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WTuber  作者: 和和和和
17/25

DXXXFORCEと再会のエルフ




 「調査境界(エンドフロンティア)」。


 それは、異世界インバースにおいて、WTuberがその性能で調査することができない領域を総称する呼び名だ。


 魔動体(アバター)で活動するWTuberはこの世界においては不死といえる存在だが、最強ではない。

 この調査境界(エンドフロンティア)には、魔動体(アバター)の力では太刀打ちできない強大な力を持つモンスターが数多生息している。

 その素体を手に入れることができれば、一財産築くことも可能だろうが、WTuberに倒せないために、この地の資源は未だに未知の物が多いことで知られている。


 夜光の能力を調べるために転移したこの場所はその調査境界(エンドフロンティア)と隣接した数少ないポータルの近くであり、一般のWTuber達は滅多に利用しない場所なのだ。


『なんでも構いませんので、そこにいるモンスターと戦ってみてください。魔動体(アバター)の痛覚のこともありますので、危険を感じたらダイブアウトしていただいて構いません』

「……分かりました」

 気乗りしていない夜光を動かすため、桂香は万一の際にダイブアウトする許可を出す。


 通常WTuberがそれを行うことはよくないとされているが、痛覚を得てしまった夜光の魔動体(アバター)が破壊された際、地球で操作している悠星にどんな影響があるか分からないのだからやむを得ない。

 今は配信しているわけでもないため、その程度の融通は利かせても構わないというのが桂香の判断だった。


「……これが、調査境界(エンドフロンティア)……」


 スティーリアと共にWTuberがほとんど開拓できていない領域に足を踏み入れた夜光は、そこに広がる勇壮な大自然に思わず息を呑む。


 調査境界(エンドフロンティア)の外に広がっているのは、WTuberの力では抗うことのできない強力な力を持つ存在が支配する領域。

 この異世界において、人類は地球における人類のように世界の支配者ではない。

 人間などとは比べ物にならない圧倒的な力を持つ存在が暮らすこの調査境界(エンドフロンティア)では、数十人、百人でパーティを組んでいるガチ勢と呼ばれる異世界調査と戦闘のみを主としているWTuber達でさえ、即座に全滅してしまっていた。


 とはいえ、調査境界(エンドフロンティア)などと大仰な呼び方をしているが、それはあくまで〝WTuberにとって〟でしかない。

 この異世界(インバース)に住む者達の中には、この場所を気ままに闊歩できる実力者も、それなりに存在しており、そんな者達に連れられて調査境界(エンドフロンティア)を観察する配信もごくまれには行われていた。



「……!」


「早速来たわね」

 そうしていると、夜光とスティーリアの気配を感じ取ったのか、森の中から巨大なモンスターが出現する。

 獅子のような頭部に牛のような太い二本の大角を持ち、筋骨隆々とした肉体を持つその偉業は、剣のような牙を剥き出し、雷鳴のような咆哮を上げて夜光とスティーリアを圧倒する。


『「グランビースト」。あまりにも強すぎるために、これまでどのパーティも討伐に成功していない強力なモンスターです』


「よりによって質の悪い敵に出会ったわね」

 脳裏――魔動体(アバター)の意識に直接届けられる桂香の声を聞く夜光に、スティーリアが険しい表情を浮かべて呟く。


 今夜光が対面したモンスター「グランビースト」は、LIVEALIVEの精鋭たちですら太刀打ちできないほどの強さを持っている。

 自分達が返り討ちにされてしまった時のことを思い返して柳眉を顰めるスティーリアの目の前に、夜光がゆっくりと進み出る。


「『DXXXFORCE(デクセサスフォース)』――!」


 夜光が意識の中でそのコマンドを発動させた瞬間、先日同様にその身を漆黒の力が包み込み、姿を変化させる。


「これは……!」

 魔動体(アバター)の身体はあくまで作られたもの。魔動体(アバター)を操作せずに生身の人間のように服を着替えたり姿を変化させることなどできない。

 だというのに、確かに夜光の姿は変化し、その属性も光から闇へと変わっていた。


(これが、噂の彼の力……)


 漆黒の鎧と王冠を思わせる角を手に入れた夜光の変貌を目の当たりにしたスティーリアは、その姿に息を呑む。

 スティーリアが見守る前で、自らの武器である黒大剣を顕現させた夜光は、自分を見据えるグランビーストと相対する。

 それを見て鬣のような毛を逆立たせて怒りのような闘志をむき出しにしたグランビーストは、咆哮と共に夜光へと襲いかかる。


(疾い……!)


 一流のWTuberであるスティーリアにすらほとんど視認できない圧倒的な速度。これまで幾多のWTuberパーティを屠ってきたグランビーストの速力が夜光へと襲い掛かる。

 瞬間、硬質な爆音が響き、夜光が持つ漆黒の大剣とグランビーストの爪がぶつかり合って生じた火花が輝く。


(防いだ!? あの速度を真正面から受け止めて弾くなんて、どのWTuberにもできない)


 自身もグランビーストと戦ったことのあるスティーリアは、反応することすら困難な速力に加え、それ以上に防ぐことが困難を極めるグランビーストの圧倒的な膂力と夜光が拮抗したことに驚愕を禁じ得なかった。


(こいつ、強い……! でも、戦える!)


 グランビーストの爪による一撃を大剣で防いだ夜光は、黒く染まった刀身を介して感じた衝撃を感じながらも、不思議と恐れを感じていなかった。

 そして、そんな自分の感覚に、夜光は違和感や疑問を抱くこともなく、ただ目の前にいるモンスターに向けてその力を解き放つ。


「ウオオッ!」

 黒い大剣から放たれた斬撃が闇の力の刃となって奔り、グランビーストを圧倒してその巨腕を切り飛ばす。


「……っ!」

(グランビーストにあんな大きな傷をつけるなんて……私達が戦った時に、あんなことできなかったのに)


 傷口から大量の血を流し、苦悶と怒りの咆哮を上げるグランビーストを双眸に映したスティーリアは、その信じ難い光景に思わず息を呑む。

 たった一体で数十人からなるWTuberのパーティを崩壊させる力を持つグランビーストと互角――否、圧倒しているように見える夜光の姿に、スティーリアの硬質な瞳はかすかに揺れていた。


(いける……!)


 漲る魔素を肉体に巡らせ、力と速さに任せて腕や尾を振るい、口腔から灼熱の炎を吐くグランビーストを、夜光は大剣で迎撃し、時に身を躱して追い詰めていく。


「トドメだ!」


 自身の攻撃でグランビーストに生じた大きな隙を見逃すことなく、夜光はDXXXFORCE(デクセサスフォース)によって鎧状に変化していたマフラーを伸ばす。

 まるで意思を持っているかのように空を奔ったマフラーが鞭のようにしなってグランビーストの身体に絡みつき、その巨躯を引きずり倒すと同時、大剣を手にグランビーストへと肉薄した夜光が、闇の力を纏う刀身を一閃させる。


「これで終わりだ!」

 刹那、天に奔った漆黒の斬閃が消えると、グランビーストの頭部が身体から分離し、鮮血のシャワーをまき散らせながら崩れ落ちる。


「本当に倒してしまうなんて……」

 地響きめいた音を立てながら首を失ったグランビーストの身体が倒れると、それを見ていたスティーリアは目を見開いたまま呻くように呟く。

 今自分が目の当たりにしている光景に現実感が沸かず、しかしこれまで自分を含めてどんなWTuberもが成しえなかったことに、高揚を禁じ得なかった。


「……ふぅ」

 グランビーストが完全に息絶えたのを確認し、DXXXFORCE(デクセサスフォース)の発現を停止させた夜光に、スティーリアは興奮で高鳴る胸を抑えながら歩み寄る。

「すごいわね」

「ありがとうございます」

 昂る感情を抑えて語りかけたスティーリアは、どこか他人事のような夜光の反応に疑問を覚えて尋ねる。


「もっと喜んだら? WTuberの中でこのグランビーストを倒したのはあなただけよ」


「でも、この力が何なのか分からないから……これで勝っても、本当に俺の力なのか自信がなくて」

 突如己に宿ったDXXXFORCE(デクセサスフォース)の力が絶大無比であることを認識したものの、それが何なのか分からないことで素直に喜ぶことができない夜光の言葉に、スティーリアは目を細める。


「思っていたよりも真面目なのね」

「そう、ですか?」

 優しい声音で紡がれたスティーリアの言葉に、夜光は苦笑を返す。


「気を悪くしたならごめんなさい。あなたのそういう考え方はとても好感が持てるわ」

「ありがとうございます」

 異性に褒められることなどこの数年なかった夜光は、スティーリアの言葉に照れてしまう。


『それでは夜光さん。次は――』

 DXXXFORCE(デクセサスフォース)の力を確認した桂香が次の要求を出そうとしたその時、叢が揺れる。


「――!」


 それに反応した夜光とスティーリアが視線を向けた瞬間、生い茂る緑の中から現れたのは、金色の髪をなびかせる耳の長い美女――エルフだった。


「ごめんなさい。驚かせるつもりはなかったんですが」


「あ」


「あの時の……!」

 柔和な声音で微笑を浮かべるエルフの女性を見て取った夜光とスティーリアは、そのエルフが先日怪物と戦った時に共に戦った人物であることに気づいて目を丸くする。

 なぜかダイブアウトできなくなっていた自分を強制的に落としてくれた命の恩人でもあるエルフとの再会に、夜光は小さな感激を覚えていた。


「そちらの異界人の女性は、先日ご一緒しましたね? そちらの方は――」


 スティーリアの姿を見て人形のように整った美貌に微笑を浮かべたエルフの女性は、次いで夜光へと視線を向けて言葉を詰まらせる。


「あなたがあの時、頭を射抜いて助けてくれた私達の仲間ですよ」


 その言葉の間が夜光を認識できていないことからくるものなのではないかと察したスティーリアは、すかさずに声をかける。


「え? ……異世界の人ですか?」


「いや、いいんですよ。俺、影が薄いですから。ハハ」

 それを聞いたエルフの女性の反応に、夜光は肩を落として乾いた笑みを浮かべる。

 命の恩人だと思っていた相手と再会したというのに、その相手の記憶に残っていたかったことにショックを受けてしまった夜光とは裏腹に、エルフの女性は剣呑な視線を向けてくる。


「でも、魂がこっち側にありますよ?」


「……え?」

 次いでそのエルフの花びらを思わせる可憐な唇から紡がれた言葉に、夜光とスティーリアは目を丸くした。





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