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巫の剣  作者: 白銀 飯白


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プロローグ:悪夢

神と人の国、【ヤマト】

その国のとある田舎……タカマ村の近くの山の開けた場所で、二人の兄弟が剣を交わしていた。


「イズミ真流奥義……アギト!!!」


山の中で兄、マサムネの声が響く。

声と共に上段より振られる木剣を、相対する弟、ケンジョウは剣の横面を叩き、捌く。そしてすぐに構え直す。

構え直した姿を見て、マサムネは声を掛ける。


「ケン、捌いたらすぐに打ち込め!……また本気を出さないつもりか?」

「だって……」

「だってもへちまもない!どうしていつも手を抜くんだ」

「だって痛いの嫌だし……痛くするのも、されるのも僕は嫌だ」

「あのなぁ……はぁ。俺の弟なのになんでこうも甘くなったかな……。そんなんじゃいざという時に困るぞ」

「……人を斬らなきゃいけない時なんて来ないもん」


兄の言葉にそっぽを向くケンジョウ。

その様子を見てマサムネはため息をつく。


「次の巫剣みつるぎの守護者は俺達だぞ。何かあったとき、戦わなきゃならないんだ。その相手が何であれ……」

「でも父さんが戦ってるの見たことないよ」

「……はぁ。型はお前の方が上手いのに、これじゃ宝の持ち腐れだよ」


何を言っても無駄か、とマサムネはケンジョウから目を離し村の方を向く。

もくもくと、煙が上がってくるのが見えた。


「ん?もう飯時か?」

「じゃあ今日はもう終わりでいい?」

「嬉しそうだな…………いや、ちょっと待て。なんか……おかしい」


マサムネは上がってくる煙に違和感を覚える。

飯時に上がってくる煙にしては……やけに大きく見える。調理のそれではなく、もっと大きいものが燃えているような……


「ケン!急いで村に帰ろう!」

「え!?う、うん!」


胸騒ぎがひどい。嫌な予感が走る。

何か、悪いことが起きている。そんな予感が。




そして、そういう予感は。

何故か、よく当たるものだ。




───────────────────




目の前で燃え上がる村。

響き渡る悲鳴、断末魔。

むせかえるような、鉄の臭い。

好き放題暴れている、ヤマト軍の兵士。

絶望を前に呆然と立ち尽くす兄弟……


────あぁ、これは夢か。


剣の修行から帰ってきた自分達を襲った、悪夢。



「え……?」

「ケン、家が心配だ!走れ!」


二人の少年は駆け出す。

目指す先は、神社。村の端にある少年たちの自宅。

悲鳴の中を駆け抜け、石段を駆け上がり、鳥居をくぐり、ようやく辿り着いた二人を迎えたのは、村のように焼け落ちてはいないものの、酷い惨状だった。

手水場ちょうずばは壊され、玉砂利は所々えぐれ、拝殿の壁もズタズタになっている。そして一番目を引くのは境内に血溜まりの中で倒れている数人の兵士と……同じく倒れている父。


「父さん!?」

「……マサムネ……ケンジョウ……」


父に駆け寄り手を握る。

倒れている父は、かろうじて息があった。

しかし……一目でわかる。致命傷だ。間もなく、命の灯火が消える。


「父さん!」

「親父!何があったんだ……!」

「……2人とも、無事、だったんだな……あぁ……最期に2人の無事を知ることができて……よか、った……」


父の手を握り呼びかける。

2人の声が聞こえていないのか、父はうわ言のように続ける。


「兄弟ふたり……助け、合って………………巫剣(みつるぎ)を……守っ……」

「親父!?」

「いやだ……父さん!!!うわぁぁぁ!!!」


握っていた手から微かに感じていた力が抜け、重くなる。

終わりを察し、立ち上がる兄。終わりを受け入れられず、亡骸に縋り付く弟。

泣きじゃくっている弟に兄が声を掛ける。


「……ケン」

「うぐっ……ひっく……」

「ケン!」

「っ!……」

「……本殿を確認しにいこう。父さんの言葉に従う為にも」

「うっ…うっ…………わかった……」


父との約束の為……ようやく立ち上がるケンジョウ。

マサムネと共に神社の本殿へ向かうと、そこには本殿の扉を開けようとしている2人の男がいた。

片方はヤマト軍の兵士。もう片方は何やら見慣れぬローブのような黒衣を纏っていた。


「まーだ開かないの?グズだねぇ」

「全然壊せないんですよ!鍵も無ければ壁も傷すら付かないし!」

「ふーむ……結界の類かなぁ。じゃあどうしたもんかな…………ん?」


黒衣を纏う気怠げな男がマサムネ達に気付く。

にやっと口角を上げ、こちらに近づいて来る。


「君たちさぁ……もしかしてここの子かい?よかったらさぁ、この本殿の開け方教えてくれない?」

「断る!」


マサムネは腰に差してあった木剣を男の首を目掛けて振り抜く。不意を突かれた男はよろめく。


「ケン!あっちの奴を頼む!」

「う、うん!」


マサムネの言葉に応じ、扉をこじ開けようとしている男に飛び掛かる。木剣を後頭部に向けて振り下ろす。


「ん?」


と振り返る兵士の眼前に迫る木剣。気付くのが遅すぎた。

そのまま顔面に木剣が吸い込まれていく。


「うがっ……!」

「うわぁぁぁぁ!!!!」


初めて無抵抗の人を全力で殴った。その嫌な感触を振り払う為か、はたまた恐怖に駆られてか。ケンジョウは叫び声を上げながら剣を振り下ろす手を止めない。


────怖い。痛いのは嫌だ。怖い。怖い。怖い。怖い。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。


強打を繰り返す。剣の型なんて構わずただがむしゃらに。ひたすらに。何度も、何度も。

ぐちゃっと湿った音が聞こえても。半狂乱になりながらも。強打を繰り返す。


息を切らせて手を止めたときには、目の前には顔面の原型がわからない人の形をした塊が転がっていた。


「……ぇ……?うっ……うぉえっ……!!」


冷静になった頭で、自身が作り出した死体を見た。

臓腑ぞうふが不快感を訴える。たまらず吐き出してしまう。


────初めて、人を殺した。


「こ、殺した……?僕が……?……はっ……に、兄さん!」


助けを求めてか、謎の男と戦っていることを思い出したか、後ろにいるはずの兄に向かって振り向きながら呼び掛ける。


「はぁ……はァ……!」

「その歳でなかなかやるねぇ、少年。あっ、ほら弟さんが呼んでるよ?」

「くそっ……!」


そこには息を切らせて、木剣は折られ、ところどころ怪我をしたマサムネがいた。黒衣の男は余裕の表情だ。マサムネはケンジョウに振り向くことなく叫ぶ。


「逃げろ!こいつは強い!!!」

「えっ……えっ……?」

「子供だからって逃がせないねぇ!」


黒衣の男はマサムネに掌底しょうていを叩きつけケンジョウのいる方向へ吹き飛ばす。

反応が遅れ、飛ばされてきたマサムネを受け止める形で本殿の扉に叩きつけられる。

そのとき、本殿の扉が……開いた。


「ふーん?なるほどね……人を選ぶ結界を張ってただけか。あのおじさんの腕でも持ってきてたら楽だったかな」


黒衣の男が迫る。

ケンジョウとマサムネは本殿へ逃げ込む。

本殿の中は広々としていて、その中心に刀が二振り祀られている。緊急事態だというのに本殿の中は荘厳そうごんで、神がそこにいると感じさせる圧力があった。


「あっ、それが神剣!?へぇ、綺麗だねぇ!」


二人を追う形で本殿に入ってきた男ははしゃぎながら近付いてくる。

あぁ、奴がここに来たら2人とも殺される。この刀が得体も知れない奴の手に渡ってしまう。

マサムネは意を決してケンジョウに向き直る。


「大丈夫だ、ケン。俺が守るから」

「兄さん……?」


そういうや否やマサムネは祀られている刀の一振りを手に取る。

そして謎の男に向き直り、抜刀する。その瞬間、マサムネの周りに衝撃が走る。


近くにいたケンジョウはその衝撃波に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。痛みがひどいのか、打ちどころが悪かったのか、意識が朦朧もうろうとする。

意識を手放すその直前、刀から発される黒いモヤがマサムネを包み込むのが見えた──────




───────────────────



「……い!……おい!……ケンジョウ=イズミ!」

「はっ!?」

「立ち寝とはずいぶん余裕だな。そろそろお前の出番だぞ」

「そう……ですか」


呼びかけてきた兵士から剣を渡され、閉じた門の前に立ち、その時を待つ。


……あれから15年、か。


あの後、なにがあったのか。目が覚めたら本殿の中で一人だけだった。

村に降りたら、村人達の死体に加えて襲撃者達の無惨な死体が増えていた。

どうしたらいいのかわからないまま、壊滅した村で生きていくことなどできるわけもなく……本殿に残された一振りの刀と共に旅に出たのだった。


はじめの数年は兄を探していた。しかし10年くらいすぎた頃……もう半ば諦めていた。父との約束も忘れ、巫剣みつるぎの一振りを持ってどこかに消えた。そんな兄を探すのが馬鹿らしくなった部分もある。


諦めがついて少しして、そろそろどこかに根を下ろすかと考えていたら国王含む都の要人が皆殺しにされる事件が起きた。現場を見てはいないが、都の門に晒し首になっていたらしい。

その事件がきっかけでヤマト国内の治安が非常に悪くなった。国内各地の領主達がこぞって国取りに動き出した。

戦争に巻き込まれるなどたまったものではない。そんな考えのもと、海を越えてハービディア大陸のハイフレイア王国に逃げてきたのだ。


なのに、何故今俺はこんなことに……


今いる境遇にため息をつく。すると扉の先から大きな声が聞こえてきた。



「続いて東ゲートより入場するのはこの男ォ!!!ケンジョォォォウ、イズミぃぃぃ!!!!」


観客が騒めく闘技場内に大きく響く声。扉が開き、ゆっくりと歩みを進める。


「えー、このケンジョウ=イズミの罪状は……んん???王女暗殺未遂ィィィ!?」


驚きに響く司会の声。その声に呼応するかのようにざわめきが大きくなる。


「何故そんな奴がこの大会に出られるんだ?」

「さすがに即刻死刑であるべきだろ」

「でもこの大会大量殺人鬼も出るしセーフセーフ」


そんな観客の声が聞こえ……つい、呟いた。


「そんなこと、俺はやってない……」








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