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Aliの提案を断る理由もなく、帰りたくなればホテルはすぐそこにある。私は軽く承諾した。今度は静かなバーに連れて来られた。店の奥に進みソファに座る。他にも客はいるが大声で話す客はおらず、薄暗い青い照明の店内が余計に薄暗く感じた。


中年の女性にバーボンを頼んでAliの話の続きを聞く。私は明日の朝起きて、何時にホテルを出れば会場に間に合うか、化粧は薄くするか、考えていた。彼の話を聞いていないことがばれたのか、Aliは私の傍に体を寄せてくる。左手を私の右膝にのせて、話の流れのように、意図していないかのように、でも情熱は隠さずにその手を太腿に移動させる。


「もう電車がなくなっちゃったよ。」


日付が変わっていた。Aliがそんなことくらい計算していたことはわかっていた。私の部屋に転がり込む魂胆なのは初めからの計算だ。


「えっ、大変、タクシー呼ぶ?」


私は彼の企みに全く気付かない振りをして驚く。朝まで部屋にいさせてくれないかと懇願してくるAliに、まるで処女のように戸惑って見せる。アルコールは私を詐欺師にも女優にもしてくれる。終点のわかっている駆け引きを楽しむ。


処女の役にも飽きて、私は彼をホテルの部屋に入れてやった。アルコールが切れるのが怖くて、ミニバーのウィスキーをラッパ飲みする。出来損ないの売春婦の役になる。Aliの黒い体が私に突進してくる。


Sexには何の価値もない。Dennisに愛されない私に何の価値もないように体は意味を持たない。Aliの好きなようにさせてやる。私はもう微笑まない。何も感じない。快感も悲しみもなく彼が終わるまで待つ。


黒い腕が白い背中に回っている。クローゼットの鏡に蛇のように映る。黒い大蛇に巻き付かれた白い体がぼやけて見える。Aliは若いせいかすぐに終わって私から離れ、隣に横になって眠った。


アルコールが冷めていくのを感じながら、私はシャワーを浴びた。長い髪も洗い、何が変わったのか考えた。何をしようとDennisが薄まることも消えることもないのはわかっていた。何を足掻いているのか、確認したかったのか、濡れた髪をタオルで乾かしながら鏡の私を見た。


乾ききらない髪をタオルで巻いてそのままベッドに寝転がった。ダブルベッドでもAliが邪魔だった。一人で眠りたい。もうアルコールも助けてくれない。眠りに逃げるしかない。


数時間して外が明るくなってきた頃、Aliは起き出してまた私の体を求めた。うつらうつらして眠れないままだった私は夢の中で彼に体を渡した。


もうどうでもよかった。Dennisがいなくても生きていかれると自分に思い知らせたかっただけだ。的外れな当てつけをしても、心と体を切り離せたとは思えなかった。心が黙って体を見ているだけだ。体などどうでもいいのだ。心をどうすることもできないことが問題だった。手に負えない心を持て余し、翻弄され続けている。


そんなことを考えているうちにAliは満足したようにシャワーを浴びに行った。私は馬鹿な実験を終了して起き上がる。Aliがまた連絡すると言って出て行く。もう次がないことを確信しながら、私は笑顔でまたねと返した。


やっと一人になれた部屋で私はAliの唾液が体中についているような気がしてきた。またシャワーを浴びて、まだ乾ききっていなかった髪をもう一度洗う。支度してDennisに会いに行くのだ。


彼の反応を楽しみにしながら、白いワンピースを着て化粧をする。少女の役か、新婦の役か、青い花柄の大きいストールを肩にかけてみる。結ぶべきか、かけるだけにするか、二十分鏡の前で悩む。ホテルを出なければならない時間になった。



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