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・主人公 なぜか慕う

 ジェードは座学こそ超優秀だが、魔法も戦技もボロボロだった。

 放課後になると女子生徒たちは口々に噂した。


「うーん……期待外れかなぁ……?」


「顔はいいけど将来性なさそー。あれなら態度悪いヴァレリウスの方がマシみたいなー?」


「あはははっ、アイツさー、最近マジで態度悪いよねーっ!」


「実家焼き払ったって噂、あれマジでしょ、きっとー! 昨日の集会もヤバさキレキレだったもーん!」


 新入生は期待外れであると。

 これから学園最強となる男に、言いたい放題だった。


 ジュードはまだ教室に残っていた。

 というか、女子生徒たちはジュードに聞こえるようにわざとやっているのだろう。

 さすがにウザくなったので、着席したままた前の席のイスを蹴り上げた。


「わっ!? 何よアイツッ、マジ態度悪っ、調子乗ってんじゃないのーっ!?」


「も、もう、いこーよっ。……ルプゴス王子様にまでケンカ売る狂犬だよっ、あんなの目を付けられたら犯されちゃうよ……っ!」


「キャハハハッ、ありえるぅーっ!」


 ゲーム画面ではシルエットだけだったモブキャラ以下のくせに、ウザさは原作の3倍を超えていた。


「ありがとう、ヴァレリウスくん」


 クソモブを教室から追い出すと、何を勘違いしたのやらジェードが俺の席に来た。


「ウザかったから少し脅しただけだ、別にお前のためじゃねーよ」


「僕、ジェードです」


「んなの知ってる」


 この野郎、2単位もミシェーラ皇女と机をぴったりくっつけて楽しそうにしやがって……っ。


「あの、ヴァレリウスさん、僕と友達になってくれないでしょうか……?」


「…………は?」


 こんな展開、ゲーム本編にはない。

 というかこの後はミシェーラ皇女とメメさんに、学内を案内してもらう展開になっていたはず。


「僕に色々、教えて欲しいんです!」


「え、なんで、俺に……?」


 ミシェーラ皇女とメメさんはどこに行った?

 このイベント、タイムラグがあるのか?


「過去に例のない勢いで成績を上げていったすごい人だって、クラスのみんなに聞きましたっ! どうしたらヴァレリウスさんみたいにっ、強くなれるんですかっ!?」


 不倶戴天の敵となる存在、主人公ジェードが目を輝かせて俺を見る。

 赤面症なのだろうか? また顔を赤くしていた。


「どうって、どうもこうもないというか……」


「ダメですか……?」


 憧れるような眼差しが悲しそうに足下へと落ちる。

 好きか嫌いかで言えば、俺はこの作品の主人公が大好きだ。好きでなければ1000時間も遊んでいない。


 それが友達になりたい、師事したい、と言ってきている。

 だが俺と主人公はシナリオ上では敵同士だ。ヴァレリウスを敗北させて、破滅を招いた死神だ。


 シナリオ展開次第では、いずれ俺の前に立ちはだかる最強の敵となる。

 それがなんで、仲間に加わるみたいな展開になっているんだ……?


「別に、ダメじゃねぇよ。一緒に訓練するか?」


「ぁ……っっ、いいんですかっ!?」


「俺も今学期から剣に力を入れることにしたんだ、一緒に切磋琢磨するのも、まあ悪かねぇかな……?」


「嬉しいですっ! ありがとうございます、ヴァレリウスさんっ!」


「……ヴァレリーでいい。女みてぇだけど、親しいやつはそう呼ぶ」


「ありがとう、ヴァレリー師匠! これからよろしくお願いします!」


「同い年で師匠は止めろ、俺がダブってるみたいだろ……」


 物語の主人公の親友となり、共に切磋琢磨する。

 こういう展開に憧れないファンなんていないだろう。

 あまりに想定外過ぎて、またチャートを大幅に書き換えることになるが……。


 これはこれで、有りか?


「よければ校舎を案内してやろうか?」


「はいっ、喜んでお供しますっ!」


 コイツ、いちいちかわいいな……。

 なんかこう、小柄だし、顔キレイだし、声が女みたいだし、妙に良い匂いするし、弟みたいに甘やかしたくなってしまう、ような……。


「お、ミシェーラだ。ちょうど良い、アイツも仲間に入れよう」


 教室を見るとミシェーラの後ろ姿を見つけた。

 呼び止めようと息を吸い込むと、制服の袖を引かれた。


「ミシェーラさんには座学でお世話になりましたしっ、これ以上ご迷惑をかけたくありませんっ。男同士、2人だけがいいです……っ」


「……ん、んんー? そうか……?」


「ヴァレリー師匠と一緒がいいですっ」


「……んじゃ行くか」


 これでは俺がメインヒロインになってしまわないか?

 というか、まさか、ガールズラブゲームならぬ、ボーイズラブゲームに方向転換なんてしてないよな、このゲーム……?


 何を紹介しても、主人公ジェードはキラキラと輝く眼差しで受け止める。

 いや、まさか、そんな、まさか。


 シナリオの根底からの破壊を願った俺だが、男同士の主人公争奪ゲームに加わる気など毛頭ない。


 俺は学校の案内を終えると、訓練場で雑魚過ぎて相手にならない主人公をボコボコにした。


 うーん、信じられんくらい、弱い。


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