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 再び進む旅は、まずグラオ平原を抜けてコンスリンクトの近くを目指す。山の麓から東に行くと森があり、そこに大きい穴があるのだ。

「あったわ、あれね……?」

 民家五軒分ほど離れていても、はっきり視認できる穴だった。リーレンが首を傾げた理由に、少し遅れてガゼットも気付く。森の中だというのに、嫌に視界が開けているのだ。

「ここだけ木が少ないなんて、妙だな。偶然か、それとも……」

 切り株もなければ、掘り返した跡もない。何より、ここに足を踏み入れる人間は少数の冒険者くらいだ。テイタテイトの木こりは自由国境地帯に行ったほうが仕事の分がいい。

「穴に引かれる養分が邪魔して、わかりにくいけれど……微かに魔力を感じるわ。悪戯か目的があるかは別として、故意でしょうね」

 神界側で二人の動きに気付き、何か始めたのかもしれない。色々と推測はできたが、今は穴の封印が先決だ。リーレンは穴の前へ進んで行き、ガゼットと目を合わせて頷いてから術式を始める。

「右の大地に太陽の錘を、左の大地に月の錘を。並べて天地の柱となれ」

 町から離れた場所、特に穴の近くは不純物が集まりやすい。術に邪魔が入らぬよう、ガゼットは周囲の警戒を担った。いざという時は盾になるのだ。役割分担が定着してきた。

 来た道を戻る途中、最初に封印した平原の穴に立ち寄った。コンスリンクト方面の穴をきつく絞ったことで、またバランスが変わるからだ。あとは新たにラナンキュラスやポリアンサの穴を絞れば、霊峰の頂上へ行くまでは安定を保てる見立てだ。

「穴自体には、何も変化はないけれど……」

「こんなに凝った建物が出来てるとはね」

 古びた石造りの中で、二人はぐるりと首を回した。最初の穴は、こつ然と現れた砦の中にあった。ここはただの草原だったのに、と不思議に思いながら、石造りを成すブロックの装飾に懐かしさを感じる。

「クルクヌの仕事か」

 ヤヌクスの下についた童心の神の名が挙がった。悪戯で遺跡を創造することもあるが、今回は主神の命で動いたのだろう。

「足止め目的ではなさそうね。彼の悪戯でもない?」

「ああ、勘だけどな。こんな、明らかに人目につきにくい所じゃあ、悪戯のしがいがない」

 主立った穴の所に、神が手を加えた痕跡が見つかった。ということは、既に主神の目は二人に向いた可能性がある。彼に忠実なクルクヌが人間界を飛び回っているとしたら、今後は発言に気をつけたい。賢人のことまで、全ての記憶が戻っていることは隠すべきだというのが、二人の共通認識だ。

「物見遊山で、町に紛れ込んでいたりしてね」

「はは、有り得る」

 雑談には、神の耳への警戒が含まれた。


 テタを経由して次に訪れたラナンキュラスの王都は、町をまるごと城壁で囲んだような、堅牢な印象の町だった。城壁の下部にあるレリーフを見て、リーレンが首を傾げないように気をつけている。そこで、ガゼットは人間界に伝わる話を披露した。

「実は、ラナンキュラス城は一晩で出来上がったって伝説があるんだ。その時、町も城壁で囲まれた。かつてあった、争いの時代のことだ。城を造った人の末裔が、今の王族だってさ」

 世界を旅する中で、彼女に見せたかったものだ。二人が転生する前から、思っていた以上に神が人間界に干渉している証拠。

「一晩で……これを」

「ま、伝説だ。そんな昔のこと、本当か分からないよ」

 ガゼットは明るく言って、町へと足を踏み入れた。

(そして、これが見せたかった人達だ)

 続いて町に入ったリーレンを見やると、納得したような表情をしていた。商店の呼び込みなどの活気ある声は耳元を通り過ぎて、ただの町とは違う姿を感じ取っている。

 人間も神族も、生まれ持つ魔力量には個体差がある。このラナンキュラスには、強い魔力を持つ人間が多かった。伝説を誠とするなら、神か、あるいは力を持って転生した神が影響している。

「うん、初めて来た時よりも活気が増しているな」

(以前より、魔力の強い人が増えているんだよ)

「本当、賑やかな町ね」

 隠された台詞を読み取り、リーレンは微笑みを作って頷いた。雑踏の中で、二人の会話を不審に思った者はいないだろう。

 ラナンキュラス王都を拠点に、二つの穴を封印することになった。北側で海に近い穴を封印した後、海に浮かぶ島に目を凝らすリーレンの口元が、少し綻んだ。

「あの島には、大きな下降流の穴があるの。今は特別、異常がないみたい」

「そうか。この旅も大詰めだな……」

 相反して、ガゼットの声に緊張が滲む。隣の国ポリアンサに行ったら、あとは険しい山登りだ。人喰いの山とまでは言われていないが、そこも冒険者をそそる危険な場所。気を引き締めて行く必要がある。

「ええ。この穴は野ざらしだけれど、ポリアンサはどうかしら。山登りも、簡単にはいかないでしょうね」

 リーレンは決して状況を楽観視しなかった。しかし過度に焦ることもなくなった。手を握って眠った夜以来、何か吹っ切れたらしい。

「さあ、また不純物が集まる前に町へ戻りましょう」

 今日は、思ったより不純物との交戦が多かった。怪我をしてもリーレンの魔術で治せるが、体力的に町の南側の穴までは手が回らない。

 少し気持ちに余裕を持って進められるようになった旅は、着実に目的地に近付いていた。

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