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1巻発売記念SS 出会う前の物語・上

 ひっそりと告知していましたが、本作は書籍化します。

 今週末の12/13に一二三書房サーガフォレストさんから発売となります。

 タイトルは、死姫と呼ばれた魔法使いと辺境の最強剣士 に変更となりました。


 本SSは、書籍化告知前から本作をブクマしてくれて、その後も色々あって更新していなかったのにそのままでいてくれた読者の方々……つまり、なろうの更新通知が行く人への宛てた感謝のSS、エドガーの旅発ちのエピソードです。

 

 書籍の方はとても美麗なイラストも付いています。

 是非一冊お買い求めいただき、セシルとエドガーの冒険を応援頂きますよう宜しくお願いいたします。

 


「エドガルド」

「はい」

「武者修行に出ろ。正体は伏せて、一人でだ」


 ある日の普段通りの夕食。

 唐突な言葉に、アウグスト・オレアス辺境伯の屋敷の夕食の広間は静まり返った。

 

 その言葉を発したのは、大きめの長テーブルの上座に座るアウグスト・オレアス辺境伯、ダヴィド・ド・ヴィリエだ。

 若いころは美男子でならした彼も、さすがに老境に差し掛かって顔にはしわが刻まれつつある。


 歴戦を物語るいくつもの刀傷が残る顔に浮かんだ表情はいつもと変わりはない。

 つまりそれは適当に思い付きで言ったことではないことを示していた、


「失礼ながら……父上。必要ありますか?」


 エドガルド……エドガーがナイフを置いて聞く。

 テーブルを囲むエドガルドの兄であるマルセルやマルセルの妻ローラのみならず、その場に控えていたメイドや侍従たちも同じ感想を抱いた。

 

 ジェヴァーデンの防衛戦で単騎で敵を退けたエドガーの武名は知らぬものはいない。

 獣憑き(ライカンスロープ)の力を使わなくても今や領内に敵はいない。


 そして、獣憑き(ライカンスロープ)

 人をはるかに超えたスピードと重い大剣を軽々と振り回す膂力は、一騎打ちはおろか集団での戦いでも敵を寄せ付けない。

 あの強さを見れば誰もが思うだろう。この領内どころか、この大陸でも彼にかなう者はいないだろう、と。


「世界は広く、武勇の士は多い。それに戦場は多彩で時に理不尽だ。

お前の前に立ちふさがる者や試練は必ず訪れる。様々な場で戦いその時に備えよ」


 有無を言わさぬという口調でダヴィドが言う。

 家長であり偉大なるアウグスト・オレアス辺境伯の言葉に逆らえるものはいない。つまりこれは決定事項である、ということだ。


「代わりと言ってはなんだが、あの剣をやろう。なるべく早く出るように」


 あの剣、とはジェヴァーデンの防衛戦でエドガーが勝手に武器庫から持ち出した大剣だ。

 魔法銀(ミスリル)製ともいわれる古い大剣であり、あまりの大きさに誰も上手く振ることが出来ず武器庫に仕舞われていた。


「……分かりました」


 多少の不満と困惑を漂わせつつエドガーが部屋を出て行った。


「なぜですか、父上」

「それは私も同感です。お義父様」


 エドガーが出て行ったドアを見つつ、マルセルとローラが二人が聞く。


獣憑き(ライカンスロープ)とはいえ、不死身ではない。急所に流れ矢を受ければそれまでだ。あいつは本当の戦場を知る必要がある」

「ですが……それこそ一人では何が起こるか分かりませんよ」

「それも含めてだ。油断して落命するのであればその程度の男ということ……だがそんなことにはなるまい」


 壁に掛けられた亡き妻でありエドガーの母でもあるシャルロットの肖像画を見てダヴィドが言う。

 その言葉からは、息子の能力に信頼を置いているということが伝わってきた。


「しかし、そういうことなら領内でもなんとでもなるのでは?」

「そうかもしれんが……」


 マルセルの言葉に、ダヴィドが考え込むようにして天井を見上げた。


獣憑き(ライカンスロープ)……あの強さは人のそれではない。人を超えた能力を持つ者には……きっといずれなにかそれを使って挑むべき試練が訪れる」

「そういうものですか?」


「そういうものだ。だからこそ、あ奴は供えねばならぬ。来るべきその時に」


 ダヴィドの言っていることは曖昧というか雲をつかむような内容だ。

 ただ、不思議な説得力があってマルセル達が口をつぐんだ


「まあ、大丈夫だろ、あいつなら。戦場で流れ矢を食らうなんてありえないさ」


 明るい口調でそう言ったのは次兄であるフィリップだ。


「まあ……確かにあいつが不覚を取る場面は、正直言うと余り思いつかないな」

「そうだろ、兄さん」


 フィリップが言って、マルセルが頷いた。

 張りつめた空気が少し緩む。


「そんなことより、俺が心配するのはだな……あいつが旅先で変な女に引っかからないかって方さ」

「……フィリップ」

「いや、これは真剣な話だぜ。一流の剣士や騎士が女に溺れて……なんて話はだな……」


 マルセルが軽口を咎めるように言うが、フィリップは気にした様子もない。


「いいから黙らぬか」

「はいはい。ていうか、俺はエドガルドの能力を信じてるって言いたいだけなのにねぇ」


 ダヴィドの言葉にさすがにフィリップが口をつぐんだ。メイドの一人にフィリップが同意を求めるように声をかけて彼女が困ったように苦笑いする。

 ダヴィドがもう一度フィリップを睨んで、フィリップがワインのグラスを飲み干した。




 

 書いてるうちに長くなりすぎたので分けました。明日更新します。

 SSなのに長くなり過ぎとはこれは如何に。


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