クリスマスプレゼントは雪だるまで。
指定ワードは『雪だるま』です。
「クリスマスプレゼントは雪だるまが欲しい。1000個」
ルシルは投げやりにいいました。
王女ルシルは7歳の時母親を失いました。それから3年。一度も笑うことなく王宮の一室で塞ぎ込んで暮しました。
「王女さま。クリスマスプレゼントはいかがなさいますか?」毎年侍従に聞かれましたが首を振るばかり。
1番欲しいプレゼントは天国に行ってしまったからです。
今年はどうしてもと言われてしかたなく『雪だるまが欲しい』と言っただけでした。
クリスマス当日。
3年ぶりにルシルは城を出ました。家来を後ろに従えて、最初はうつむき気味でした。
クリスマスだというのに、街には全く人がいませんでした。その代わり雪だるまであふれていました。
どの家の庭にも可愛らしい雪だるま。ルシルに向かって微笑んでいました。
ニットの赤い帽子を被っているもの。顔の真ん中にんじんを刺しているもの。暖かそうなマフラーを巻いているもの。みな片手をあげている。まるで挨拶をしているよう。
「かわいい……」
気づくと夢中になって見まわっていました。
どれだけ進んでも雪だるまは途切れることなくありました。道端に、家の屋根に、木の下に。犬やネズミの雪だるままであります。笑っている!
街を一周して城の裏手に戻った時、ルシルは凍りついてしまいました。
そこには氷でできた彫像が立っていました。
170センチほどの高さ。王妃の身長と同じです。
彫りの深い顔立ち。輝く瞳。優しく備わる眉。肩にかかる柔らかな髪。
3年前失ったお母さま。そっくりだわ。
街の中で1番日陰になる城の裏手に大切に保管されていたのです。
そして王国の民が全て揃っていました。その数1000人。全員が一斉に帽子を取ってルシルに敬意を表しました。食い入るように彼女を見つめる。
張り詰めた空気が冬の朝に満ちました。
『ありがとう』
ルシルは彫像に抱きつきました。
頬が冷えるのも構わず首を振って顔をすり付けました。
「お母さま」
ウワァァァァ!!!
人々の間から歓声が上がり拍手がわき起こりました。男たちは肩を組み女たちは互いの体を抱きしめました。
「王女さま!」
「王女さま!」
「良かった! 王女さま!」
王国の人々は王妃が大好きでした。王女の悲しみをみなも共にしたのです。
日が高くあがり彫像はなお一層透明度を増して、あふれる光がルシルの体を包みます。
王女ルシルは左手で王妃の体をしっかりと抱きしめ右手でみなに手を振りました。
3年分の笑顔でした。
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