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 廃灯台の穴を封印して一晩が明けた。まだ不純物排出口は開いているようだが、溢れてくる不純物の量は落ち着いてきている。

「ガゼットは、あの山に上ったことがある?」

 人間界と神界をつなぐ、最も大きな穴がある山頂の方を見て、リーレンが問いかけた。次の目的地だ。

「修行がてら、麓をうろついたことはあるよ。いつだか、不純物が多すぎるからって国が立ち入りを制限して……それからは行ってないな」

 昨晩は十分に休めなかったし、補給や情報集めのため、この日はポリアンサ王都で過ごすことに決まる。

 早い時間に宿をとっておいたので、寝床には困らない。二手に別れて情報を集め、宿で落ち合うことにした。先に部屋に戻ったガゼットが剣の手入れをしている所に、リーレンが入る。日が傾き始めた頃合いだった。

「おかえり。リーレン」

「ただいま。早かったのね、ガゼット」

 お互いに集めた情報を総合すると、町の張り紙などに山への立ち入りを制限するものはなかった。町人に聞くと、既に解除されているとのことだった。もとより、不純物の発生する量は一定したものではないから、またいつ増えるかと不安の声も聞かれた。

「巡回してた兵士が言うには、不純物が増えたのは排出口の影響だろうって。入山を控えるように命令を出したのは、一応、冒険者のためだ」

「この町、冒険者が多いものね。霊峰はいい修行場所なんだわ。もっとも、山頂まで行く人は珍しいそうだけど」

 稀に興味本位で目指す冒険者はいるが、大抵が途中で引き返す。無茶をして命を落とす者は少なく、引き際を知る手練が挑む場所、といった印象だ。

(随分な所へ行こうとしているのね、私。旅を始めたばかりなのに……ああ、ひとりじゃなくてよかった)

 なんとなくガゼットの顔を見ていると、目線に気付いた彼も、手元の地図からリーレンに目を移す。

「大丈夫さ。あくまで目的は頂上の大穴と、その先だろう? 油断さえしなければ行ける」

「そうね。全ての不純物を相手取るわけではないもの」

 見つめあう中で、自然と笑みが出る。心の準備は整った。明日からは、いよいよ山登りだ。

「予想はしていたけれど、道がないのね」

 霊峰を目の前にして、リーレンはちょっと息をのむ。ポリアンサの側は比較的緩やかというだけで、コンスリンクトの山肌と全く違った。麓からしばらくは歩きやすいし、地面は土で木々もある。本格的な傾斜にさしかかった途端に、足下には岩場が目立ち、植物の姿が減ってきた。先人が歩いた跡は、道になるほど多くない。

「岩をよじ上るよりマシという程度かな。俺もだいたい……三合目あたりまでしか行ってない。もっと登れば、人目もなくなるさ」


 ガゼットの言う通り、途中までは何組かの冒険者を見かけた。進むほど辺りは静まり返って、不純物が近付く気配をすぐに察せられるようになった。山を登っているのが二人だけになると、高位の魔術が使いやすい。リーレンにとっては、三合目からの方が楽に進めた。

 どうしても登れない岩場は、魔術で変形させたり、ガゼットが呼んだ鳥に掴まって行く。お礼に鳥の寝床を快適にする時、ガゼットの通訳でリーレンが岩の形を整えたので、彼は本当に動物と話せるのだな、と改めて思った。

「ありがとう」

 自分の言葉が通じるかわからなかったが、リーレンは鳥に道案内の礼を言った。返す鳴き声を聞き、ガゼットが微笑んでいたので、通じたんだろう。そうして五合目に到達した所で、一旦休む事になった。

 山の夜は寒い。二人で毛布にくるまって暖をとりながら、リーレンの気持ちはどうしても南西に向いた。コンスリンクトの方角だ。

「やはり、コンスリンクトも夜は冷えるよね」

「ええ。ちょうど、同じくらいの高度だと思うわ」

 突然、姿を眩ませてしまった彼女を、町人はどう思っているのか。死んだものとされていると、想像はつく。もしくは異端な存在として、努めて忘れようとしている。後者は悲しいし、両親や好意を寄せてくれたセオタスに対して罪悪感が募る。だが、それを覚悟して旅に出たのだと自分に頷いた。

 改めて、雲のかかる山頂を見上げる。

「帰る事を考えるには、まだ早いわね」

「そうかな。先を考えて力が湧くなら、いいと思うよ。俺もコンスリンクトに行ってみたい」

 ガゼットの笑みは悪戯っぽい。本来コンスリンクトは、魔術師以外を受け入れない町だと知っているからだ。

「無茶よ。でも、あなたが言うと大丈夫な気がするから変だわ」

「俺は大丈夫と思ってるよ。勘だけどね」

「その勘、当たるといいわね」

 皮肉でなく、リーレンは本当にそう思った。

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