先生
「これはどういうことなの朱莉ちゃん…?」
「何がー?」
「いや、何で花音がここにいるの?」
妹に相談をした翌日。何故か家に幼馴染の臼井花音がいた。
花音は僕の一個下で、隣の家に住む臼井一家とは昔から家族ぐるみの付き合いだ。
「それは花音ちゃんが今日からお兄ちゃんの先生になるからだよ」
「え、どういうこと? 僕の相談が花音に筒抜けなわけ?」
何それ?
幼馴染にまで彼女が欲しいと思ってるのがバレるのは恥ずかしすぎない?
「そうですよー。先輩が女の子からモテたいという願望があるのは私にバレバレです!」
僕に向かって楽しそうに言ってくる花音。後からこのネタでいじられる気しかしない。
というか、既にもう弱みを握られた気分だ。彼女は昔から何かと僕をからかって来る傾向にある。だからこそ花音にはこの事を知られたく無かった。
「マジかー」
「マジだよー。アタシは忙しいから、お兄ちゃんのお世話は花音ちゃんにお願いしたんだー」
「そんな簡単にお兄ちゃんを見捨てないでよ」
そしてそんな簡単にお兄ちゃんの機密情報を他人に渡さないで。
「だから代わりの先生を用意したじゃん」
「先輩は私じゃ不満なんですかー?」
不満というか、どちらかと言えば怖いんですが。いったい何を企んでいるんですかあなたは?
「いや、不満というか…花音はそれでいいの? こんな事してもメリット無いでしょ?」
とはいえ彼女が真面目に指導してくれるなら頼もしい。
改めて彼女を見る。腰まである綺麗な黒髪に雪のように真っ白な肌。程よく引き締まり、豊かに膨らんだ胸。それでいてアイドルのように可憐な容姿。
まごうことなき美少女だ。学校でモテモテであろう彼女にアドバイスをもらえるなら悪くはない。
それに朱莉もよく花音がモテるって話しをしてくるし。
「別に大丈夫ですよー。面白そうですし…」
「おい、僕で遊ぶ気満々じゃん…」
最後のセリフは小声で言ったつもりかもしれないけど、ちゃんと僕に聞こえてるから。
「ごほん! じゃあアタシは上に行くから後は若い2人でよろしくー!」
「そんなお見合いみたいな」
「それじゃあ行きましょうか」
「どこに?」
「レッツゴーです!」
「普通に無視されるじゃん」
・・・
「それで、この後はどういう予定なの?」
とりあえず家から出た僕は行き先を花音に尋ねる。
「そうですねー。とりあえず私とデートしてもらいます」
「で、デート?」
「先輩は私とのデートは不満ですか?」
「いや、不満というか……それはいきなりすぎない?」
まあ、こんな美少女とデート出来るのは役得だけど。
「そもそも本当は朱莉とショッピングする予定だったんですよ今日」
「あ、そうなの」
「だから先輩の教育も兼ねてデートしようかなーと?」
「教育って…」
「なので先輩は私をしっかり楽しませて下さいね」
「が、頑張るわ…」
「じ、じゃあ…先輩」
「え、何?」
何故だか顔を少し赤くさせた花音が腕を後ろで組みながら上目遣いで何かを催促してくる。
いや、それは可愛いすぎない?
ただでさえ花音はアイドルのような可愛い見た目をしてるのに、そんなポーズされたら好きになっちゃっいそうなんだけど。
「ほ、ほら…先輩」
そう言って彼女は恥ずかしそうに手を差し出してくる。
まさか手を繋げってことじゃないよね? 流石にそれは羞恥心がヤバいんだけど。
「だ、だから何?」
どういう意味なのかもう一度聞き返す。
「むー、手を繋いでほしいです…」
すると花音はぷくーっと頬を膨らませて拗ねたように言った。
え、本当にそうなの?
というか花音もそんなに恥ずかしそうにするなら無理しなくてもいいからね?
「別にそこまでしなくても」
「いいから、しっかり私をエスコートして下さい」
「はい」
花音からの圧に負けた僕はゆっくりと彼女の手の方へ自分の手を伸ばす。
「い、行くぞ…」
「は、はい。ど、どんとこいです…」
手を繋ぐと温かくて花音の体温を感じる。ああ、どうしよう。凄いドキドキするし、まともに思考ができない。
ふと横を見れば、恥ずかしそうに少し下を向きながらも頬を緩ませて嬉しそうな表情の花音。
いや、だから可愛いすぎでしょ。そんな魅力的な表情されたら惚れちゃうって。
「も、もう…い…いいか?」
いい加減に手を離さないと色々とまずい気がする。まずは元の状態に戻って精神を落ち着かせないと。
「ダメです! こ、この…まま…駅まで行きますから」
え…本当にこのまま駅に向かうの?
そんなことをしたら心臓がバクバクしすぎて駅までもたないかもしれない。
我ながらチョロいとは思うけど、このままじゃあ幼馴染に本当に惚れてしまいそうだ。