44/海静の頼みと雪落の秘密
「その、頼みたいことと、いうか……えっと……ゆ、雪落さんと友達になってあげて、ほしいの……」
「……え?」
聞き間違いかと思わされたその言葉。梅花自身も、海静も雪落が梅花を嫌悪していることを知っている。それでも梅花は友達になりたいと、今回の一件のようなことが再び起きないように仲を深めようと思っていたのだが、まさか海静が申し訳なさそうにその話を振ってくるとは思ってもいなかった。
「そ、その……雪落さんは、空木さんを誤解してる、みたいで、その……」
「誤解?」
「う、うん……その、空木さんは人に無関心だって、言っていて……見ていて腹が立つって……噓吐きは気に食わないって……昨日も、本当は……その、空木さんが気に入らないからって、私を脅して使って……それでその、やめさせるには、空木さんと雪落さんの仲を深めた方がって、思って……」
忍と瑠璃が違和感を感じたと言っていたのは、このこと。理科室では海静が手が滑ったと供述していたが忍と瑠璃はそれが嘘だと勘付いていたのだ。しかし確たる証拠もなければただの勘。故に違和感としか感じ取ることができなかったのだ。
だが梅花はその真実ではなく別の言葉が気になっていた。
「う、噓吐き……?」
梅花は噓吐き症候群を患っており、本人の意思とは関係なく嘘を吐いていることがよくある。しかしその事実は特定の人以外知られていない。そしてここ最近では忍がフォローに入ることもあり余計周囲に噓吐きだとバレる心配はなくなっていた。
にもかかわらず海静は梅花を噓吐きだと――正確には雪落だが――言っているのが気になったのだ。
「ね、ねえ……もしかして、雪落ちゃんって心の声が読めたりする……?」
「き、聞いたことない……から、その、わからない……でも、たまに変なこと言ってたような……でも、なんで……?」
無いと信じて雪落は忍と同様に心が読めるのか海静に尋ねるがいい返事はない。しかしなにかはある可能性があるような口ぶりで、突然の質問の意図が見えず上目目線で小首を傾げ困惑する海静。
その様子に少しの間を置いて自分が何を聞いたのかを冷静に理解して、わたわたと腕を振り、頭の中に思い浮かぶ適当な言い訳を声に出す。
「あ、ほ、ほら、自己防衛のために噓吐くことくらい誰にでもあるじゃん? でもそれが嘘かなんて心でも覗かない限り本人でしか知りえないものだからさ……よし、希望ちゃんのお願いだし、雪落ちゃんと仲良くなれるように努力してみるね!」
「あ……うん、が、頑張って」
海静が言ったことを確認するためにも雪落にちゃんと聞いてみるべきだと決心する梅花。もしも雪落に心を読める力があるとするならば、忍の心の声が聞こえなくなった現象についてなにか聞けると思ったからだ。
すぐに行動に移そうとしたのだが、チャイムが校内を包み込み踏み出した足がピタリと止まる。そのまま雪落を探しに行っても入れ違いになり、なおかつ授業をサボったとして再び反省文を書かされる恐れがあったのだ。
今すぐにでも行動に移すタイプだからこそ、動かした足を元に戻し同クラスとはいえ放課後まで待たなければならないじれったさに、悔しさを顔に浮かばせて軽く地団駄を踏む。しかしそんなことをしたところで時間は止まらない。梅花は一旦雪落と話すことを諦めて自分の席へと戻った。
そして放課後。
忍には一緒に帰らない旨を話し、そそくさと教室から出て行った雪落を追った。
「ゆ、雪落ちゃん!」
「空木さん、本当に話しかけないで。私は貴女のことが大嫌いなの。話したくもないし同じ空気すら吸いたくない」
ホームルームが終わってすぐのことだったため、難なく廊下を歩いていた雪落を捕らえる。
名前を呼ばれてわかりやすく聞こえるように舌打ちをする雪落。歩みを早め暴言を吐き捨てる。
それでも確認したいことがある梅花は暴言に屈せず後ろをついて歩き言葉を紡いでいく。
「それは……わかってるけど、一回でいいから話を聞いて!」
「無理。この後部活だし。さっさと帰って帰宅部」
「なら! ……なら、雪落ちゃんの部活見学してもいいかな。終わるまで待つよ」
「は? はた迷惑なんだけど……ていうかついて来ないでくれる? はっきり言って目障りでうざい」
「じゃあ、話を聞いてほしい。その後はなるべく関わらないようにするから」
頑なに梅花を拒む雪落。何も障害がなければ梅花は負けを認め今日は帰っていただろう。しかし、頭から離れない海静の言葉の障害が“諦め”という言葉を奪い去り、めげずに雪落に耳を傾かせようと雪落の前に出て話を聞いてほしい旨を言う。
その想いが伝わったのか、早く繰り出していた歩みを止めた雪落は猛獣のように鋭い怒りと殺気が浮かばせて、目尻のあがった瞳で睨みつける。直後舌打ちと共にこう言った。
「一度だけよ。貴女の言葉なんて聞きたくもないけど、聞かないと更に付きまとわれそうだから」
「ありがとう!」
「はい終わり。それじゃ」
一緒にいたくないと言うほどに嫌っているからか、話を聞いてくれることに対してお礼を耳にすると、即座に梅花の横を通り抜け歩みを進め始める。
しかし肝心な話はできていない。梅花は急いで雪落の進行方向に立ち塞がり、半ば強制的に雪落の歩みを止めた。
その行動に雪落は更に眼光を尖らせる。
「今のは話聞いてくれるお礼だけど!?」
「ならさっさと本題を言って」
ここまでしつこく付きまとわれうざいと思う気持ちこそあれど、海静が言う通り根は優しいのか今度はしっかりと梅花の話に耳を傾ける。そして梅花から発せられた言葉に、雪落は何かを見破られたかのように目を丸くした。
「……変なこと聞くんだけど、雪落ちゃんって、人の心を読めたり見たりできる?」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ネトコン12、今作は見事1次落ちでした。
ですが別作の「この恋は90°の二等辺三角形でできている」がまさかの1次通過し、1年の時を経て連載再開しました。
百合作品なので苦手な方はあれですがご興味ある方は是非お読みください。
……執筆作品増えたから今作の執筆と推敲が更に遅く……時間が足りない……カタ( ;´꒳`;)カタ




