表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/52

挿話 新月の恒星

時期的に本編のこの辺りですが、もとは外伝として後から書いたエピソードです。

 あの日のことを、よく覚えている。閃くのは木剣なのだけれど、速さも鋭さも光のようで。

 ガゼットがコンスリンクトに来た頃、この土地は余所者を毛嫌いしていた。神託を受けた存在だとしても、簡単に受け入れられるものではない。リーレンとともに封印士の育成に携わるにあたり、まずは人々との距離を縮めたかったらしい。武器に加えて魔術を扱い、狩猟に長けた男たちに、剣一本で実力を見せつける。荒っぽいが、最も話が早い方法だ。

 多くは、魔術を使う前に制される。腕っ節に自信のある者も、ガゼットにはかすりもしない。無駄のない動きを見れば、どれほどの経験をもって剣を振るうのか分かった。

(術のためにできる、わずかな隙を狙われている。リーレンと共に旅したとはいえ、外の人間ができる芸当じゃない。神託は……本当なのか)

 事実を確かめるぶんには、納得した。それでもセオタスは、ガゼットと剣を交えたい。リーレンが心に決めた人とは、どんなやつなのかを知りたかった。

「さて。他に、誰かいるかい?」

 そろそろ十人は敗北している。木剣は寸止め、怪我人はなし。実力の全てを発揮せずともこの強さ。ほとんど皆の納得を勝ち取っているのに、彼はセオタスと目を合わせた。

「じゃあ……僕が」

「やあ、待っていたよ」

 ガゼットは手に馴染み始めた木剣を、他のものに持ちかえる。セオタスと条件を合わせようということか。

「指名してくれても、よかったんだよ」

「今の俺は、そんな立場にないだろう」

 お互い、口元には笑みがある。なのに空気が張り詰めて、観衆は息を潜めた。

 剣の握りを確かめて、ふたりが静止する。長老の合図で、同時に前へと踏み出した。セオタスが振り下ろす剣を、ガゼットが受け止める。鍔が噛み合って、木肌がささくれた。ここで少し距離を取っても、術を使う時間は貰えない。セオタスはあえて、更に剣を押し付ける。

(手に込めた魔力は、俺が引いた瞬間に使うのかい?)

 どうやら、純粋な腕力はセオタスの方が上だ。ガゼットは潰される前に下がるしかない。術に対応するため、相手の動きに注意する。

 しかし、構え直したセオタスは、じりじりと距離を詰めてくるだけ。いつ術に変換するのか。剣を合わせても、躱しても、その手に魔力が保たれていた。

「なるほど……やり辛いね」

「お互いに」

 おそらくガゼットは、無詠唱魔術をも知っている。いつ放つか分からない術を警戒させる、セオタスの作戦だ。

前の手合わせよりはガゼットの動きを鈍らせているが、紙一重で対応されている。相手に慣れたと驕らないから、剣は幾度もぶつかり合う。

(速い! 目より勘で受ける感覚だな……)

 威力のある、上から叩く攻撃を封じるためだろうか。突きを中心に、ガゼットは手数を増やす。術を使う余裕を削ぐための速攻とも取れた。

 二、三、剣が掠ったが、よろけることはない。多くは気を逸らす剣、隙を作ったら最後、喉あたりを狙ってくるのだろう。

(避けきれずとも動じず、か。怪我はさせたくないが、加減をしたら負けてしまうね)

 魔術という第二の武器を温存しても、ここまでガゼットに付いてくる。リーレンの幼馴染みは、これまで相手取った誰より手強い。ちらつく切札は、速さで消せなかった。

 一撃、わずかに競り勝って、セオタスの懐が空いた。誘われているのではないかと疑いながら、ガゼットはみぞおちへと剣を突き出す。入れば勝てる……が、

「!?」

 ぞわり、首筋をなでる空気。人の気配に似たそれに反応して、前にある右足を軸に身を翻す。セオタスに背を向ける瞬間ができた。気配の正体は無。左足を出して更に半回転、剣が背中を掠めるだけで済んだ。

「風か、器用なもんだ」

「そうかい? 地味だと言われるけど」

「効率的と言ったほうがいいよ」

 やっと作った互いの隙も、これで振り出し。勝敗を決めるには、怪我をさせる覚悟がいる。さあ、どう動くか。目に、剣に、足先に、注意を向ける。

「……ひとつ、提案する。次で勝負を決めないか」

 銀の瞳は、まっすぐに朱を捉える。初対面で睨んだ時と違い、視界はとても明瞭だ。いかなる敵にもその腕ひとつで戦い抜いてきた剣士を、心から認めている。

「いいね、乗った。魔術も剣も君の手の内、受けて立つさ。加減はしてくれるなよ」

「当然。……長老、いま一度、合図を願えますか」

 白い髭がふさりとうなずく。セオタスとガゼットが目線を交え、木剣を構えた。互いに一歩踏み込めば、切先が届く距離。

「はじめっ」

 合図と共に踏み出す時、ガゼットは剣の行き先を決めていなかった。

 後出しで間に合うつもりか? 喉元へと突きを繰り出しながら、セオタスは瞬間で出せるだけの光を放つ。

 相手の動きを凝視していたからこそ、ガゼットの目は眩んだ。それでも、読み取った動きを信じて姿勢を低くし、前へ。すれ違いざまに剣を振り上げて、柄でセオタスの首筋を狙う。

「くっ」

 地に膝をついたのは、セオタスだ。

「やっぱり……足りなかったね」

 倒れてしまえれば、まだ楽だったろう。焦点を探してさまよう目には、様々な感情が浮かんでは消える。悔しさ、達成感、悲壮、そして安堵。

 ちかちかする目では、それらの理由が読み取れない。ガゼットはセオタスの側まで行き、自分も地面に膝をつけた。

「なんだい、やっぱりって。本気の目眩しにしては準備が遅かったし、優しい光だったよ」

 勝敗が決し、観衆はざわめく。小声の会話はふたりにしか聞こえない。

「わざわざ条件を揃えて、一回勝負にしたんだ。合図の前に術の用意をするのは、違うと思ってね……どうせなら、真っ向からやって負けたかったし」

 やっとはっきり像を結ぶ目には、晴れやかな笑顔が映った。

「君になら、リーレンを任せてもいいかな。まあ、幼馴染みの戯言として聞いておいて」

 とん。剣を放し、ガゼットの胸に拳を当てる。手のひらに爪が食い込むほど、固く握った拳だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ