だって男の子だから
「いやー、混んでますね先輩」
「本当それ。なんか帰りたくなってきた」
僕たちは15分ほど歩き地元のショッピングモールに到着した。
休日というかこともあって人が多く、家族連れやカップルで溢れている。
僕と花音も他の人から見たらカップルに見えるのかもしれない。そう考えると悪い気はしない。
「ダメですよー! 先輩の為に来てるんですからね!」
ちなみに今はもう手を繋いでない。あの後すぐ我に帰った花音が真っ赤な顔で「は、恥ずかしいです…」と言った事でやめた。
そんなに恥ずかしいなら最初からやらなければ良かったのではとは思ったけれど。
「にしても…相変わらず視線がすごいね」
さっきからすれ違う男たちはこぞって花音をチラ見していく。
「まあ、私にかかればこんなもんです! こんな美少女とデート出来るんですから先輩は感謝してくださいね」
「はいはい」
なかには恋人と一緒に来ている男もいて、彼女に怒られていた。
まあでも、同じ男として彼等の気持ちは痛いほど分かる。
可愛い女の子とすれ違ったらチラッと見ちゃうよね。
分かる分かる。だから僕がすれ違った巨乳なお姉さんの山脈に目を奪われちゃったとしてもしょうがないよね…
「先輩…」
だからそんな冷たい目で僕を見ないで…
「…私だって…負けてないのに…」
「え? なんか言った?」
「なんでもないです!」
なんだか良くない流れな気がする。ここはさりげなく話題を変えて方向転換しよう。
「というか結局さっきのって意味あったの?」
「え」
「手を繋ぐって付き合ってからやることじゃない?」
「別に付き合ってなくてもお互いを思いあってならやりますよー」
「それはそうかもしれないけどさ。個人的にはもっと前段階から知りたいというか」
もしかしたら、いきなり朱莉から恋愛の先生をやってくれなんて無茶振りされて花音もテンパってるのかもしれない。
それならそれで申し訳ないな。僕としては正直なところ役得だったけど、花音には恥ずかしい思いもさせてしまった。
「な、なるほど。確かにそうですね。家族以外で先輩と仲のいい異性なんてこの世に居ませんもんね」
「いや、それは言い過ぎじゃない!?」
事実だからって言っていいことと悪いことがあるだろ。
なんなら仲のいい異性どころか同性するいないけどね。やだ、何だか泣けてきた。
「というか花音って結構ウブだったんだね」
こうなったらコチラからも攻撃してみるか。
「は?」
低っく! 今すごい声低かったんだけど!
怖すぎるでしょ! なんか寒くなって来たんですけど!
「ほ、ほら。だってさっき凄く顔が赤くなってたし…そういう事に慣れてないのかなーって」
「な…!」
「可愛いところもあるじゃん」
「か、可愛い…!」
やば。何言ってんの僕…
自分で言ってて恥ずかしくなってきた。
「ほら、早く行こう」
恥ずかしさを誤魔化すように歩き出そうとしたのだが花音に服の袖を掴まれてしまった。
「先輩…」
どこか期待するような視線を花音から向けられる。
「な、なに?」
「も、もっと…褒めてください」
「え」
「ほら、女の子を褒める練習ですよ」
キツいって…僕はもう既に恥ずかしく死にそうなんだけど…
やらなきゃダメ?
「先輩…ダメですか?」
やらなきゃダメですね。
そんな瞳をうるうるさせて悲しそうな顔で上目遣いに頼まれたら断れないよ。
「今日の服すごい似合ってる」
「可愛いですか?」
「可愛い。正直めちゃくちゃ可愛いと思ってる」
「か、可愛い……えへへ」
僕に褒められて嬉しそうに口元を緩める花音。
これはお世辞ではなく本当に思っていることだ。
今日の花音は白のブラウスに黒のフレアスカートという服装で小悪魔系の彼女にとても似合っている。
「……あ、ありがとうございます先輩。そんなに褒めてくれるなんて…」
「花音が褒めろって言ったんじゃん。僕だって恥ずかしいんだからね。で、どうだった?」
「ふぇ? 何がですか?」
「ふぇ?」じゃないよ。君が言い出したんだよ。
「ほら、女の子を褒める練習だよ」
「そ、そうですね! 特別に合格にしてあげますよ!」