表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/52

 封印術を補助するための道具──封印具の開発は、すぐに始められた。下界の術に関する技術はコンスリンクトにしかないため、やはり神界からの協力が必要だ。そこで、神殿を通して技術のある神を派遣してもらった。ちょうどいい時期に、麓の町ケケアにフィエネが来て伝言を頼めたのがよかった。

 生徒に意見を募って、術をイメージしやすいモチーフで道具を作ってもらう。魔術と同じく杖状のものや鍵を模したもの、穴に蓋をするイメージということで円盤状のものも用意された。いずれも小さな輪状の突起があり、そこにもうひとつの道具を取り付けるのだ。

「……それにしても、町の地下にこんな場所があったなんて。降りても信じられないな」

 並べられた道具よりも、周囲をきょろきょろ見回してセオタスが感想を漏らした。

 ここは、タナンテスクの家から近い町外れ。最近、地面が陥没して見つかった地下遺跡の中だ。というのは表向きで、実はクルクヌが遊びに来て、いたずらに創っていった場所だった。古びて見えるが強度は信頼していい。

「兄ちゃん、緊張してるの? 急に話そらしてさ」

「当たり前だろ! お前は呑気すぎる……気をつけろよ」

「わかってる」

 セオティは口元に笑みを残しつつ表情を引き締めて、道具を並べた台の向こうに立つリーレンを見つめた。彼女とともに後ろに控えるガゼットも頷き、実験が始まる。

「では、改めて説明するわ。これらの封印具は、術の制御を助けるものの、試作品。ある程度以上の出力が出ないようになるはず。それを確かめるには、道具が許す出力以上の力で、封印術を扱ってみる必要がある」

 皆が話に付いて来ているのを確認し、リーレンはひと呼吸置く。

「これには、術が制御能力を越える危険があるわ。試作品の性能が向上すれば、それだけ大きな力で挑まなくてはならない。今回は大丈夫だとは思うけれど……油断はしないで」

「うん」

 セオティは神妙な面持ちで封印具に目を落とす。色々と使ってみて、術をイメージしやすい物を選ぶのだ。いずれ彼の最大限の力を上回る封印具を試す時は、術を増幅する道具を使うことになる。輪状の突起はそれを取り付けるものだった。

 道具の開発者とリーレンが見守り、セオティが術を使ってみる。その間、セオタスとガゼットは周囲の警戒にあたった。創られた遺跡とはいえ、不純物がいるのだ。

 セオティの力を下回る試作品は、いくつか壊れた。彼が使いやすいのは鍵型で、新たな試作品は種類を減らし、その形に絞られて行った。自然と、普段の授業でリーレンが教える時にも「穴に鍵をかけるイメージ」という例えが増えた。

 やはり、実験にセオティは適任だった。優れた制御能力から、封印具の力量を細かく感じ取ってリーレンに伝えることができる。試作を重ねるとやがて、リーレンには決して出来ない実験、暴走の制御という段階に入る。ここに到達するまで数ヶ月かかった。

 そんな時、間の悪いことに穴のバランスが変わって、調整が必要になった。世界への影響が大きい穴はリーレンの封印でないと不安があるため、実験を中断して旅に出る。

「きっと、あなた達の方が早いでしょう。例の件は、私達が戻るまで待っていて」

 小さい穴であれば、任せられる封印士が幾人かいる。セオティもそのひとりで、セオタスと一緒に赴く穴があった。

「うん。姉ちゃん先生が見てないと、意味がないもんね」

 封印士それぞれに護衛が付いて旅立って、リーレンとガゼットが最も長い道程を行く。新たな取り組みの最中だし、少し早いが定期の報告を兼ねた旅だ。

 手を振って別れた後で、ガゼットは首を傾げた。

「セオティは無茶しそうなのかい? しっかり釘を刺していたね」

「機転がきく分、心配なのよ……嫌な予感がするわ。それに、リドを置いていくのは初めてだから」

「確かに、心配事は色々あるね。いつもクーが頑張ってくれるから、帰ったらいっぱい抱っこしてやらないと」

「ええ。父さん、母さんにも頭が上がらないわ……」

 早く帰ろうと頷きあって、少し足早に旅が進んだ。

 リーレンが心配したのは、不在の時に生徒が術の暴走を起こした場合のこと。リーレンを真似て術の相殺を試みるか、未完成の封印具を持ち出すか。いずれもセオティが考えそうなことである。そして、成功するとは限らない。

 封印や報告を済ませてコンスリンクトに着いた時、ちょうどセオタスに会った。特に心配していたような事件は起きなかったらしいが、どうも表情が暗い。何か気になり、旅を労う自宅での酒の席に、ガゼットはセオタスを誘った。程よく酔いが回ったのを見計らい、率直な問いを投げかける。

「元気がないね、弟に何かあったのか?」

「……リーレンは?」

 セオタスは質問に答えず、少し周りの耳を気にした。彼女の両親も同席しているが、この話を聞かせたくないのはひとりだけらしい。

「子供達を寝かしつけているよ。そのうち戻る」

「そうか……彼女には隠すよう、言われたからね。隠したいのもある……実は、久しぶりに弟が寝込んだんだ。今はもう元気だが」

 長く息をついて、言葉を続ける。目線は横に逸れて、口にするのが後ろめたいように見えた。

「僕は、実験のせいなんじゃないかと、心配してる」

「セオタス……」

 もうテーブルに突っ伏してしまって表情はうかがえないが、掠れた声が彼の心中を物語っている。こんな事を言いたくないが、他に疑う当てもない。

「封印士を目指してからは、あいつ、本当に元気だったんだ。病弱なのを、忘れるくらいに……強くなったって、喜んでたのに」

「自分の言ったこと、わかっているかい?」

 小さく、だが鋭くガゼットは言う。弟が実験台になることを許した己を悔いるのかという問いだった。普通より体に負荷がかかる可能性、それが寿命を削るかもしれないということを、理解していただろうと。

「辞めるなら、今だよ」

 義母はそっと食卓の片付けを始め、義父は煙草を吸うために窓際へと歩いていった。続けるか、辞めるか、意見を選ぶのはセオタスだ。

「はあ、今もって選択肢があると思えるのか。君は、ほんとうに、前向きな奴だよな」

 手探りでグラスをつかみ、一気に顔を上げて中身をあおる。

「飲んだせいかな、喋り過ぎた。僕にはもう、選択肢はない……気の緩んだ、ただの愚痴だよ」

 自嘲的な笑みが痛々しい。

「セオティは誰かの役に立ちたいって、それだけで、ここまでやってきた。あいつが続けると言うなら、どこまでも応援するさ」

「命を削っても?」

「ああ。君達が共に背負ってくれるから、僕も覚悟ができたんだ」

 ごちそうさまと席を立ち、セオタスは帰途につく。見送りに出たガゼットは、友の背に何を言うか、しばし迷った。

「……また、飲もう。愚痴だって聞くし、俺も言うよ」

「ありがとう。弟ももうすぐ飲める年だ、いずれは、皆で」


 ガゼット達が話している間、リーレンは子供達を寝かしつけていた。皆が眠ったと思った矢先、長女のクリシェが母を呼び止める。もしかしたら、眠れていなかったのかもしれない。

「クー、どうしたの?」

 傍に行くと起き上がって両腕を伸ばす。珍しく、抱っこのおねだりだ。リーレンはふわりと娘を抱きしめた。

「あのね」

 声色で、真剣な話をするのがわかった。ゆっくり、父親似の髪をなでながら耳を傾ける。

「とうさんと、かあさんは、どこに行ってきたの?」

「いろんな所よ。古い友人に会ってきたの」

 封印や穴の話は難しいと思い、いつもこういう風に話していた。

「会っただけ?」

 まわった国々のことを聞きたがるのが常だが、今晩は何かが違う。リーレンは少しだけ身を固くする。

「会っただけではないと、クリシェは思うのね」

「うん。待ってるあいだ、少しずつ、空がかるくなったの。それでね、かあさんが何かしてるようなかんじがした」

 空が軽くなるたび、母親の存在を感じて淋しさが薄らいだから、しっかり留守番ができたのだという。

「やはり、わかるのね……クリシェ」

 腕の力を強くして、しっかり抱きしめる母の表情は、娘から見えない。

「友人に会ったのは本当。でも、それだけではなくて、世界を守る旅をしたの。あなたにも、きっと同じ力があるわ」

「それって、セオティ兄しゃんもおなじ?」

 ぱっと目を輝かせるクリシェは、大人っぽく「兄さん」と言いたいらしいが、言えていないのが可愛らしい。リーレンの頬はゆるんだ。

「同じよ。大きくなったら、母さんと、セオティと、皆と一緒に頑張りましょうか……」

「うん!」

 迷いなく返事をしてから、ぽつりぽつりと話をして、やがてクリシェは眠った。思ったより早く力を自覚し、道を決めてしまった寝顔を見つめて、しばらくリーレンは物思いにふける。

(いつまでも迷ってはいられない。全ては歩み出している……事を始めた私が、遅れている場合?)

 セオタスの様子を見れば、弟に何かあったのは察せられた。兄弟がどんな選択をしても、受け入れる準備だけはしていようと気持ちを奮い立たせる。これから、封印具を実用段階に近付けて行くのだ。今、育てている封印士達の術が暴走する事例はゼロではなく、相殺が遅いとあらぬものを封印して、怪我に繋がることもあった。現実問題、封印具の開発は急を要する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ