NEWプロローグ
「さて、久しぶりの配信だ」
抑えきれない高揚を胸に秘めながらDDに腰を下ろした悠星は、逸る気持ちを抑えながら二つの世界を繋ぐ装置を起動させる。
そして、暗転した視界が再び開けると、そこは見慣れた懐かしい異世界――「インバース」の景色だった。
「戻ってきた……」
目の前に広がっている異世界の光景を前に、悠星――「夜光」は、感極まった表情で呟く。
一時世間を騒がせた夜光の力「DXXXFORCE」に関して冒険者ギルドは「調査の結果、あの時戦った未知のモンスターが持っていた呪いの力が宿った」という形で決着をつけた。
魔神の復活に関する情報を伏せるための方便ではあったが、少なくとも嘘ではない。
あとはエルフィナに協力を仰ぎ、偶然再会したように装って説明してもらっている映像を作り上げて流せば、異世界の魔法体系について詳しく知らない世界の人々はそれを信じるしかない。
無論、中にはそれを信じずに陰謀論を掲げる者や、面白半分に対立を煽るような発信をする者もいたが、多くの者はその説明で納得し、夜光はこうして配信を再開することができるようになったのだ。
(……やっぱり消えてはいないか)
しばらく異世界に戻ってきた感慨に浸っていた夜光は、自身のステータス欄に浮かぶ「DXXXFORCE」の文字を見てわずかに表情を曇らせる。
しかし、その文字はこれまでとは違って完全に光を失っており、試しに発動しようとクリックしても全く反応しない。
《エルフィナさんが言ってた通りだな》
心の中でそう呟いた夜光は、先日――ワールドフェスが終了した後に交わしたエルフィナとの言葉を思い返していた。
《魔神は倒されましたが、神は不滅です。今は倒されたばかりで、眠りについておられるために力も意思もないでしょうが、かの神は間違いなくこの世界に存在しています。
今度復活するのにどの程度の時間がかかるのか、再びDXXXFORCEを使えるようになるかは分かりませんが、十分に気を付けてください》
「――そんな心配はいらないっすよ。俺はWTuberですから、こんな力必要ありません」
エルフの美貌に真剣な表情を浮かべて忠告してくれたエルフィナの言葉を思い返した夜光は、小さく肩を竦めて自嘲気味に呟くと、自身の配信待機画面を映す。
(待機が千人か――呪われたWTuberが復活するにしては少ないかな)
配信開始まであとわずか。夜光の配信が始まるのを千人ほどの視聴者が待ってくれていた。
チートだの不正だのと疑われ、呪いだということで収まった騒動の中心人物が配信を再開するというのに、世間の反応はどこか冷ややかだった。
(これから増えてくるかな? ……ま、こんなことで視聴者が増えても、すぐに飽きられるのが関の山だ。ちゃんと視聴者が見てくれるように頑張らないと!)
配信の再開に意欲を燃やす夜光は、そう自分に言い聞かせると、おもむろに視線を巡らせる。
「後は……」
そう呟いて歩き出した夜光が森の中へ入っていくと、それに気づいた金色の風が大樹の陰から姿を現す。
「お待ちしていました」
「エルフィナさん」
その人物――森の緑の中に、輝くような金色の髪を揺らすエルフを見て取った夜光がその名を呼ぶと、エルフィナは優しげな微笑で応じる。
「エルフィナでいいですよ。あと、話しやすいように話してください」
「エルフィナさんみたいな美人とため口で話してたら、嫉妬した奴らに炎上させられかねないので、配信ではこのまま敬語を使わせてもらいます」
「炎上、ですか? 夜光さんがその方が都合がいいというのでしたら、仕方がありませんね」
苦笑交じりに答えた夜光の言葉に、エルフィナは小首を傾げる。
地球の文化も多少異世界に伝わっているが、厭世的な生活をしていたことに加え、ネット関連の単語への理解が低いこともあってエルフィナはその意味を半分も理解できていなかった。
とはいえ、地球の文化がそうであるのならばそれ以上言うことはないと判断したエルフィナは、その表情を引き締めて夜光に本題を切り出す。
「では、お願いした通り、あなたの中に宿った魔神の力がどうなるか……少しの間同行して経過を観察させてもらいますね」
「よろしくお願いします」
そうして互いに握手を交わしたところで、夜光は時間を確認してエルフィナに告げる。
「じゃあ、配信を始めましょうか」
その言葉と共に、夜光はエルフィナが画面に映らないように自らの角度を変えると、配信を開始する。
「皆さんお久しぶりです。夜光です。冒険者ギルドの方から発表があったと思いますが、今回の件では色々とご心配とご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
配信が始まると同時に夜光は、神妙な面持ちで今回の簡単な経緯のおさらいと謝罪を述べる。
それらはすでに冒険者ギルドが発表しているものと同じものだが、きちんと夜光自身の口から謝罪と説明をした方がいいという桂香からのアドバイスを得て行っているものだ。
「災難だったな」
「仕方ない。切り替えていけ」
「呪われて力が手に入るもんか?」
「冒険者ギルドがそう発表してるんだから、とりあえず信じるしかないだろ。こいつが冒険者ギルドよりすげぇ力を持った魔動体を作れるとは思えないしな」
「そういう組織があるのかも」
「なら、他のWTuberだってやってるだろ」
案の定コメント欄では肯定的なもの、容認するもの、否定的なものと様々な意見が飛び交っているが、夜光は、それを流し見ながら口を開く。
「実は、これからしばらくの間、一緒に配信をしてくれる人がいます。じゃあ、自己紹介をお願いできますか?」
配信を見ている視聴者たちに語りかけた夜光にカメラを向けられたエルフィナは、怪訝な表情を浮かべる。
配信画面が見えないエルフィナから見れば、夜光は何もない空に向かって話しかけているだけにしか見えていない。
だからこそ、戸惑いながらも言われるままに応じるしかなかった。
「これに向かって話せばいいんですか? ――はじめまして、カミナギの巫女の『エルフィナ』と申します」
エルフィナが映し出されるなり、「エルフきちゃぁぁぁ」などというコメントが流れているが、夜光はそれらを横目に話を進める。
「エルフィナさんは、カミナギの巫女ってことで、今回の一件で俺に残った呪いの経過観察をしてくれる人です」
「よろしくお願いしますね」
「は? こんな美人エルフと一緒に配信するとか、許すまじ」
「羨ましい」
「もげろ」
(やっぱこうなったか。ため口使わなくてよかった)
嫉妬に燃えるコメントを見ながら苦笑を浮かべた夜光は、何が起きているのか知る由もないエルフィナに向かって声をかける。
「じゃあ、いきましょうか」
「はい」
――この時代、地球は異なる次元に存在する世界と交流していた。
地球とは違う自然、生物、文化、人々が息づくその異世界の中を訪れ、世界に伝える者達がいる。
それがWTuber。
彼らは、今日も二つの世界で生きていく。




