り討ちにあう危険性が高い為、攻撃はしてこないだろうという予測を立てる。
「(さっき、休めって言ったのも……?)」
『好機を作るためやもしれんな。ただ……』
「(ただ?)」
『これもただの推測じゃ。考えすぎかもしれん』
何も信じられなくなってきたアイリスはルートヴィヒを見ながら深く考え込む。
考え込んでいるとミタマがアイリスに問いかける。
『そういえば、姫様に聞きたいことがあったんじゃ。良いかの?』
「(え?ええ……どうぞ?)」
『命令魔術と、言ったかの。何故あの鎧騎士達はお主の命令魔術が効かなかったんじゃ?王族の命令を無視するなど普通あってはならんことじゃが』
「(何故、と言われると少し難しいですわね。たしか……異なる命令が重なることによって現場の混乱が起きてしまう為重ね掛けはできない、と学びましたわ)」
『おかしな話じゃのう。つまり下の者が上の者に先んじて命令魔術を使えばやりたい放題ではないか。重ね掛けをするべきではない、と言うなら一理あるとは思うが。できないというのであれば下の者が命令魔術を使った暴走を止める手段が無いということじゃろ?』
「(そう言われると、確かに変ですわね。いくら命令魔術を使える人間が限られるとはいえ……)」
『クーデター起こし放題じゃろ』
もしや、命令魔術には何か見落としがある?
その考えに至った頃、ルートヴィヒがアイリスに声を掛ける。
「姫様、アインスへ到着いたしましたぞ。……いかがなさいましたかな?」
「いえ……何もありませんわ。ご苦労様でした。ルートヴィヒ」
『ふむ、ここまでか。姫様、気をつけることじゃ。まだ黒幕が出てきていない以上、事件は終わってはおらぬ』
「(……心に留めておきますわ。ありがとうございます)」
命の恩人を捕らえた後ろめたさと、長年の忠臣ルートヴィヒの裏切りの疑念。自身の考えの浅さ。それら全てに心が押し潰されそうになりながら、アイリスは魔導車を降り城へ入っていくのだった。
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先程の出来事を思い出しているとノックの音が響く。
「どうぞ」
「ひ・め・さ・ま〜!魔導教本10巻セットとお茶、お持ちしましたよぉ〜!」
「アンジェ!?……こちらの城でもその調子ですの?」
やけにハイテンションでふわふわな雰囲気のサイドテールのメイドが入ってきた。
彼女の名はアンジェ。アイリスが小さい頃から付き従っているメイドで幼馴染であり頼れる懐刀。本来トゥージア城で働いているのだが、とある理由で現在アインス城で働いている。
「やっぱり色々探るならバカっぽく見える方が都合が良いんですよね〜」
「貴方の場合それが素ではありませんこと……?」
「それって私のことバカだって言ってますぅー?心外なんですけどぉー?」
「いや、だって……ああもういいですわ。貴方が来たってことは何かあったのではなくて?」
「姫様が到着されたのですぐに会いたくなっちゃって!」
「そう……」
「ま、それはそれとしてぇ」
アンジェがスッと目を細め、冷たい声で話を切り替える。
「暗殺されかかった、というのは本当なんですかぁ?」
「……ええ」
「その怪我も、その時に?」
「そうですわね」
「あの捕らえてきた男が下手人ですねぇ?誰の差し金か、今すぐ吐かせてきましょうかぁ」
「待って!」
殺気を漲らせながら部屋を出ようとするアンジェを慌てて制止する。
その様子に怪訝な顔を浮かべながら問いかけるアンジェ。
「何故ですぅ?」
「あの人は……ケンジョウ様は!命の恩人なの……!」
「……わからないですねぇ。命の恩人だとするなら何故捕まえることになるのか」
「それは……」
アイリスはケンジョウを捕らえることとなった出来事の全てをアンジェに話した。
トゥージアから移動中に賊の一団の襲撃に遭ったこと、護衛兵が全滅し自身も危うく殺されそうになったこと、そこにケンジョウが乱入し賊を皆殺しにしたこと、ルートヴィヒが理由をつけてケンジョウを処刑しようとしたこと、そして、ケンジョウを生かしつつルートヴィヒを納得させる為に捕らえることになったこと……。
全てを聞いたアンジェはため息をついて一言。
「わっかりましたぁ」
と言いながら殺気を収めるのだった。
その様子を見てアイリスはほっと胸を撫で下ろす。
「ケンジョウ様を解放する為に、無実であることを証明したいの。協力してもらえるかしら?」
「仰せのままに!……でも姫様?証明するにしてもどうするつもりなんですかぁ?」
アンジェの質問を受け、テーブルに置かれた魔導教本を指差す。
「ひとつ、確認したいことがありますの。これの内容でケンジョウ様の無実が証明できると思いますわ」
「なるほど?なんで魔術のあれこれで無実が証明できるのかはわからないですけどぉ……なんの魔術を調べましょうかぁ?」
「命令魔術について。この魔術は特殊な条件こそあれど【汎用魔術】に分類されるはずなので教本の半分は読まなくてもいいですわね」
「はぁい。じゃあ避けときますねぇ」
言いながら10冊ある教本のうち後ろ半分を横によけ、2人は命令魔術の項目を探し始めた。
────魔術は【汎用魔術】と【精霊魔術】に分類される。
汎用魔術とは、大量に魔力を消費するというデメリットがあるものの行使できるだけの魔力さえあれば誰でも使用することができる。
精霊魔術とは、少ない魔力で精霊の力を借りて行使する魔術。しかし、ハービディア大陸に住む者ならば誰にでもある魔力と違って精霊の力は万人に扱えるものではなく、天賦の才が必要となる。
────魔術によっては魔力以外の代償を払うこともある。傾向としては術者から他人に対して直接生命活動に干渉を与える魔術は術者の命を蝕むような重い代償が発生しやすい。
治癒魔術や死霊魔術などがこれにあたり、基本的には禁呪指定されている。
「うーーーん…………この教本、基礎的なことしか書いてないですわ。飛ばした方がいいかしら……アンジェの方は?」
「こっちは魔術の一例が載ってますねぇ……【重力系】……【投射系】…………あっ!姫様!これ!」
「【命令系】……これですわね」
────【命令系】魔術
概要:対象者の魔力回路に呼びかけ、術者の命令を遂行させる魔術。対象者の身体能力向上の効果もある。
魔力消費は対象者の数が増えれば増えるほど大きくなる。
呪文:【命令】
詠唱破棄不可
条件:発動時に対象者を視認すること、対象者が聖銀の物を身に付けていること、対象者が呪文を耳にすること。それら全ての条件が揃った場合、効果が発動する。ハイフレイア王国軍が使用する魔術で、この魔術の為、ハイフレイア王国軍では一兵卒から将軍に至るまで聖銀のブレスレットの装着が義務付けられている。
一般市民が使用したり下階級の者が上位階級の者に使用すると死罪となる。
「特におかしな点はなさそうですけど?」
「……確かに、私が【命令】を使った時の対象者は生ける鎧でしたから、聖銀の装備なんて身に付けてない……つまり【命令】が効かないのは普通ですわね。ただ、だとするとやはりおかしいですわ」
「え?」
「ルートヴィヒが使ったのはなんだったのか、という話ですわ。……ん?解説がページを跨いでますわね」
────詳細:王家の血を引く者が使う【命令】はより強力なもので、対象者が他の術者から【命令】を受けていたとしても、上書きすることができる。便宜上、ここでは王族が使用するものを【王族命令】と呼ぶ。
【命令】は反発しようとすると魔力回路が機能不全を起こし、重度の魔力酔いが起きる。【王族命令】に反発した場合、魔力回路が爆発し、死に至る。
「うへぇ〜なんか怖いこと書いてますよこれぇ。魔力回路が爆発ってぇ」
「ルートヴィヒが言っていた、命令は上書きができないというのはやはり間違いだったんですのね……でも、それはそれとしてルートヴィヒが使ってた魔術はなんだったのかしら……あら?」
────呪文:【緊急命令】
詠唱破棄不可
「これですわ!ルートヴィヒが使ってた魔術!」
「えーっと……なになに……?」
────条件:対象者と術者双方が、有効化された【雇用契約書】の対象者であること。対象者が呪文を耳にすること。
詳細:【命令】より【緊急命令】の方が魔力の消費が大きい。簡易的な命令魔術で、反発しようとすると軽い魔力酔いが起きる。
【雇用契約書】は主にギルド等で扱われており、冒険者がパーティを組んだり、護衛依頼等で依頼者と冒険者を繋ぐ書類となっている。第三者の魔力による有効化が必要で、契約終了後も有効化した者の手で雇用契約書を無効化する必要がある。仮に雇用契約書が有効化されている際に契約者が破ったりした場合、破った本人の心臓に雇用契約書の紙片が突き刺さるようになっている。
「怖ぁ〜!!!」
「……これで、決まりですわ」
教本を閉じ、目を閉じる。
次に開いた眼には、哀しみと決意が宿っていた。
「ルートヴィヒは賊と結託し、私を殺そうとしていた。これは、間違いないでしょう。召喚獣が雇用契約書なんて使うわけがありませんものね。アレはおそらく、車に乗り込んだ賊達に鎧を着せただけのものでしょう」
「ルートヴィヒ様を、サクッと殺っちゃいましょうかぁ?」
「いえ、流石にそれは今はよくないですわ。ルートヴィヒに関しては、もう少し確実な証拠を掴んでから問い詰めるべきですわ。ルートヴィヒの背後に誰がいるのかも気になるところですし。
ケンジョウ様に関しては……お父様かお兄様に事情を話してケンジョウ様を闘技大会までに釈放できるように計らってもらいましょう」
「陛下はまだ、病状がよろしくなく面会謝絶の状態でぇ……レオニード様はまだフォルスから戻られてないですねぇ。明日到着予定のはずですよぉ」
「それならば明日、お兄様が帰ってきたらすぐに話をしに行きましょう。ケンジョウ様には……お詫びと現状わかっている情報の手紙を送りましょう。釈放が近いとなると少しは心も晴れることでしょうから」
言うやいなやすぐに手紙を書き始めるアイリス。
封筒に手紙を入れ、封蝋で留め……そしてもう一人の懐刀を呼ぶ。
「シャドウ!」
「ここに」
「うわ怖」
呼ばれて即座にアイリスの目の前に跪いた姿で現れ、アンジェに怖がられたこの男はシャドウ。ハイフレイア王国では非常に珍しい、ヤマト由来の忍び装束を着ている。アイリスの懐刀その2。
普段はトゥージアで庭師の仕事をしているが、訳あってアインスに潜入していた。
「姫様、事件があった時……救援に参上できず申し訳ありませんでした」
「いいんですのよ。アインスで調べ物を命じたのは私ですから。それは置いといて……新たな仕事です。この手紙を明日、投獄されているケンジョウ=イズミ様に届けてきなさい」
「はっ」
「えー!私に行かせてくださいよぉ!」
「あなたはルートヴィヒが保管してるであろう雇用契約書を探しなさい。掃除と偽って部屋に入るなどもできるでしょう。誰かの手によって無効化される前に見つけ出すのです」
「はぁい……」
指示を出し、軽く一息つく。
そして思い出したかのように二人に問いかける。
「そういえば、二人はオニマルという人物について知ってまして?」
「……いいえ」
「知らないですぅ」
「そう……。今伝えた仕事と並行してオニマルという人物と生ける鎧に扮した賊二人を見つけてきなさい。賊二人に関しては重要参考人なのでくれぐれも殺さないように。オニマルは見つけたら接触せずに監視をするように」
「はっ」
「はぁい。……でもどうやって見つけるんですかぁ?特にオニマルの方」
アンジェの当然の問いに気まずそうにしながら一言。
「……貴方達に一任しますわ」
「そんな無茶なぁ!」
アンジェの悲痛な叫びが夜空にこだまする。
こうして、アイリスの動乱の一日は終わっていくのだった。




