01膳目
グランウッドでアホの子と!(https://ncode.syosetu.com/n6986fa/)の外伝です。
よろしくお願いします!
俺は、ひょんなことから死んでしまい、異世界に転移した。
転職先で心機一転、これからという時だったのに、あっけないもんだった。
その最後は冷たいビールとヤキトリを想いながら宙に舞った。
☆
「ヤキトリ様ぁ~!大変だよぉ~~~!」
そう、転移先での俺の名前はヤキトリ。
ヤキトリを思い浮かべながら死んだからか、転移前の、死んだ後の世界でポンポチだのなんだの、そんな名前にされそうだったから、つい『ヤキトリ』と言う名前になったのだった。
そんな俺の名前を叫びながら、草原の中、ゆさゆさと大きな2つのマシュマロが迫ってくる。
「ちょっ、シェロちゃんストップ!」
上下左右に揺れるマシュマロに視界を遮られているからなのか、俺の目の前まで来てもシェロちゃんのその走るスピードが衰えることはない。
大きな衝撃にエアバッグが開いたかと思うほどに、俺の顔面をおおきな物が包み込んだ。
シェロちゃんのマシュマロエアバッグである。
だが、勢いよく飛びつかれたからか、草の上とはいえ背中と後頭部に鈍い痛みが走る。そして視界は真っ暗で息が出来ない。鼻も口も柔らかいもので塞がれている。
柔軟なもので塞がれると、鼻や口の形にぴったりフィットして吸うことも吐くことも出来ないのだ。身近なおっぱいがあれば是非試してみて欲しい。
「わぁ~!ヤキトリ様、大丈夫?!突然目の前にヤキトリ様が来るからぶつかっちゃった!」
俺がシェロちゃんの前に出たのではない、シェロちゃんの前方不注意である。
そんなことより早く・・・。
走馬灯がそろそろ見えそうになって来た頃、ようやくシェロちゃんが上半身を上げた。
金色の髪をなびかせ、ニコニコしながら俺のお腹の上に座るシェロちゃん。
はっきり言ってこの子はアホである。
初めてこの世界に来たとき、俺はあばら家といっても過言ではない廃屋で、出会ったその日に同棲開始を宣言したアホである。
そんなアホの子ことシェロちゃんが『えーと、なんだっけヤキトリ様』と自分の顎を指差しながら空を見つめている。
俺も身を起こし、よいしょとお腹に座るシェロちゃんを膝辺りまで押して聞いた。
「なんか大変なんじゃなかったか?」
「そうだった!えへへ。なんかね、フェルニルが大量発生したとかで、どこのお店にも新鮮なフェルニルのお肉がたくさん並んでるの!」
フェルニル。
全ての風の源、だとか、全ての風を打ち消すもの、だとか言われている鳥だ。
その声は朝日とともに夜明けを告げ、その姿は、肉の髭と髪は炎を思わせ、純白の羽根、鋭い嘴、鉤のような爪をもつ。
空を飛ぶ姿を見たものは呪われるといい、今までに見たことがあると証言したものは居ない。また、首を刎ねても直ぐには死なず、その首を置いて去ってしまうことさえある。
しかしそんな恐れられているフェルニルであったが、捕らえられ、養殖され、今や食卓には欠かせないものとなった。
野生のフェルニルもいるが、見た目よりもずっとすばしっこくて捕まえるのも一苦労だ。だから捕まえたものを育てて、卵を産ませる。
ようするに鶏である。
いくらすばしっこくて捕まえづらいとはいえ、大量発生したとなれば話は別だ。網や罠で捕り放題。
穀物や野菜への食害もあり、いわゆる養鶏業を営んでいる者もいるとはいえ、やはり限度があってフェルニル相場は下がってしまっているようだった。
先に立ったシェロちゃんの手を取って立ち上がり、街のほうを見る。
お互いに服や髪についた草を払い合っていると、遠くから『コケェーッ』『コケコッコー』と、なるほどたくさんのフェルニルの鳴き声が轟いている。
「確かにこりゃ大変な事になったなみたいだなぁ。今日はとり肉祭りだ!」
そう言って二人で、腕を天に届くかのように伸びをし、手を繋いで草原を後にした。
☆
飯処 鶏政。
尖った耳としっかりした骨格、豊かな胸元のオークが営む食事の店で、木造2階建ての大きな店構えだが、時代を感じる造りだ。
ここは転移してから初めてシェロちゃんに連れてきてもらった店で、美味い飯を食わせてくれる。
その後、ザンギ、鳥のから揚げ北海道版のレシピを教えたところ、店の看板メニューとなった。
そんな鶏政に来た理由は、そう、フェルニルについてだ。
鶏政の重厚な木の扉を押し開けると、香ばしいザンギの香り。ザンギは鶏肉に醤油、酒やにんにくで下味をつけ、卵を加えた衣を纏わせてから揚げたものだ。これがビールに合う。一口ごとにあふれ出す、ジューシーな脂をビールで流し込み、それこそ一口ごとにリセットすることでいくらでも食えるんだ。
とまあ、既に看板メニューとして定着しているのだが、街では確かに溢れているフェルニル肉全てをザンギで食うには多すぎるし、せっかくなら他のメニューも楽しんでもらおうじゃないか。
「ちょっと厨房借りてもいいかな?」
忙しそうではあったが、俺がそう言うと何か楽しそうに『自由に使っとくれ!』と快く厨房に通してくれた。