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WTuber  作者: 和和和和
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配信と交流





「さて、明日の配信はどうするかな?」


 配信を終えた後は、次の配信内容を考えるのもWTuberの仕事だ。

 パソコンに向かい合った悠星は、全てのWTuberに冒険者ギルドから提供される「依頼」に目を通していく。


 WTuberの主な目的は、異世界の資源や技術を地球へ持ち帰ることだが、現在では目新しい物資の回収は滅多に行われない。

 今の魔道体の性能では討伐できないモンスター、それらが跋扈する領域にある資源の入手は困難を極めるというのがその理由だ。

 故にWTuberが行う配信は、地球とは異なる異世界での文化や生活を体験し、現地人との交流を深め、その四数を視聴者に提供するという娯楽的な面が強く押し出されたものが多くなっている。

 つまり、WTuberにとって重要なのは「どんな配信を行うか」ということだ。

 LIVEALIVEのようにパーティを組んでいるのなら、その活動方針や冒険者ギルド、スポンサーからの案件にそった配信を行うことになる。個人ならば、その内容も自分で考えなければならない。


(やっぱり、金になりそうな依頼は個人だと難しいな)


 配信の内容にも直結する依頼に目を通す悠星は、どれを選ぶのかで迷いながら、画面をスクロールしていく。


 WTuberの収入は言わずもがな広告収入と、異世界で採取した資源を売却した売り上げで決まる。

 依頼には、およそどのようなものが入手できるのかが書かれているが、高額の収入が期待できる依頼は個人での対応は難しく、仮に選んだとしても大きな金額を期待することはできない。

 WTuberになったばかりの上、未だパーティも組めていない今の悠星では、大きな収入は見込めない。撮れ高という点では悪くないかもしれないが、そういった配信ばかりでは収入にならないのが現実だった。


「昨日のモンスターは配信のために戦っただけで、あんまりお金にはならなかったしな」


 そう言いながら思いかえすのは、昨日の配信で倒した牛を思わせるモンスター――「マグナホーン」をはじめとして、昨日の配信で倒したモンスター達のことだった。


 地球には存在しない火を噴き、雷を放ち、嵐を巻き起こすような力を持つモンスターと魔法という力を用いて戦う姿が視聴者の関心を強く引き寄せる戦闘配信は、WTuberの配信の中で最も人気がある。

 とはいえ、悠星のような人気のないWTuberにとって、戦闘配信は視聴者数を稼ぐことができないため、広告収入へと繋がりにくいという側面があった。


「なにか、いい配信内容(ネタ)になりそうなのはないかな」


 そう独り言ちた悠星は、冒険者ギルドから提供されている配信の依頼へ目を通しながら、自身の懐を温めるべく、改めて収入に直結する「資源」に関する情報を確認する。


 そもそも、地球と異世界――異なる世界間の移動には制限がある。


 一つ。命あるものは移動できない。移動しても後述の現象によって生命活動を維持できずに即座に死に至る。


 二つ。世界を移動した際に異世界の物質は組成から変質し、その世界に準じる物体へと変化してしまう。これにより、生命は死亡し、肉や野菜などは地球のそれに準じたもの、一般的に売られている食用のそれと大差がないものになる。


 三つ。魔素を行使するものなどはその効果を発揮できない。これにより、ポーションなどはその効果を地球で発揮しなくなる。


 以上の法則に基づき、冒険者ギルドは、異世界から資源を回収、研究している。


 悠星――夜光をはじめとしたWTuberが倒して持ち帰ったモンスターの死骸も、時空を超えて地球へと持ち込まれる際に変質し、その細胞、それを構成するもっと根源的な元素が地球の物理法則に則ったものへと変化する。

 肉などは地球で生産される商品並のものとなるが、角や爪、あるいは臓器や血液などに含まれる一部の成分が「資源」となる。

 そうして入手できる資源は、鉄、金、プラチナといった金属、レアアースやレアメタル、さらには高純度の原油や、希少価値の高い物質、生成に高度な科学技術を必要とし、現在の科学でも生成できない化合物すら含まれる。

 それらが現在の地球文明においていかほどの価値を持つのかは言うまでもない。

 一時期は高騰していた様々な資源がこうして異世界から持ち込まれる資源によって安く入手できるようになったことは、一般人にとっても計り知れない恩恵がある。

 もはや、今の地球の文明と産業は、異世界との交流なくしては維持できない。それほど地球は異世界の資源に依存してしまっていた。


 そして、さらに異世界の資源には無限の可能性が秘められている。


 現在冒険者ギルドが行っている研究の最たるものは、異世界のみで効果を発揮する魔法の力や、それに類するものを地球でも使えるようにすること。

 そうなれば魔動体(アバター)を地球上で活動させることができるようになるばかりか、地球人が魔法を使うことができるようになることはもちろん、飲ませたり、患部にかけるだけで傷を癒す魔法の薬が異世界同様にその効果を発揮することになる。

 この地球で異世界の魔法が力を発揮すれば、医学的な面を始め、エネルギー、産業、あらゆる分野で宇宙のルールを超えた発展が期待できるのだ。


 そしてその鍵と考えられているのが、地球が唯一扱うことのできる魔法――「魔動体(アバター)」の素となる「魔石」と呼ばれる魔力の結晶体だ。

 純粋な魔力が結晶化した魔石は、極めてごくまれに少量しか採取されないが、「DD」の中に組み込まれており、科学の力で魔法を行使し、魔動体(アバター)を生成する源となる。

 つまり、WTuberの活動そのものが、冒険者ギルドにとっては、魔法と科学の因果研究そのものであり、地球で異世界の魔法を使うためのデータ収集に等しいことだ。


 そんな無限の可能性と期待の礎となるものこそが、WTuberによる活動――資源の確保なのだ。


「ん? 『黒いオーラを纏った未知のモンスター目撃情報』……? ちょっと面白そうだけど、やめておくか。それより、当面の生活費を捻出できるやつにしないと」


 だが、悠星のような駆け出しでソロのWTuberにとっては、そんな壮大な目的よりも目先の収入の方が大切だった。



「……よし。これにするか」


 その中の一つに目を止めた悠星は、明日の配信用のサムネイルを作り、冒険者ギルドにある自身のページにアップするのだった。



※※※



「よっと」


 そして翌日、異世界「インバース」へとダイブした夜光は、前日に決めた通り山間に広がる小さな村で、収穫したジャガイモを運んでいた。


 無論、ジャガイモというのは言葉の綾であり、この異世界で生産されている特有の根菜の一種。

 あくまでその形状がジャガイモ――と、タマネギの中間にあるような形状をしているため、そのように形容しているに過ぎない。


「いや~助かるよ。若いもんは都会へ出ていくばかりで、人手が足りていなかったんだ」

「いえいえ」

 村で農業を営んでいる老人に感謝の言葉を述べられ、夜光は泥でわずかに汚れた顔で微笑む。

 その両腕に抱えられたプラスチックに似た素材でできた箱には、今まさに地面から掘り起こして収穫したばかりの大量のジャガイモが入っていた。


 異世界インバースには科学はないが、魔法の力を基とした文明が息づいている。

 農業でも地球にあるような機械はないが、魔法で動く道具や、牛のようなモンスターを使役して労働力として利用するなど、この世界ならではの技術が用いられていた。


「しかし、異界の人はそんな恰好で農作業をするのかい?」

「いや。これ脱げないんですよ」

「そうなのかい?」

 老人に尋ねられた夜光は、自身の姿に視線を落として愛想の良い笑みを浮かべて応じる。


 魔動体(アバター)は衣装を脱着することができない。裸体の上に服を着ているのではなく、そもそも服を着た状態で、魔動体(アバター)の外見が作られているのだから当然といえば当然だ。

 そのため、こういった農作業の最中も、デフォルトで用意されている衣装のまま農作業をするしかない。

 とはいえ、魔法を多用しない限り疲労も消耗もしない魔動体(アバター)は、農作業という重労働も苦も無く行うことができるという利点もあった。


(この世界には、俺達が想像するような冒険者ギルドみたいな組織はないんだよなぁ。だから、冒険者ギルドがこの世界から雑用みたいな仕事を請け負って、俺達に回すってわけだ――ま。魔動体(アバター)なら全然苦にならないし、配信のネタになるからいいんだけど)


 地球のサブカルチャーで多く見られる「冒険者ギルド」――依頼を受け、モンスター討伐や薬草採取などを行うような組織はこの世界にはない。

 その代わりに、WTuberを管理する冒険者ギルドが異世界から、そういった雑用を受けて、配信者たちにネタとして提供するようになったのは、最初のWTuber達がこの世界に降り立ってから深めてきた二つの世界の友好の賜物だ。


「ありがとうね。これよかったら食べてっておくれ」

「ありがとうございます。でも、すみません。この身体は食べ物とか食べられないんですよ」

 魔動体(アバター)のおかげで四時間ほど休まず労働した夜光に、村の老人たちが感謝の言葉と共に食事とお茶を差し出してくれる。

 商品にならない野菜を炒めたり、蒸したりした料理からは香ばしい湯気が立ち昇り、大いに食欲を刺激してくれるが、夜光は感謝の言葉と共に丁重に辞退する。


「ああ、そうだったね。異界人は食べ物を食べられないんだったね」


「すみません、気持ちだけ受け取らせてもらいます」


 魔動体(アバター)に飲食の機能はない。いかに魔導科学(マギステラ)といえど、内臓器官まで魔動体(アバター)に持たせることはできなかったのだ。


「あなたが来てくれたから、とても助かったわ。こっちの人達はこういう仕事、あまり引き受けてくれないから」


「こっちこそ。この世界の文化とか、貴重な体験をさせてもらっていますから」

 もしかしたら、村を出ていった子供や孫の面影を重ねているのか、涙を浮かべている者もいる老人達の心からの言葉に、夜光は照れくささと嬉しさを覚える。


「あなた達異世界の人達が来てくれて、とても嬉しいわ」


「こちらこそ、異世界から来た俺達を受け入れてもらって、この世界の人達には凄く感謝しています」

 老人達に見送られた夜光は、村から離れたところまで移動して配信を終了すると、堪え切れなくなったかのようにその顔を綻ばせてにやけた笑みを浮かべる。


「こういうのは人気が出ないけど、なんていうか……」

 WTuberで最も人気があるのは、モンスターとの戦いだ。

 こういった素朴なものは視聴者が付きにくいが、先ほど受けた温かな老人達との触れ合いに、心が温まるような安らぎを覚えていた。


「WTuberになってよかった」


 自分の中に芽生えた想いを思わず零した夜光は、すでに配信を終えた画面を操作して地球へと帰還するのだった。




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