表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/52

 幾度か不純物との戦闘を経て、2人は町に着いた。テイタテイト領の、テタという港町だ。比較的新しい町で、海運路を開拓中らしいから、経済を支えるのは足踏みする冒険者なのだそうだ。ガゼットはここから封印術の光を見た。

 あまり日が経っていないこともあり、一休みしようと酒場に入ると、出発前にもいた冒険者がちらほらいた。人喰いの山からの帰還者を見て、空気がざわつく。席に着くとすぐ、冒険者達が集まってきた。

「おい、よく帰ったな。山には入ったのか?」

「バカお前、山なんか行ってたらこんな美人連れてこねえだろ」

 ガゼットが口を開く前に、次々に冒険者が喋るものだから、しばらく何も言えない。リーレンも、余計なことはすまいと黙っていた。

「じゃあ何だ。結局、尻尾巻いて戻ってきたわけだ」

「……まあ、どう思おうと勝手だけど? 冒険なんて、生きててなんぼだと俺は思うから」

 薄く笑みを浮かべるガゼットだが、声は低い。それ以上詮索させない気迫があった。怖じ気づいた者や、山に行かなかったであろう彼に興味を失った者は散る。残った数名はまだ話を続けた。

「お前らしい言い草だな。その姉ちゃんとは人喰いの山で会ったんじゃねえのかい」

「ああ、平原をそんなに下らないうちに会ったのさ。名前はリーレン、彼女も冒険者だよ」

「へえ……」

 他に言いようがないが、これではリーレンに注目が集まる。

(はぐらかすのに、ガゼットを頼り切りにはできないわ。多分、今はあまり考える余裕がない)

 記憶は戻り始めている。幼い頃のリーレン程ではないにしろ、彼の注意が散漫になるのは想像できた。冒険者ということになったので、話を合わせた。

「あら、何その目は。女が冒険しちゃいけない?」

「いやあ、そんなことないけど」

 体ばかり鍛えているせいか、美女の笑みを前に冒険者はしどろもどろとなる。その間に、さっさとリーレンは椅子から腰を浮かせる。

「ねえガゼット、私、寄りたい所があるの。明るいうちに行ってきてもいいかしら」

「ん? ああ……」

「じゃあ、あとでこの店で落ち合いましょう。彼らと、積もる話もあるでしょう」

 自分が席を外した方が、適当に話の辻褄を合わせられるだろう。リーレンは半ば強引に、ガゼットと冒険者達を残して店を出た。


 ベルを鳴らして扉が閉まると、冒険者は話を蒸し返す。

「で、どうなんだ実際。彼女は天の御使いか? 目的の場所まで行かないなんてガゼットらしくない。本当は山に行ったんじゃねえの」

「だよなあ。俺もそう思う」

 頬杖をついて、ガゼットは他人事のように答えた。考えているのは、リーレンがどこへ行ったのかということだ。

「今は山よりもリーレンに興味津々さ」

 気の無い言い方は、何かを隠しての事か。飽きたのが半分、引っかかるのが半分で、冒険者は少し粘る。

「そういない美人だし、な。冒険の香りでもするか?」

「俺とリーレンだから冒険になる。そんな旅だ」

 急にはっきりと、芝居がかったセリフが飛び出したので、冒険者は面食らった。それはガゼットらしい態度で、ここまでの話を真実と思わせるに足りた。

「じゃ、俺も素敵な冒険、探すかな」

「またな」

 残っていた冒険者とはよく顔を合わせていたので、特に積もる話はなかった。いつ今生の別れになるかという生活の彼らだ、もとより付き合いは浅い。

 席でひとりになったガゼットは、リーレンを探すかどうか迷う。

(思えば、まだ出逢ったばかりなんだよな。さっき言った寄りたい所も見当がつかない。そもそも、コンスリンクトを離れるのは初めてじゃなかったか?)

 甕の亀裂から零れ出る水のように、戻ってきた記憶が思考の邪魔をする。ふと脳裏に映し出される過去の像は、かつてヴィンツェスター側とその敵陣とでぶつかった争いの歴史だ。ヤヌクスもそこで剣を取り、最後には自由を司る高位神に仕立てられた。

(まさか、リーレンは穴の封印に行ったんじゃ)

 ならば、今は追ったところで足手まといだ。ガゼットは指先で額をこつこつと叩いた。

(一人でも大丈夫って自信があるから行ったんだろう。俺は……宿でも確保して待っていよう)

 騎士気取りで闇雲に町を出て、彼女を見つけられなかったのでは格好がつかない。

 酒場を出たリーレンは、ガゼットが思った通り、付近の穴を目指していた。テタの手前、西方向にある山地が気になっていたのだ。休むのが先決だと促されて町まで来たものの、このまま安眠はできない。あの場を離れる口実があって良かった。

(彼なら、記憶にショックを受けて妙な行動に出ることはないでしょう。今、不純物と戦うのは危険だから、どうか町にいてね……)

 テタ西の山は岩が多くごつごつしていて、巨人が斧で山を割ったように左右が切り立った崖、という風情の道があった。リーレンは導管知覚を頼りに穴を目指す。今度は、平原のようなへまはしない。

 幸い、穴までは距離が近い。山に入った時点で上昇流だと感じ取れた。今回も「絞る」穴で、先に封印したものよりは大きようだ。

 山を登るというより、谷底を歩くように奥へ進むと、徐々に雰囲気が変わってくる。見かける植物は草やコケくらい、といったこの場所で、不自然な樹木が点々と生えている。

(擬態の性質を持つ不純物がいそうね。下手に近寄らなければ大丈夫)

 不純物もいるし、町から比較的近い場所柄、冒険者が他にもいるかもしれない。封印をするなら人目を気にする必要がある。リーレンはなるべく戦闘を避けて行くことにした。

 進むにつれ、嫌な予感がしてくる。少し高い所に穴の存在を感じるが、足下は平坦であまり坂になっていない。とすると、崖を登ることになるのでは? 行くべき方向が険しい岩場になっているのを見て、リーレンはひとつ溜め息をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ