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自宅の一番大きな窓の下でぽかぽかと心地よい陽の光を浴びてまどろんでいると、階下から玄関のチャイムの音がした。
今日は特に来客の予定はなかったはずなので、僕は居留守を使うことに決めた。
しかし相手はそれが分かっているかのように再度チャイムを鳴らしてくる。
3度、4度と回数が増えるごとに間隔が短くなり、とうとう連打といって差し支えないほどの騒音となった時点で僕は居留守を諦めた。
「押し売りはお断りしてるんですけど」
犯人はわかっているのでドアを開けながら相手の顔を見る前から不機嫌に告げたが、向こうも僕の言葉に怒ったように眉間に皺を寄せた。至福の時間を邪魔した人間のする顔ではないと思う。
「居るのわかってるんだから早く出なさいよ」
「護身のためにアポイントのない相手には居留守を使うようにしてるんだ」
「貴方を害せるような相手なんてそうそういないでしょう?」
「リリーさんは僕を買い被りすぎだよ。僕は凡庸な弱小蜥蜴だ」
僕の反論にリリーさんは大きくため息をついた。
リリーさんはこの聖ミーナ王国の冒険者協会王都支部の受付嬢なので、僕が弱小であることはよく知っているはずなのにいつもそんなことを言う。
冒険者である僕に気を使っているのだろうが、別に僕は弱いと言われようが気にしないんだけど。
「そんなことより、またデイジーが攫われたの。急いで救出に向かってくれないかしら」
予想通りのリリーさんの言葉に僕は隠しもせずに嫌な顔をした。これを言われることが分かっていたから居留守を使ったのだ。
「毎回思うんだけどさ、僕なんかに頼まなくても街には自称勇者が溢れてるじゃない? そっちにお願いすればいいじゃん」
「貴方が最適なのよ」
なるほど。つまり既に断られたのか。
「お願い、アスターしか頼れる人がいないの」
縋るように見上げてくる彼女に僕はしばらく唸っていたが、やがて諦めてため息をついた。
「わかったよ。リリーさんにはいつもお世話になってるしね」
「! ありがとう!」
僕が了承の意を示すと、途端に彼女は嬉しそうな笑顔になった。
気は進まないが、困っている彼女を放っておくのも胸が痛むし。それに僕にも全くメリットがないわけじゃない。




