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9/お互いを支える協力を仰いで1

 放課後。授業をサボった罰として2人は職員室に顔を出していた。


「――まさかお前ら付き合ってるとはな。だからって羽目を外すのはどうかと思うぞ、忍、梅花」


 2人の前にいるのは担任の吾妻。自分の椅子に座って2人をみてはため息を吐く。忍と梅花は初日に喧嘩をしたほどでそんな関係にならないと思っていたが、彼女の耳にも誤解の噂が届いているためため息を吐いていたのだ。

 

 いや、付き合っているのは彼女にとってどうでもいい。しかし、授業をサボって2人で同じ場所にいたのが良くなかったのだ。


 なにせ誤解とはいえ恋人ということになっているのだから、2人一緒にいた。つまり羽目を外したと勘違いするしかないのだ。


「私だってな……私だってなぁ! 羽目を外したいんだよ! この歳にもなって独身なんだぞ!」


「ちょ、先生、声でかいです……」


「あ……コホン……すまん、取り乱した……というかここで話するのもあれだな、指導室で話そう」


 絶対最初からその方が良かっただろ。と心で突っ込みつつ、担任が独身であることに驚いている梅花と共に忍は担任の後を付いていく。




「それでなんでサボってたんだ2人は」


「その前に1ついいですか」


「なんだ忍」


「俺たち別に付き合ってないです。サボってたのは事実ですが……その後クラスメイトの……誰だっけ」


 生徒指導室に入り、直ぐに忍が誤解を解くために真実を話す。だが、昼休みに聞いてきた生徒の名前だけは覚えておらず、言葉につまると今度は梅花が話し始めた。


「あ、茜ちゃんがその付き合ってるか聞いてきて、つい嘘を……」

 ――嘘とはいえやっちゃったわけだし、誤解は解かないと……ううでもそれはそれで悲しい……。


「……あぁ、そういうことか」


「え、わかってくれたんですか?」


「……まぁこの際だ。梅花はな嘘吐き――」


「わーー! わーー!」

 ――ダメだって! 流石にそれは!

 

「はぁ、梅花。教師は生徒を守る役目もあるが限界がある。なら同年代で助け合える関係を築くことで困った時支え合えるんだぞ。それが本当の友達っていうんだからな。それに私からみて、最初こそぶつかりあってたけど今では仲良しに見える。なら尚更じゃないか?」


 吾妻が梅花に呆れた眼差しを向け、味方は多い方がいいとばかりに梅花のことを話そうとする。しかしそれは梅花が秘密にしようとしていたこと。先生が知っているのは、彼女の体質を親から聞いておりなおかつ本人からも相談を受けていたことがあるからだ。


 そして吾妻の言っていることは間違いではない。味方を増やせば嘘つき体質により、嘘を吐いてやらかした、もしくは困ったときに頼れる存在になるのだから。


 しかし吾妻が話そうとしている梅花の秘密は忍も知っている。


「な、ならちょっと待って! 私が言うから!」

 ――人づてで言われるのはなんか違うし!


「……えっと、その……空木さんの体質って嘘つき体質のことだよな?」


「ん? 前に梅花が話したのか?」


「話したことないよ!?」

 ――何で知ってるの!?


 梅花は自身の秘密である嘘つき体質のことを心でつぶやいただけで、忍には直接言ったことはない。だからか本人はもちろん、学校内で梅花の体質を知る吾妻も忍が梅花の体質のことを知っていることに驚いている様子だった。


 無理もない。彼女たちは忍が心を読めることを、そして梅花の心のつぶやきだけがしっかりと聞こえてしまうことを知らないのだから。


「……空木さんに体質の秘密があるように、俺にも秘密があるんです。でも空木さんのように生活に支障をきたすものじゃないですが」


「つまりその秘密とやらで梅花のことを知ったと」


「まあそんなところです。と言っても全貌は知りませんが……確か正式名称が……」


嘘吐き症候群(ライアーシンドローム)……まぁここまで知ってるならなおさら協力してお互いを支えてもいいんじゃないか?」


「まあ俺は別に構いませんけど、たださっきも言った通り俺は一人でもなんとかなるものです。だから支えられる筋合いみたいなのは何ひとつないんですけど」

 

 人の体質の秘密を一方的に知りながらも、自分のことは話さない忍。吾妻の提案にもいい返事は返さない。


 突然身体の奥に深く刺さる視線を感じ忍は恐る恐る梅花の方へと視線を向ける。

 

「菊城くんずるい! 私の事を一方的に知りながらなんも話さないなんて! 私の体質の秘密知ってるなら教えてくれてもいいでしょ! フェアプレーってやつだよ!」

 ――菊城くんのこと聞かないと公平じゃないよー! あ、でも言わなかったら言わなかったで毎日問い詰められる……?


「はぁ……プレイしてどうすんだよ……普通に公平、フェアだけでいいんだよ」


「く……ここで私の頭の悪さまでバレただと……」

 ――まあ普通に間違えただけなんだけど。


 梅花の心の声が忍にだけ筒抜けだからこそ、言わないことで毎日のように根掘り葉掘り聞かれることを知り、逃げることはできないと悟る。仮に逃げることができ、ごまかしたとしても彼女は忘れることがないのだから、どうしたものかと悩む。


 だが考えたところで答えはすでに出ていた。


「……確かに一方的に知るのはフェアじゃない。でも……教えることはできない。俺はまだ空木さん、君を信用しているわけじゃないし、人となりを知ったわけじゃない。だから……ごめん」

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