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どちらが勇者かわからない  作者: ちくわ犬
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いたよ、勇者が


主に女の子が仲間(女の子)を増やして冒険していく話ですのでよろしくお願いします。


**たぶん区切りの良いところで休み休みのんびり連載すると思います**



「ねえ、アンバー。僕のお嫁さんになってくれるよね」


 これが幼馴染のクラウスの口癖だった。


 ここはとっても辺鄙なドッコム村。村人も五十人程度しかいないし、右を見ても左を見てもお爺お婆である。でもいろんな種族が住んでいて、長命が多く長老なんて三百歳を超えていた。


 そんな村の子供はクラウスだけだったし、朝起きて、遊ぶのも家の手伝いをするのも勉強するのもずうっとクラウスと一緒だった。だからどうしてクラウスがこんなことを言うのかなんて、考えたこともなかった。生まれてこのかた、お風呂だって水遊びだって、小さいころは眠る時も同じ布団だった。クラウスが男で私が女ということに疑問は持ったことはあるが、クラウスと私が夫婦になるなんて想像できない。


 だから私はいつもこう答えていた。


「クラウス、もっとちゃんと考えなよ」





 ***


「嫌だ!俺は勇者になんかならない!!」


 前方で幼馴染が喚いているのを冷めた目で見た。あいつ、本気で断る気だ。私には分かる。


 三日前。この鶏の鳴き声と共に起き、日暮れと共に寝てしまう様な辺鄙な村にそりゃあまあ豪華な一団がやって来た。白い鎧は白金で出来ていてピカピカで眩しい。連合国の王様直属の騎士様たちらしい。なんでもこの地に勇者がいるとご神託が有って探し回っていたそうな。ご苦労なことである。――一週間前にクラウスがひと山吹っ飛ばしてしまったのがバレて怒りにきたのではないだろうかとひやひやした。


 十年ほど前に魔王が復活して、いたるところに魔物が現れるようになった。


 山に元々いたイノシシなんかが魔物になったようで、狂暴かつ変な魔法を使ってくるようになったので仕留めづらく困りものだ。まあ、仕留めたものは食べられるから前との違いは見た目が悪く、強くなっちゃったって感じなのだけど。……と辺鄙な田舎ではこの程度の変化だった。けれど都会ではそれでは済まなかったらしい。


「魔族が城を襲うようになり、人々は怯えて暮らしています。どうか、クラウス様のお力をお貸しください」


 村に一団が着いたと同時に若者(と言って声をかけてきたが私とクラウスの二人しか該当しなかった)は広場に集められて、魔道具によってその属性と魔力量を測られた。当然そんなものお目にかかったことなどないし、ちょっと緊張したがワクワクもした。そこで私がほんのちょっと程度だったのに対しクラウスは魔道具が壊れてしまうほどの魔力の持ち主だと判明した。


 いたよ、勇者様が。


 まあね。村中のみんなが納得なのですよ。それこそ力の加減が出来ない小さい頃なんて、いろんなものを吹っ飛ばしてきたんですからクラウスは。規格外だろうとは感じてたね。村では大きすぎて使いようのない魔力だけど、魔王と対峙するならいいんじゃね? って測量計が壊れちゃったのを見て納得だわ。


 因みに一週間前にひと山吹っ飛ばしたのは、私がプロポーズを断ったために絶望したクラウスが久々に魔力を爆発したからなんだよね……。なんで成人すらしてないのに結婚の約束させられなきゃならないのよ。迷惑な奴だ。


「ここはまだ平和かもしれませんが、魔物は増えつつあります。魔王を倒さない事には世界に平和は訪れないでしょう。どうか、私たちと戦ってください」


 団長と名乗った男の人が甲冑から素顔を出してお願いしている。おお、ちょっと釣り目で意地悪そうだけど、金髪、碧の瞳で絵本に出てくる王子さまっぽい。騎士団長は魔力が強いようなのでエルフ族のようだ。ちょっとだけ耳がとがっている。クラウス、一緒に戦ってやれ。お前の無駄な力が今こそ役に立つではないか。


「まあまあ。ほら、もしも魔王なんて倒せたらほら、たんまり褒賞を貰って王女様と結婚とかできるかもしれんぞ?」


 村長がそう諭す。いいぞ、もっと言ってやれ。と私が心の中で応援しているとクラウスが声を張り上げた。


「俺はこの村に家も畑もあるから褒賞なんていらない。それに、嫁はアンバーしか考えていない」


「ハア!?」


 いきなり何を言い出すのだ、あいつ! それまで他人事だと眺めていた私にみんなが注目したじゃないか!


「なんだ、結局、夫婦になることにしたのか?」


 ずっとクラウスのプロポーズを断っていることを知っている村長が下唇を出して私に聞いた。んなわけがあるか。


「クラウスの嫁にはならないから! はっきり断ったよね!?」


「アンバーが嫁になってくれるなら勇者になってもいい」


「ハアア!? なに、言ってくれちゃってんの!?」


「俺はまだここでやることが有るんだ! アンバーを口説きまくって嫁にするという目的が!」


 クラウスが馬鹿なことを言うたびに私に注目が移る。


「「「「「……」」」」」


「つまり、それは、そこにいるアンバーさんと結婚できるようにすれば、勇者として魔王を倒しに行ってもらえるのですか?」


 おい、騎士団長! 部外者のくせにクラウスに全面協力しようとするんじゃない!


「だから、む……むむぐ」


 断ろうと息を吸い込むと村長が私の口を塞いだ。みんなの目が生ぬるい。だって、クラウス、変態じゃないか! 嫁なんて嫌だ!


「アンバー……ここは、ほら、婚約しときなさい。王都に行っていろんな女の子を見たらきっと目移りしてお前の事なんてすぐ忘れるさ。少しの我慢だ。……どうせこのままクラウスが村にいたら既成事実を作られて嫁になる未来しかないぞ」


「ひいいいっ」


 耳元で村長が怖い話を囁く。……確かにこのまま村にクラウスがいたら、無理やり嫁にってのもあり得る話だ。都会に行くと人が変わるって言うし(ばあ様談:都会は恐ろしい編)、綺麗な女の人をたくさん見たらクラウスも気が変わるかもしれない。仕方ないと村長に頷くと私はクラウスに告げた。


「みんなを救ってくれるんだったら……取りあえず婚約だけ」


「え!? アンバー!! ほんと!? 勇者になったら嫁になってくれる!?」


「婚約だけだよ! まあ、あとは魔王を倒したら考える」


「騎士団のみんなさん! 俺を魔王のところへに連れて行ってください!! 今すぐに!」


 急にクラウスがビシッと立ち上がり、騎士団長に告げた。ちょ、決断、早いなおい!


 村長を見るとウンウンと頷いていた。これで良かったんだよね? 私、嵌められてないよね? 大喜びのクラウスを見て不安になった。


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