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第3楽章〜上手に焼けました〜


 ……うん?何も起きない……?一体、何が起こったんだ…?いつまで経っても噛まれないし、痛くないし…もしや痛みすら感じずに死ぬことができた?それはそれで良かったかもしれない。怖いのは耐えられるけど、痛いのは苦手だからなぁ。中学校の時、仲が良かった友達と昼休みにしょっちゅうサッカーをやって、突き指しては落ち込んでいた苦い思い出…指揮棒持てなくなるし、ピアノ出来なくなるから嫌だった……まぁ、レッスンをサボれるから喜んでた反面もあったけど……しかし、本当に何もないのか……?


 

 うっすらと、徐々に目を開けると衝撃の新事実。あれ、狼もどきたちが動かない……死んでる?寝てるってわけでもなさそうだし……なんで?


 

 そこで新しい発見があった。右手にいつの間にか持っていた指揮棒が、ほんのりと発光していた。別に蛍光塗料を塗った記憶はない。



なんで?……………いや……まさかね……この指揮棒で……?



いやいやいやいや、ないないないない。でも……



 確証が欲しかった。外から見れば変かもしれないが、幸いここには誰もいない。変な目で見られる心配もないので、実験をすることにした。試しに、4拍子で指揮を振ってみる。…………うん、何も起こらない。指揮棒を剣に見立てて、縦に振ってみる。……切れたりはしないし、くっ!なんだこの風圧はっ!ともならない。その後も色々と指揮棒を使って試してみたが、何も起こらなかった。うん、完全に謎だ。



 しかし、助かったんだ。完全に死ぬと思ってた。諦めも半分入っていたし。いやー……助かったなぁー……なんて考えていると、『グギュルギュルギュル……』



……途端に腹が減ってきた。くっ、こんな時でも、いや、こんな時だからこそなのか?人間の生存本能なのか、安心した途端にこれだ。人間とは現金な生き物だ。



 (どうしよう、練習直前だったから学校の鞄は一緒に飛んできていないし……母さんの弁当はあっちの世界か……腹が減った……)



 そこで気づいた。そう、目の前の狼もどきに。普段だったら考えられないし、思いつきもしないであろう。しかし、この時は違った。



 (…これしかない。生き延びるんだ。生き延びて、他の仲間と先生と合流する。それから先は、その時に考えれば良い。とにかく、生き延びる方法を探すんだ。まずは、この狼もどきを…)



 解体するナイフや火を起こす道具など、全く何もない。つまり、生で食べる選択肢以外ないのだ。幸い、少し先に川のようなものが見えるから、1体だけそこまで引きずって、そこで洗ってからにしよう。そう考えてからの行動は早かった。いや、早くせざるを得なかった。なぜか、極度の空腹状態に陥っていたから。早く食べなければ、餓え死んでしまう。そんな感覚さえ襲ってくるほどだった。そんなはずはないのに、しかしそれを疑うことさえせずに。



 川沿いにつき、狼を下ろす。ちょうど良い大きさの石を見つけて、それを狼の腹部に何度か叩きつける。かなりグロいが仕方ない。そうして腹を割ったら、川の中に突っ込み洗う。ちょっと乾かしたほうがいいかもしれないな。近くに木の一本もないから、火を起こすこともできなさそうだ。あってもできなさそうではあるが。乾くまで少し待とう。あぁ、こんな時、もう少しサバイバル技術でもあれば……Mytubeの動画のようにソロキャンプ気分でできたかもしれないのに……どうやったらこの狼肉を美味しく食べられるだろうか。まずは塩胡椒は鉄板だな。串焼きなんかにして、食べる前にジュージュー言ってるところにレモンなんかをちょっとかけて……あぁ、涎でそう。拓人の3分クッキングー、なんてね。



 そんな妄想に耽りながら、自然と手が動いていた。某番組のシロフォンの音が、脳内で軽やかに再生されていく。


 

 そして今、目の前にはまたしても不可思議な風景が広がっていた。



……だから、あまりにも訳がわからないんだって…なんで?どうして?なぜこうなっている?



 そう、妄想に耽っていた拓人が目を開けた先には、想像通りの串焼き狼が完成していたのだ。ご丁寧に、味付けされて。



 上手に焼けました?

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