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妄想の帝国

妄想の帝国 その89 究極兵器IB

作者: 天城冴

某中東とよばれる地域での長年続く争いがついに最終段階に突入。一方の側のI国首相ネトネトヤフは、自身の利益もかね、戦争を長引かせ相手側Pを全滅させようともくろんでいた。そこに究極兵器の話が舞い込んで…

 某地中海東側の地域で激しい戦闘が続いてた。

「ううむ、Hの奴らを一掃する手立ては。あいつらを根絶やしにしてやる!」

と唸っているのは、某I国首相ネトネトヤフ。長年じわじわと取り決められた国境の外側に入植地をひろげ、周囲の民からの苦情も何もはねつけ、ついに和平交渉も決裂したせいで、相手側の組織Hがブチ切れて大戦闘。これってアンタも悪いんじゃないかーという声をガン無視して相手側Hなんぞ殲滅だーと、何十年か前自分たちがやられそうになっていたことを平気でやってしまおうという無茶ぶり。自国民ですら眉を顰める思考だが、戦時をいいことに無茶ぶりを全開にしている。

「その、ネトネトヤフ首相、いくらなんでも、それは。あまりに非人道的です」

と、側近が恐る恐る諫めるのを

「なんだと、あいつらの肩を持つ気か!」

怒鳴りまくるネトネトヤフに

「いいえ、その、国際的な批判もあがりますし、その、もっと穏やかな方法があるということで。こちらのユスハリフ博士が」

と、紹介されたユスハリフ博士が手になにやら、手にしているのが

「ネトネトヤフ首相、はじめまして、さっそくご説明したいのが、この究極兵器IB イリュージョンブレーカー です」

「な、なんだ、原爆よりすごいのか。最新のレーザーとか、なんとか波とか」

「いえ、これはそのような破壊的性質を持つ兵器ではありません。確かに壊すものではありますが、それは信念というか思想というか、言ってみれば敵兵の戦意を完全に失わせ、戦闘不能にするものです」

博士の説明に、目をパチクリするネトネトヤフ首相。

「えっと、い、一体、どういうことなのだ、戦意を失うとか、それのどこが凄いのか…」

「つまりですね、彼らPの連中は、信念にもとづきあのような過激な行動をとっているわけです。それが消失すれば、戦闘をする意欲も逆らう気力もなくなり、合理的に和平に応じるのではと」

「うーん、いまだに、よくわからんが。つまりロケット弾を撃ち込んだり、ゲリラ戦闘をしなくなり、降伏するということなのか」

「即時降伏するかはわかりませんが、現在のような激しい戦闘は亡くなり、平和的解決が」

「うーん、できれば、この挙国一致体制を続けた方が私には都合がいい…、し、しかし殲滅作戦もあんまりうまくいかないし、近隣諸国のゲリラとか正規軍とかも介入してきたし…、米国も我がI国支援をするなら、U国も継続しないとまずい、だいたいU国のがヤバいってロビイストだの贔屓議員送っても、そういう塩対応だし…。わかった、実験を」

「そのような余裕があるのでしょうか。すでに我が国は優勢とは言えない状況も」

「わ、わかった、実戦使用を許可する、ただし一部の戦闘の激しい地域に」

「ありがとうございます、ではさっそく準備に」

と、足早に去るユスハリフ博士を

「ほんとにうまくいくのだろうか。まあ、失敗してもたいした影響はないだろうが…」

いぶかし気に見送るネトネトヤフ首相だった。


「へ?Pの連中が迎撃をやめた。各地で、戦闘中止を宣言?ほ、本当に戦闘がなくなったのか…」

ユスハリフ博士の実戦使用での報告の翌日、目を覚ましたばかりのネトネトヤフ首相は驚くべき報告に呆然としていた。

「は、はい首相、その、た、大変なことが…。わ、我が国の兵たちも戦闘をやめまして」

「そ、それは向こうが降伏したら、それ以上やれば国際的批判が…」

「い、いえ、そうではなく“この戦闘の原因はわがI国にもある。そもそも入植が違反だったのだし、歴代の政府がこの問題を放置してきたのも間違いであり…。その責任はわれわれI国民と現政府、およびネトネトヤフ首相が負うべき”と言い出す兵たちが続出しまして、そのついに多数の犠牲の出た、あの件も…」

「あの件…って、まさか、侵攻中に入植地のコンサートをPの連中の集まりと勘違いして攻撃してしまったあれか!Pの連中の仕業としたんだが、そんな工作は完璧だったはず」

「それが、我が国の情報機関Mの局員もなぜか“我々がやったことは間違いだ、我が国はどこより偉大だ、この土地に他の民族よりもいる権利があるなど妄想だったのだ”などといいはじめて」

「ど、どうしたのだ、なぜ…。ま、まさか、今までのあの工作やあの陰謀やらも」

「すべてばらされ、いや、明らかにしないといけないと叫ぶ民衆が、迫ってきております!!」

「ひえええええ」


「ふふふ、今頃ネトネトヤフ首相たちはさぞかし慌てている事だろう」

とほくそ笑んでいるのはユスハリフ博士。

「はい、IBの威力はすさまじいですねえ。P側だけではなく、わがI国に蔓延っていた民族優位の思想や、ゆがめられた教育による妄想まで一掃するとは、素晴らしいです。これでこの周辺諸国との諍いもようやくなくなり、平和的に暮らせます。P側の友人もどんなに喜ぶことか」

と感激する助手に博士は

「素晴らしい!私も一生をかけて開発した甲斐がある。この長年の愚かな争いはお互いの自分たちの国、民族、組織に対する妄想ともいえる謝った認識とそれに対する執着にあると考え、そのような非合理的思考から脳を正常な状態にいかに戻すかが、私の研究テーマとなったのだ」

としみじみ思い返す。

「食環境、睡眠など外部の環境によって、思考も左右されることがわかったが、それからが大変だった。そしてついに嗅覚に対する刺激、電気刺激などを組み合わせ、腸内細菌叢を変化させ、さらに脳の回路まで影響を与えて、過激な妄想に凝り固まった脳を合理的、理性的思考ができる状態に戻す方法を発見した。ただし、それをいかに効果的に使えるかが問題だった」

「もう少し早く兵器として使う案を思いつけていれば。せめて最初の戦闘で、いや訓練中にデモ使っていれば、今ほどの被害は」

と悔やむ助手に博士は慰めるように言った

「いや、なかなか思いつかないよ。我々は平和的に治験者をつのって効果を出すつもりだったが……。しかし、考えてみれば狂信というのは何よりも恐ろしい武器だ。それを一切なくす、相手を絶滅させたいなどという恐ろしい考えをなくすというのは平和を導く兵器になったのかもしれない」

「そうですね…。いや、本当にそうなりそうですよ、博士。SNSで流れてますが、ドイツの極右集団がなぜか解散宣言“われわれは愚かだった、歴史をきちんと学びなおし、明るい未来を構築する努力を!”、アメリカのナンタラアノンがドランプ大統領を訴え、ドランプ大統領が今までの暴言を懺悔、ポンニチ国のコンサバを名乗る集団が猛反省、モモタン氏ほかネトキョクウと呼ばれる作家らが自著を永久廃棄してほしい、自分たちが愚かすぎて恥ずかしい、図書館にあるものも燃やしてくれと訴え…各国の妄想に取りつかれた連中が次々と改心してますよ!」

「これは、これは、風にのって、化学物質が拡散したのか。まあウィルスの一種も使用したから、そのせいもあるのか。とにかくオカシナ陰謀論や、根拠のない性差別、ありもしない人種間の違いを信じたり、まやかしの効果をうたう似非科学を信じる人々がいなくなるのか。これは素晴らしい。本当に究極の兵器だ、なんといっても人類最後の兵器になるかもしれないのだから」

と、最後のある意味最強の兵器の開発者であり、平和の使者になるかもしれないユスハリフ博士は満足げにうなずいた。


世界中の狂信というか、過激な思い込みというか、謝った信念というか、非合理な慣習というかそういう根拠もない過激な考えがなくなり、妄想やら現実逃避やらがなくなれば、世界が少しは良くなると思うんですけどねえ。まあ、ラノベ作家とかいろいろ困る人もでてくるかもしれませんけど。

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