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 一応、話は聞いてもらえそうだ。リーレンは名残惜しいながらもそっと両親から離れ、長老に向き直る。

「全て、説明します。だから、彼らに危害を加えないでほしい。神殿からの使節なの」

「神殿。町を開くのは神の意思だというのか?……ううむ、詳しい話は集会所で聞く。来なさい、リーレン」

 長老に付いて町の中に入って行くリーレンを追ってガゼットも歩き出すが、皆がその姿を警戒を持って注視した。ひやりとした場の空気をどうしたものか、足を止めて待つリーレンと目を合わせて考える。しばしの後、ガゼットが出した答えは微笑みだった。

「どうか、行かせてもらえないだろうか。俺にも役目と、意思がある……ほら、これは置いていくから」

 躊躇無く腰にさげた剣を地面に降ろし、町人をぐるりと見回す。人慣れした動物のような表情に、悪意は感じられない。

「他に武器やら持っていないか、確認してもいいよ」

 長老の指示で、町人がガゼットの懐やポケットの中、ベルトの裏をあらためて、丸腰になったと確かめると、集会所への同行が許された。歩いて行く二人の背中を、大半の町人が心配そうに見守る中、ひとりの青年は睨むようにガゼットを見ていた。

「長老達は何か……予知夢のようなものを見たようですね。私が帰ることを知っていたのですか?」

「厳密に言えば、知らなかった。ただ、夢に聞こえた始まりの娘とは、お前のことだと思ったのだ。町を生きて出た者は、ひとりだけだからな」

 集会所の大きなテーブルについた長老は、長く蓄えた髭を撫でながら、夢の記憶を辿った。後光が差した人物が低く告げた言葉が、耳から離れないという。長老の向かいに座るリーレンとガゼットの後ろで控える町人も頷いた。

 いつになく世界が揺らいでいる。それを知る者が訪れた。天啓が山を割り、この地は外と繋がる。新たな時代の幕が上がる。始まりの娘が帰る時だ。類稀な魔術の才を誇るリーレンでも、洞窟の守護者を倒して下山することは叶わないと思っていたが、本当に山を割って帰ってきた。神殿の使節を伴っていたことで、後光の人物が神であると、長老はほとんど確信している。

 ただ、わからない事も多いそうだ。そこでリーレンは、世界の揺らぎは神界の肥大化で、それを感じ取る力──封印知覚が自分にあることを説明した。

「その感覚が何か、私は元から知っていました。知らないだけで、力を持った人は他にもいると思います。そして神界の肥大化を止めるために必要なのが、封印術」

「封印術? それは、人間にない力ではないのか。神話によれば、神々が使う術だと……」

 閉ざされたコンスリンクトにも、神話は全巻揃っている。長老が訝しげな顔をするのも当然だった。

「ええ。本来は人間に備わらないものです。だけどこの術で、神界へ昇る養分を減らさなければ世界は保てない。世界に必要だから、力が与えられたのでしょう」

 淡々と語るリーレンの様子に注目が集まる。町人達は時折目線を上に逸らして、過去を思い返していた。

(ああ、そうか。だからこの子は、生まれた時から特別だったのかもしれない)

 本当は、故郷でこれ以上特別視されたくない。状況から推して避けられないことだから、リーレンは自分を抑える代わりにテーブルの上で指を組んで、少し身を乗り出した。

「ここだけじゃない、世界中に……封印術の、あるいは封印知覚の素養を持った人々がいるはずです。私には彼らを導く場所を作る、使命があります」

「その、場所になりうるのがコンスリンクトだということか?」

「そうです。魔力の扱いに長けた私達なら、術を初めて使う人間の助けになれると思います。今や、国同士の争いなどしている場合ではありません。皆で世界を支えなくては」

 リーレンの訴えに、長老はしばらく言葉を返せなかった。遠い昔、魔術師を人間社会から切り離す願いを聞き入れ、守護者を与えた神が管理する世界に、揺らぎなどあるものだろうか。そんな疑問が透けて見えて、ガゼットが口を開く。

「確かに、神は世界を見ている。でも、天気の善し悪しで不作の年もあれば、色々と天災もある。その全てを神の怒りと言うのは、ちょっと乱暴だと思いませんか」

「お前は何なのだ。魔術師を利用せんとする人間ではないのか?」

 彼を指差し声を低くする長老や他の町人は、やはり余所者に厳しい。ガゼットは動じることなく言葉を繋ぐ。はなから信用されないのは予想していた。

「俺はガゼット。ポリアンサ出身の冒険者さ。リーレンが生まれながら封印知覚や術を知っていたように、俺は魔術師の存在を知っていた。彼女と共に歩み、世界を支える礎を築く使命がある」

「ここを出て私が探したのは、ガゼットなの。二人でいくつも穴を調整してきました」

 封印には不純物との交戦がつきもので、術者を守る存在が必要だということに話が及ぶ。2人は根気づよく、長老達に浮かぶ疑問をひとつずつ解いていった。

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