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 内部は、真っ直ぐな通路の突き当たりを直角に曲がると上り階段があった。そのくり返しで山頂へ近付いて行く。不純物の中には土や岩の中に潜むものがいるので、リーレンもガゼットもここまでと同様に注意して進んだ。ご丁寧に、壁には明かりが点々と灯されている。幾度か不純物との交戦があったものの、想定より楽に頂上に辿り着き、漠然とした不安が募る。

 今まで立ち入った人間のいない頂きは、岩場と土の地面ででこぼこしていた。大穴は空中にぽっかりと穴を空け、上昇気流を巻き起こしている。吸い込まれるほどではないが、リーレンの長い髪は束ねてあっても風に揺れた。

「家一軒……いや、城がひとつ入りそうな穴だな。大穴というだけある」

 ずっとその存在を知ってはいても、間近に見るとかなりの迫力だ。

(封印は、可能。だけど、それから私達は?)

 リーレンは身震いして、クルクヌが追いつく前にとガゼットの手に指先を触れる。

 大穴を見上げた目線を落とし、大きな手がリーレンの手を握った。力強く、温かい。

「なんだか、怖いね」

 顔は笑っているのに、ガゼットはこんなことを言い出した。

「下界には、魔力が根付いていて……神界が肥大していて。俺達は自ら旅を選んだ。なのに、こうして用意された道を歩いている。これは自由なのかな?」

 ぎゅっと手を握り返し、リーレンは不安を拭い去る言葉を探す。

「私達は、自分の足で歩いて来たわ」

 二人はしっかり指を絡め、目を合わせた。互いがそこにいることを確かめるように、掌の温もりと風の音だけの時間が過ぎる。そして、しばしの後に頷きあった。

 この先に何があったとしても、「その時」には隣で、手をつないでいよう。口に出さずとも心は決まっていた。


 人間を寄せ付けないための迷路を作り終え、クルクヌが山頂に来た。リーレンとガゼットが手をつないでいるのを見て、目を丸くする。

「察しはついてたけどさ、人間だからって大胆なんじゃない?」

「あら。あなた、いたいけなのは見た目だけでしょう。人間にあの禁忌はないのよ。試しに握手でもしてみる?」

数千の時を生きる神をからかうような事を言って、リーレンは肩をすくめた。クルクヌが昔の名で呼ぶから、今の二人は人間だと示したくなったのだ。

 規律神にこんな冗談を言う性質があっただろうかと、ガゼットとクルクヌは顔を見合わせた。

「ははっ」

 吹き出したガゼットは、なんだか嬉しそうだ。つないだ手を持ち上げて、リーレンの手の甲にキスをする。

「いいね、今の君らしくて」

 頬を赤らめながら、そうでしょうと返すリーレン。見ていて恥ずかしくなったクルクヌは、大穴に目を移す。

「……もう、まだ大穴を封印してないじゃない」

「ええ、封印したら通れないもの。風読みにここを使うなら、内側に入ってから術を施さないと」

 真面目な話になると、自然に二人の手は離れていた。早くも掌に魔力を集中し始め、リーレンは封印の準備をしている。

「そういうこと。わかったよ、じゃあ二人とも風に乗って!」

 クルクヌも風読みの術を使い、つむじ風を発生させる。これは目に見える風で、普通の地面と違う穴の中を移動するための術だ。三人が風に乗ると、大穴に向かって上昇を始める。

「風に乗る瞬間を狙うわ。クルクヌ、合図をちょうだい」

 進行方向となる上を見るクルクヌは、背を向けているリーレンに短く返事をした。二人の間に位置取り、ガゼットは周囲の様子に気を張る。穴の中にも不純物がいて、素早く移動できる風読みの最中でも邪魔に入ることがあるからだ。いつでも使えるよう、剣を抜いている。

「右の大地に太陽の錘を、左の大地に月の錘を……」

 大穴に近くなると、リーレンは呪文を唱え始めた。

「さあ……行くよ!」

「並べて天地の柱となれ!」

 クルクヌのかけ声に合わせ、風は大穴の中に入る。その瞬間に術式を完成させ、大穴の入り口に放つ。

 急な加速で尻餅をつきながら、リーレンは封印の成功を確かめた。下界は暗い空間の中でどんどん遠くなる。やがて針の穴ほどになり、視認できなくなった。

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