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#39 ハイリー 弔いの花輪

短いので、もう一話投稿しています。


 ビットの葬儀には弔辞を送るにとどめた。彼のいた部隊が受け持っていた場所の警戒を、我が隊が任されたからだ。

 葬儀に顔をだすより、彼が職務を全うした場所で彼の仲間を守るのが軍人らしいと思った。


 ところが、あの日以降、ぱったりと魔族の攻め手は止んでしまった。

 

 東軍のほとんどの部隊はすでに前線基地に戻っていて、我が部隊は命じられて残留していたが、それでも西部基地到着から一月になる明日を機に、前線基地に戻るよう司令があった。



 最後の会議を終え荷をまとめていた私の部屋のドアをノックする者がいた。


「隊長、用意ができたならすぐに出発しましょう。雨が降りそうです」

「サイネル、お前な……。返事を待たずにドアを開けたらノックの意味がないじゃないか。もし私が着替えているところだったらどうするんだ」

「別に今更見られて困るものもないでしょうに」


 ヨナス・リャーケントとは別の方向に失礼である。

 だが、その手首に掛けた白百合の花輪を見ては、邪険にできなかった。サイネルは私の視線に気づいて、肩をすくめる。


「必要でしょう?」

「ああ、ありがとう」


 肝心なときには気を利かせてくれるこの男が、副隊長で本当によかった。

 先に行って待っていますと言い残し、サイネルは部隊の人間が支度を整え集合する中庭に向かった。


 部屋を引き払い、基地の裏の高い塀沿いにそびえる石碑に詣でた。

 慰霊のために設けられている石碑の前には、この度の犠牲者を慰めるためにか、真新しい花束、花輪に酒の瓶などが供えられていた。そこの山に私も花輪を捧げる。


 吐く息が冷たい。空は鈍色で、厚い雲間から黄色い太陽光がきざはしのように漏れ注いでいる。短くなった髪では、防風の効果が薄く首筋がすうすうする。もうじき冬だ。


 かじかむ手を組み合わせ、祈る。幾人か配下や同期を喪ってきたが、ここまで親しい人間を喪うのははじめてのことで――現実味がなかった。

 あの食堂にビットがやってくるのではないかと毎夜待っていた。


 せっかく、未来の伴侶を見つけられたというのに、君はなにをしているんだ、と筋違いないらだちが浮かんでは消える。イェシュカの、結婚式で見た晴れやかな顔を思い出してしまう。彼女のような笑顔を、その婚約者に君がもたらすはずだったんだぞ。その隣で君も誇らしげに胸を張って。

 ……さぞかし、無念だったろうに。


 もし私の部隊が彼の配置に近ければ助けられたのではないか。そんなの、実際はどうかもわからないのに、今になってもくよくよと考えてしまう。自分の力を過信しすぎだと、テリウスあたりには怒られただろう。あの男もこうして何人もの友人や知人を喪ってきたのだろうか。父や兄たちも、歴代のユーバシャールの男たちも。


 せめて、苦しまずに最期を迎えられたと信じたい。


 善人が死後に召し上げられるといわれる楽園に、彼も到達できたのだと。

昨日のあとがきを見てくださったのか、反応くださった方がいらっしゃって、とても嬉しかったです。

ありがとうございます。更新頑張ります。

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