表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/4

第四話 「大好き」なんて言わないで!

「……また『かしわん』の声を聞いてるのか?」


 数日後、お弁当をくれると言うので屋上に来てみると、花宮はスマホに繋がったイヤホンで何かを聴いていた。


「……そうよ、悪い?」


「いや、悪くはないが……それよりも、転校数日で立ち入り禁止の屋上にいる方が、悪ではあるな」


「え!?サキが屋上は人が来ないから穴場スポットだって……」


「……立ち入り禁止だから、人が来ないんだろう」


 同じく幼馴染であるサキに完全にからかわれている花宮は、はあと大きく肩を落とした。


「まあ時々使っている人もいるし、見つからなければ大丈夫だろう。……となり、いいか?」


「と、となり!?いや、そりゃそうよね、でも……。3メートル、離れて座って!」


 弁当を食べる時でもこうか。……やはり、相当嫌われているらしい。俺は大人しく3メートル距離を取って座り込んだ。


「……相変わらず、かしわんが好きなのか?」


「うん、好きよ。……ほら、私、父親がいないじゃない?だからかな……寝る前にかしわんの声を聞くと、落ち着いてよく眠れるの」


 花宮はイヤホンを胸に抱き、空を見上げて呟く。


「だからかしわんは、私の理想の父親像なのかもしれない。小さい頃は、それが分からなかったな……」


「あの……俺の声は、かしわんの声に似ていたり……しないか?」


 恐る恐る聞くと、花宮は驚いてこちらを振り向いた。

 

「は!?アンタの声なんか、似ても似つかないわよ!かしわんの声は渋くて大人っぽくて、聴いていると安心して……。アンタの声は、その……心拍数の上がるような……」


 その反応に、俺は大きくため息を吐いた。


「そうだよなあ……。毎回花宮に赤い顔をさせてちゃ、安心とはほど遠いよなぁ……」


「え!?そ、それ、どういう意味で……」


 花宮はビクリと体を浮かせ、耳まで赤くして目をパチパチとする。

 

「ほら、どうしてか分からないが、俺が話すと顔が林檎みたいに真っ赤になるだろ?……嫌いな俺の声を聞いて、怒っているのか?」


「おっ……怒ってるわけじゃ……」


 花宮は体育座りをした腕の中に顔を埋めて、ぶつぶつと何かを呟いている。


「大好きな花ちゃんを振り向かせようと思って、今まで色々頑張ってきたけど……全部無駄だったか。そんなに嫌いなら、やっぱりもう関わらない方がいいか?」


「……は?今、なんて?」


 花宮が急に顔を上げ、先程とは打って変わって真っ白な真顔でこちらを見つめる。


「いやだから、そんなに嫌いならもう関わらないって……」


「その前よ、その前!」


「ああ、花ちゃんが大好きだから振り向いて欲しくて……って」


 言い終わるのを待たずに、花宮の顔が再び真っ赤に戻っていく。


「うわ、怒ってるのか?……そりゃ、嫌いなやつに好きって言われたら気分が悪いよな、ごめん」


「いや!待って、違くて……ちがうの」


 花宮は立ち上がり、両手で顔を覆っている。膝はふるふると震え、指の間から見える顔は変わらず赤い。


「怒ってる……わけじゃない。怒るわけない。だって、だって私……」


 両手を下ろして、薄く涙の溜まった目で花宮が俺を見つめる。


「昔から、ユースケのことが……大好きだったから!」


 花宮はぎゅっと目を閉じ、叫ぶようにそう言った。

 

「……え?あの時、大嫌いって……」


「あれは……!私が引っ越す時、アンタがあまりに泣くから……悲しいし、好きだし、離れたくないし、泣かせたくないし……感情がぐちゃぐちゃになって……」


 へなへなと座り込んだ花宮は、指で地面にくるくると円を描いている。


「それにあの時のアンタが、あまりにも『かしわん』と違うのに……理想と違うのに、好きなのはおかしい!って思っちゃって……」


 花宮は俯いたまま、チラリとこちらを上目遣いで見つめる。


「だから、その……ごめん」


「いや……いいよ。うん、いい。……じゃあつまり、俺はもっと花宮に近づいて良いってことだな?」


「え!?それはちょっと……心の準備が」


 返答を待たずに近寄り、花宮の隣に腰掛ける。少し動けば、肘同士が触れてしまいそうな距離だ。


「昔みたいに、花ちゃんと呼んでいいか?それとも……ほなみ?」


「まってまってまって、ちょっと待って!過多!供給過多すぎる!!」


 花宮は小さな両手で、俺の顔を押し退けようとしてくる。本気で嫌がっているのでないと分かれば、それが可愛くて仕方がない。


「ははっ、また林檎みたいになって……かわいいな、ほなみは」


「あ……駄目、もう無理……」


 耳元で囁くと、花宮はプシューと音を立ててショートしてしまった。


 大丈夫、時間はたっぷりある。

 これからは、何度でも君に「大好き」と言おう。


 遠くで、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

作者にとって初の完結短編となりますが、お楽しみいただけましたら幸いです。


もし少しでも面白いな!と思っていただけましたら……評価やブクマいただけますと、大変励みになります……!


最後に、自作の宣伝で大変恐縮ですが…

長編作品となります『神が推す!悪役令嬢に仕立て上げられた聖女は、攻略対象者たちを“救済”します!』も併せて読んでいただけましたら、こんなに嬉しいことはありません!


かしわん似のポジティブマッチョが出てきます。

マッチョフェチではないのですが、何故かマッチョを書いてしまいます…。


改めて、お読みいただきまして、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ