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不躾な誘いだが、よくあることに私は慣れていた。


「今日はもう疲れたし、明日用事があるから。」

「一杯だけだよ。いいバーがあるんだ。」

「そうねえ・・・」


ため息をつきながら考える振りをした。会ったばかりの黒人のウェイターと飲みに行く気持ちなど全くなかった。彼は私のタイプでもなく興味もない。Dennisと出会ってから彼以外の男に恋愛感情を抱くどころか、男はただの人間でしかなくなっていた。


「連絡先教えるから。携帯貸して。」


強引な彼のやり方に閉口しながら、明日の予定を考えていた。Dennisに会うということだけが私の頭を支配していた。しかしその支配に反逆する隙間が開かれ、彼に会う前に自分が彼なしでも生きていかれることを証明したい思いが顔を出した。


彼と別れてから三年、誰とも寝られなかった。誰も愛せないから仕方がない。体から心を引き離すことができない。愛なしにsexができるならDennisを小さくして遠くに追いやることができただろうか。彼が小さくなることは想像ができない。


それよりも私の理解不能な意地が、他の男に抱かれることもできると言いたがっていた。愚かな意地を張ることでDennisに自分が自立した人間で、彼に何も左右されることはないと示したかった。彼を思う心を痛めつけてやりたいとも思った。


「私に貸して。あなたの携帯。」


私は黒人のウェイターの携帯を受け取ると自分の携帯に電話を掛けた。


「これでいいでしょ。仕事に戻って。」

「ははは、了解しました、ボス!」


彼はふざけた仕草で他の席に注文を取りに行った。私はサンドイッチに手を付け、情けない衝動を見下ろした。


店が混み始め、私は黒人のウェイターが気づかぬうちに外に出た。彼から連絡が来ても来なくてもどちらにも従うつもりでいた。ホテルに戻り、明日着ていく服を考えていると、夜八時過ぎにメッセージが届き、あのウェイターが飲みに行こうと言う。Aliという名だった。私はDennisに会う前にやらなければならないことを済ませるために出掛けることにした。


ホテルの前で待っているAliはデートらしく小綺麗なスーツを着て微笑んでいた。彼は少し離れた所にあるバーにタクシーで移動しようと提案してきたが、私は歩いて行かれる近場でいいと主張した。


「OKじゃあ・・・この通りの少し先に行こう。」


私は彼に連れられて地元の人たちで賑わうバーに辿り着いた。ヨーロッパなのに西部劇に出てきそうな装飾の施された大きなバーだった。カウンターの角に腰かけ、ダークビールで乾杯をした。


Aliは自ら自分の生い立ちや将来の夢まで話し始めた。彼は英語、フランス語、オランダ語、両親の出身地のスワヒリ語が話せるらしい。将来は国連で通訳の仕事がしたいと言う。私は聞いていた。発せられる言葉も物語もAli自身にも何の関心もないが、いい人の振りをするために微笑みだけは作っていた。


彼は私のことを聞いてきたが、適当にかわして彼が自慢話をできるように方向を変えていった。自分のことを話すつもりはなく、嘘もつきたくない。


私はDennisと話したことを思い出していた。


「もし、明日地球が終わるとしたら何がしたい?」

「ケイと一日中ベッドの中にいるよ。」


それがその時だけに通用する脆い囁きであっても私は嬉しかった。彼の真実の気持ちであろうと、作られた砂糖菓子であろうと、同じことだった。Dennisを求める私の心が真実だったから。


私は更に度数の高いビールを注文した。アルコールはいつも必ず私の願いに応えてくれる。私は努力しなくてもAliの話を流して、笑顔を作れるようになった。アルコールで高揚する心はもうどんな罪でも平気で犯すことができる。


「違う店に行こうか。」


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