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WTuber  作者: 和和和和
15/25

炎上と対策




「……うわ、めっちゃ燃えてる」


 DXXXFORCEという謎の力を初めて使ったその後、夜光こと悠星はネットに目を通して辟易した様子で呟く。


「夜光って奴が使ったアレなに?」

「見たことない魔法の威力だったし、姿も変わってたぞ」

「新機能じゃねぇの?」

「でも、他のWTuberは誰も知らないって言ってるぞ」

「デビューしたばっかの新人に新形態とか搭載しねぇだろ、バカか」

「やっぱチートじゃね?」

「改造ってことか? クソヤローじゃん」

「でも、そんなことできるんか? 魔動体(アバター)は冒険者ギルドの独占技術で、今のところ他の国で実用化もできてないんじゃなかったか?」

「たしかに。それができたなら、天才だな」

「>ちょっと配信見てきたけど、そんな頭よさそうな感じはなかったぞ」

「じゃあ、やっぱりチートじゃん」

「決めつけるなよ」

「公式の発表待つしかないだろ」


「勝手な事言いやがって。あれが何なのか、こっちが教えてほしいくらいだよ」


 自分を出汁に盛り上がり、燃え上がるコメント欄を見ながら悠星が肩を落とすと、部屋のインターフォンがそんな陰鬱な気分とはかけ離れた軽やかな音を立てる。


「夜光さん。本日の配信についてお話をお聞きしたいんですが」

「はい」

 追い打ちをかけるように現れた桂香と冒険者ギルドの職員の来訪に、悠星は小さくため息を吐くと扉を開けるのだった。


「――つまり、今日ダイブしてみたら、魔動体(アバター)に見たこともない機能が入っていたということですか?」


「はい。絶対に不正とかチートなんて使ってません!」

 桂香と冒険者ギルドの職員に一通りの説明をした悠星は、自身の身の潔白を力強く主張する。


「それは疑っていませんよ。夜光さんにそんな技術や知識があるとは思えませんから。ただ、こちらでは夜光さんが仰るようなコマンドは確認できていませんし、調べてみても異常は見られないんですが……」

 悠星に落ち着くようにジェスチャーをした桂香は、同行していた技術者に一瞥を向ける。

 しかし、DDを調べるためにやってきた技術者達にも特に異常は見つけることはできず、芳しくない返事が返ってくるだけだった。


「本当なんです。それに、今日は魔動体(アバター)の調子もおかしくて」

「おかしい?」

 悠星から攻撃を受けた際に痛みを実際に感じたことを聞いた桂香は、思案気に眉を顰める。


魔動体(アバター)で痛みを感じたんですか?」


「はい。なんか本当に血が流れて」


「……わかりました。一度診てみましょう。明日冒険者ギルドの方へ出向いていただけますか?」

 悠星の言っていることがありえないと思いつつも、嘘をついているようにも見えないその様子に、桂香はひとまずそう答える。


「分かりました」

「とりあえずDDはお預かりしていきます。あと今回の一件について夜光さんは一切ツイートをしないでください」

「……はい」

 炎上するネットに本人が弁解や言い訳をしないように釘を刺した桂香は、悠星のDDと共に冒険者ギルドへと帰っていった。

 その日、WTuber夜光はネットのトレンド一位を獲得したものの、悠星は何一つ喜びを感じることはできなかった。



※※※



「真藤さんの検査をさせてもらいましたが、特に異常は見られなかったとのことです。DDの方も問題ないと連絡が来ています」

 翌日、冒険者ギルドを訪れ、念のために検査を受けた悠星は、桂香から身体とDDの検査結果を聞かされる。


「そうですか」

 何もなかったのは朗報というべきなのだろうが、自分に起きた異常がなんだったのか知れるかもしれないという淡い期待も打ち砕かれてしまったことを残念に思ってしまうのは無理からぬことだろう。


「ただ、こちらとしても何らかの見解を示さなくてはなりません。これからあの力を実証させてください」


「はい」

 異常が見られないとはいえ、冒険者ギルドとしては、リスナーに夜光が見せた力についての見解を示さなければならない。


「一度ダイブして異常が継続しているか確認してみましょう。こちらで用意をしておきますので、ダイブルームにお越しください」


「分かりました」

 冒険者ギルドには、ダイブルームと呼ばれるDDが常設された部屋が用意されている。

 本来は、WTuberが視聴者向けのライブやオフコラボ、企業からの案件などを共同で行うために使用されるものだが、今回は悠星と夜光の調査のために使用されることになった。


「お疲れさまでした」


 ダイブルームへと向かう悠星を見送り、自身は別室へと移動しようとしたところで、桂香は別室から出てきた一人の少女を鉢合わせる。


「ああ、〝スティーリア〟さん。オフコラボは終わったんですか?」


「もう、ここではその名前で呼ばないでくださいよ」

「すみません」

 その少女の姿を見止めた桂香が呼びかけると、その少女は気さくで人当たりの良い性格を感じさせる微笑で応じる。


「彼は? もしかして、今話題の人ですか?」


「えっと……私の立場ではちょっと」

 その視線を向け、悠星の後ろ姿を見て取った少女が尋ねると、桂香は曖昧な笑みと共に言葉を濁す。

 しかし、その反応を見れば答えを言っているような物であることは明らかだった。


「じゃあ、一つ教えてください」


「?」

 不意に話を切り出された桂香は、柳眉を顰め、続く少女からの言葉に耳を傾けるのだった。




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