第1楽章〜始まりの鐘の音〜
「おはよー!」
「おはよ〜!」
どこにでもある朝の風景。その日は、土曜日の休日練習であり、部室で準備を終えた生徒たちが音楽室に集まっていた。ここは、千葉県にあるそこそこ大規模な高校吹奏楽部。部員は全部で120名ほどの大所帯ではあるが、男女比は1;9というかなり偏った編成だ。
「今日合奏かなぁ? マーチングかなぁ?」
たわいもない会話をしながら挨拶をする集合時間までを過ごす部員たち。そこに部長が隣の音楽準備室から出てくる。今日の予定を顧問と確認していたのだろう。メモ帳を片手にぶつぶつと呟きながら歩いている。
「起立! これから今日の練習を始めます! お願いします!」
「「お願いします!!」」
一糸乱れぬ、という表現がそのまま合う挨拶から始まる。120名もいれば、ある程度の統率が取れていなければ部活は回らない。それもこれも伝統的な教えがあったり、これから社会に出るときに役立つようにとの顧問の教えだったりする。出席確認をし、柔軟や合唱などをしてから楽器の準備に入る。120名が一斉にそれを行えるのだから、かなり広い音楽室である。
『リィィーーーーーン……!! ゴォォーーーーーーン……!!』
そんな音楽室の中に、突如大音量の鐘の音が鳴り響いた。音の下方向がわからないくらい大音量で鳴り響いたため、全員が耳を抑えながら一斉に打楽器の方を向くが、打楽器はチャイムどころか、まだ楽器にかけられている毛布すら触れていない。倒れた楽器もなさそうだ。
『リィィーーーーーン……!! ゴォォーーーーーーン……!!』
『リィィーーーーーン……!! ゴォォーーーーーーン……!!』
重なっていく鐘の音。続く大音量に耳を押さえながら苦しそうにしゃがみ込む人もチラホラと見える。
「なんだ、何事だ!?」
と、そこへ顧問が準備室から音楽室に入ってきた瞬間。床が白く発光し、幾何学的な模様が浮かび上がった。誰かの、「え……まさか……?」という声は、当然誰かに届くわけもなく。
その日、音楽室は拍を空ける事も無く突然の静寂に包まれたのだった。