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Bruggeは私の一番好きな街だ。毎日ビザ取得のために部屋を探し、申請書類を準備することに疲れていたので、この小旅行は久しぶりの気晴らしになった。屋根のない美術館と呼ばれる街は、子供の時に読んだ本の挿し絵と重なった。子供の私はその分厚い本を飽くことなく何度も見ていた。何十年もかかって私は記憶に辿り着く。


朝から街を散策して疲れたので、ランチを兼ねて休憩することにした。鐘楼の周りには様々な店が立ち並ぶ。洋服、チョコレート、宝石、レストラン、バー、雑貨屋、ビール専門店、土産物屋・・・私はカジュアルなレストランを見つけ、日差しを避けて暗い店内に入った。


実際、店内は暗くはなく外からの光で十分明るかった。ウェイターにサンドイッチと珈琲を注文し店の前の通りを過ぎる人を目に映していた。ウェイターが珈琲を運んできて、フォークやナプキンを私の前に用意する。


「日本から来たの?」


急に話しかけられて見上げると、人懐こそうな目をした黒人のウェイターが立っている。若く見えるけれど三十代半ばだろうか。黒人の年齢は大雑把にしか判断できない。


「えぇ、よく日本人だってわかったね。」

「すぐわかるよ。アジア人の観光客がよく来るから。中国人とは全然違う。」

「すごい。中国人と日本人が見分けられるなんて。」

「簡単だよ。」


ウェイターは支度が終わっても私のテーブルに居続けて話した。私は昼間の太陽を楽しむように会話を楽しんだ。


「ほら、仕事よ。お客さんが入ってきた。早く行かないと。」


カップルが店に入ってきたのを見つけて、私は彼に指令を出した。


「ははは、了解!」


彼は笑いながら店先に向かって行った。気を抜くと考え込んでしまいそうだった私の気持ちを持ち上げてくれたようで、私は彼に感謝した。


私は明日のことを想像して緊張していた。思考の隙間を見つけてDennisが巧妙に滑り込んでくる。私を微笑ませる時もあれば泣かせる時もある。もう記憶でしか戯れることができないのに、私は彼との鮮やかな世界を作り出す。色褪せず古びない世界が幻影であることを忘れさせる。私はいつまでもその脆い世界で生きていた。


「スペシャルサンドイッチだよ。」


黒人のウェイターが既に親し気な関係を築き上げてランチを運んでくる。


「ありがとう。」

「観光なの?この近くのホテル?」

「うん、そう。」


私は全く興味のないウェイターに正体を明かす気もせず適当に返事をした。


「八時に店を閉めるからその後会わない?」


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