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どちらが勇者かわからない  作者: ちくわ犬
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そしてアンバーは旅にでる

「これで準備は大丈夫かな。フードはしっかりと被って、埃避けのマスクもするんだよ」


「わかってるよ」


 出発の日、皆が私を見送るために集まってくれていた。猫獣人のコウメ婆ちゃんから瓶詰の保存食をたくさん貰ったし、小人族のジクル爺ちゃんは薬草をたんまりくれた。あと、帽子とか、スカーフとか、皆心配らしくいろんなものを持ってくるので、よくわからないままお礼を言って受け取った。


「村の外には女の子を狙う悪い人がたくさんいるからね。出来るだけ素顔はさらさないように」


「わかってる……てか、だからこんなマスクなの? 怖くて誰も声かけないって」


 でっかい吸い込み口のついた塵避けマスクを渡される。こんなのあやしくて捕まっちゃうじゃん。


「ああ、なにをしても可愛くなってしまう……アンバー……」


「そう思ってんのパパだけだからね」


「アンバー、これ、渡しておくけど……あのね、手加減しないと人は死んでしまうの。魔物とは違うからね、わかってて使ってね」


 そう言ってママからはハンマーを渡された。なんで、ハンマーよ。武器なの? それでも親心かと思えば、ハンマーを背中に背負った。荷物はなんと、パパが異空間に収納できる機能の付いたポシェットを譲ってくれたので全部そこにしまった。


「それから、これは地図ね。キオさんが作ってくれたから」


「わあ、すごい! さすがキオ爺ちゃん」


 ドアーフ族のキオ爺ちゃんは魔道具作りが得意だけど、最近目が悪くなったって言って滅多に作ってはくれない。きっと私の旅の為に頑張ってくれたんだな……。皮のバンドに丸い魔道具が付けられていて、手をかざすとと地図が投影される仕様になっている。閉じて簡単な呪文を唱えると目的の場所を差す矢印が差すように作られている。


「やっぱりキオ爺ちゃんは天才だね!」


「よせやい。アンバー、気を付けるんだぞ」


「お土産買って帰るから楽しみにしててね。ふふふ~王女様からのゴールドカードがあるもんね~」


 村のみんなの顔を見ながら心配しないようにニコニコする。本当はちょっと不安だけど。


「お金は考えて使いなさい。いくら王女様から使っていいって言われていても、後で返して、なんて言われたら大変だからね」


「そ、そんな可能性ある?」


 ママに言われて大きな気持ちになってたのが急に縮こまる。皆の顔を見ると頷いているので、お金はなるべくママから受け取ったもので賄おう……。


「じゃあ、行ってくるね。……帰りはもしかしたら、クラウスも一緒かもしれないし、そうじゃないかもしれないけど、まあ、無事に婚約破棄はしてくる」


 私の言葉にまた皆がうんうんと頷いてくれる。そして、皆が私の頭を優しく撫でてくれた。寂しくなるのが嫌な私は、くるりと背中を向けると一度だけ振り返ってバイバイと手を振って歩いた。


 手首にある魔道具の矢印はクラウスのいる王都を指し示していた。




 ***




「ええと、クラウスたちもここを通ったのかな……」


 村を出ると初めに向かうのはうっそうと茂る木の生える妖精の住む森である。妖精と言ってもパパのような言葉が通じる大きさのものではなく、手のひらサイズの羽の生えた妖精がたくさん住んでいる。この森には特別な泉があって、その近くで暮らしているのだ。


 この森は気まぐれで、一日で通り抜けれる時もあれば何日も足止めを喰らうこともある。王都に向かうには森をぬけるのが近道だが、回り道をして三日くらいだろうから、森の気まぐれを考えればどちらが早いかはわからない。


「我が名はアンバー。ドッコム村からきた。この森を通る許可を求める。それと、今回は早く通りたい!」


 妖精の住むこの森は心の曇った人間が嫌いで、森に嫌われるととことん意地悪されて行く道を妨害されてしまう。逆にまだいて欲しい時も外になかなか出してくれないのだけど。でもちゃんと許可をとれば親切にしてくれる。高確率で要望を聞いてくれるのは私にパパの妖精の血がながれているのもあるかもしれないけれど。


 しばらく待っていると小さな妖精が飛んできた。


「ティカ、お久しぶり。案内してくれるの?」


 黄色いお花の妖精は私のことがお気に入りでよく来てくれる。彼女はニコニコ頷いて私の体の周りを回った。


「あ、そうだ」


 そう言えば、出かけにたくさんの飴玉ももらっていたのを思い出した。妖精たちは甘いものが大好きなのだ。ポシェットに手を入れて小さな飴玉を一つ出すと私はティカに渡した。受け取った彼女は嬉しそうに羽をはためかせた。


「森のあっちの出たいんだけど、クラウスを追って王都に行くから急いでるの」


 私が言うとまたティカが頷いて先導してくれた。そんな彼女の後を追いながら私はぼんやりと長老の話を思い出していた。


 人を惑わし、破滅させる『カゲロウ族』


 妖精族は背中に羽がつくのが特徴だ。大抵は手のひらくらいの大きさで、パパのように知能が高く人型に近いものは珍しく、またそういう場合は背中にも羽はない。パパが特別な妖精族であることは知っていたけど、まさか、そんな妖しいものだったとは……。


 私が思ってるより外の世界は広いのかもなぁ。そんなことを思いながら森を歩いた。


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